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地面にぐっさり

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「こっちは広いな、その分遠いな。もっと近くでやってくれればいいのに」
 奥には本当に広い、野球場くらいありそうな場所があった。階段状の観客席っぽいものも規模が違う。騎士たちが二人ずつ組になって、対戦形式の訓練が始まっているが、かなり遠い。知り合いなら何となく雰囲気で誰か分かるかもしれない、という距離だ。
「近すぎると危ないからだと思う。折れた剣先が飛んできたりするから」
 ロイドさまが怖いことを言う。
 うむ、そんなの飛んできたら、素人は避けられないよね。安全第一。
「木剣じゃないから、折れるよりも曲がるほうが断然多いとは思うけど」
 あ、そっか、鉄? か何か知らないけど金属で出来てる剣が、そうそう折れたりしないよね。日本刀みたいに薄い刃じゃないし。


「この距離でも、強い人はちゃんと分かるから」
 問題ない、とロイドさまは言う。
「じゃあ、あの中だと、誰が一番強いんだ?」
 ハンスさまが口を挟む。
「右から二組目、背の高い灰色の服の人だな」
 ロイドさまは即答である。
 ええと、右から二組目の背の高い……ああ、あの人か。
 ロイドさまが一番強いという人を目で追う。均整の取れた体つきをしているので、鍛えているのは分かるけど。
「その相手してる黒い服の人の方が強そうだけどなあ……あっ」
 ハンスさまは、重量級に見える体格の人を推したが、その直後に灰色の服の人が、黒い服の人の剣を軽々と弾き飛ばした。
「きゃああーっ」
 見学の令嬢たちから悲鳴が上がる。黄色い悲鳴ではない、普通の悲鳴である。
 だって、弾け飛んだ剣が、弧を描いて観客席の目の前の地面にぐっさり刺さったんだもん。
「折れなくても飛んでくるんだな……」
 ルークさまは引きつっていた。




「見学者の皆さま、本日は騎士団公開訓練に足をお運びいただき、ありがとうございます!」
 先程剣を弾き飛ばされた重量級の黒服の騎士が、観客席の前にやってきて、声を張り上げた。
「本日は、第一騎士団の訓練となります。この見学会を通じて、騎士団の活動に御理解と御協力を……という建前はともかく、麗しき御婦人方、愛らしき御令嬢方の前で皆張り切っておりますので、どうぞごゆるりと御覧ください」
 固いのか砕けているのかよく分からない口上を述べる。主催者挨拶なのかな。もしかしてこの人、騎士団内では高い地位の人なのかな。
「なお、このように、訓練場内は危険ですので……」
 黒服の騎士は、そう言いながら地面に突き刺さった剣を引き抜く。
「訓練場内への立ち入りは禁止とさせていただいております」
 前世の野球場での『ファウルボールにご注意ください』を思い出させる注意事項だが、飛んでくるのがボールと剣では危険度が段違いである。
 あれ、もしかすると、この注意事項のために、わざと観客席の目の前に剣を弾き飛ばしたのかな。そんな訳ないか、直接投げるならまだしも弾いた剣を思い通りの場所に落とすなんて曲芸の域だよね。
「何かありましたら、皆さまの後ろに立っております騎士にご相談ください」
 後ろの騎士と言われて首を巡らせると、若い騎士が二人、姿勢良く立っていた。
「それでは私はこれにて失礼します」
 黒服の騎士は、剣を鞘に納めて一礼すると、元居た場所に走って戻っていった。
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