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密室はまずいので
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「フゥ(ふぅ)」
幸いなことに、お手洗いは近かった。
部屋を出るとすぐ前が水場で、廊下側の腰高の窓の下に水栓が七つほどあり、そのうち二つは完全に洗面台仕様。水場の隣がお手洗いという並びだった。
この異世界は、中世ヨーロッパ風の割に、上水道も下水道も整備されており、蛇口をひねれば水が出るし、給湯器的な魔道具もあるのでお湯も使える。そしてお手洗いは水洗である。
「え、水まで流した……?」
家とよく似た感じの作りだったので、用を足した後、ちゃんと流した。個室の扉の下をくぐって出ると、ルークさまが驚いている。
やだ、そんな近くにいたの? いくら猫でも恥ずかしいじゃん。
「しっかり躾けられた、いいところのお嬢さま猫なんだろう」
横でロイドさまが笑っている。
「飼い主がいるってことだよな、早めに探して帰してやらないと、心配してるだろうな」
先程、部屋にいなかったハンスさまもいる。というか、ハンスさまは用足しに来たようだ。おもむろに前を寛げ……ちょっと待てえええっ!
慌てて目を逸らし、お手洗いから廊下に出た。男子トイレを借りた私が言うのもなんだが、レディーの前でなんてことを。
切羽詰まった状況から脱して気が抜けたのか、体がどんどん重くなる。籠に、籠に戻らなくちゃ。
「とりあえず、拾ってきたルークが責任もって面倒を見るように」
私の心の声が聞こえたのか、ロイドさまが部屋から籠を持ってきて、私を放り込むと、ルークさまに渡した。
「分かった……けど、何かあったら呼ぶからな、俺は魔法使えないんだから」
「ああ」
うん、回復系の魔術師がいると安心だよね。
私の入った籠を抱えたルークさまは、さっきまでいた部屋から階段を挟んだ部屋の扉を開いた。ん、さっきまでいた部屋はロイドさまの部屋で、こっちがルークさまの部屋なのかな?
首を傾げていると、用足しを済ませたハンスさまが、ルークさまの隣の部屋に入っていくのが見える。建物の端の部屋にロイドさま、階段を挟んでルークさま、その隣にハンスさま、ということだろうか。扉はまだ六つか七つくらいあるように見えるけど、他の人の気配はない。
「ベッドの横でいいよな? あ、扉はちょっと隙間あけといたほうがいいな」
部屋に入ったルークさまは、ベッドの横の窓の下に私の入った籠を置いた。
扉に隙間。つまり私を一人前のレディーとして扱ってくれるんですね。このまま二人きりで夜を過ごさないとならないけど、密室にすることは避けようと考えて……分かってる、そういう気遣いじゃないのは分かってるけど。
私は、レディーとして扱われたと思うことにするので!(個人の感想です)
部屋を見回すと、ロイドさまの部屋より少し狭い。狭いのにベッドも机も二つずつあるので二人部屋らしいが、片方のベッドの上には、服や本が積まれているのでベッドとしては使っていないみたい。二人部屋を一人で使ってるのかな。
ロイドさまの部屋は角部屋だからか窓が二つあったけど、ルークさまの部屋は一つだけである。多分こっちが標準で、ロイドさまの部屋が特別なのだろう。あの人、なんかこう幹部感あるし。
壁には、制服らしきものが掛けられていた。
というか、王立学園の制服に間違いないと思う。私はお隣のトリウさまの女子学生用の制服しか見たことがないけど、意匠が同じだもん。
つまりここは王立学園の男子寮。王立学園なら、王城に割と近い立地の筈である。良かった、お家に帰ろう大作戦の未来は明るい。
幸いなことに、お手洗いは近かった。
部屋を出るとすぐ前が水場で、廊下側の腰高の窓の下に水栓が七つほどあり、そのうち二つは完全に洗面台仕様。水場の隣がお手洗いという並びだった。
この異世界は、中世ヨーロッパ風の割に、上水道も下水道も整備されており、蛇口をひねれば水が出るし、給湯器的な魔道具もあるのでお湯も使える。そしてお手洗いは水洗である。
「え、水まで流した……?」
家とよく似た感じの作りだったので、用を足した後、ちゃんと流した。個室の扉の下をくぐって出ると、ルークさまが驚いている。
やだ、そんな近くにいたの? いくら猫でも恥ずかしいじゃん。
「しっかり躾けられた、いいところのお嬢さま猫なんだろう」
横でロイドさまが笑っている。
「飼い主がいるってことだよな、早めに探して帰してやらないと、心配してるだろうな」
先程、部屋にいなかったハンスさまもいる。というか、ハンスさまは用足しに来たようだ。おもむろに前を寛げ……ちょっと待てえええっ!
慌てて目を逸らし、お手洗いから廊下に出た。男子トイレを借りた私が言うのもなんだが、レディーの前でなんてことを。
切羽詰まった状況から脱して気が抜けたのか、体がどんどん重くなる。籠に、籠に戻らなくちゃ。
「とりあえず、拾ってきたルークが責任もって面倒を見るように」
私の心の声が聞こえたのか、ロイドさまが部屋から籠を持ってきて、私を放り込むと、ルークさまに渡した。
「分かった……けど、何かあったら呼ぶからな、俺は魔法使えないんだから」
「ああ」
うん、回復系の魔術師がいると安心だよね。
私の入った籠を抱えたルークさまは、さっきまでいた部屋から階段を挟んだ部屋の扉を開いた。ん、さっきまでいた部屋はロイドさまの部屋で、こっちがルークさまの部屋なのかな?
首を傾げていると、用足しを済ませたハンスさまが、ルークさまの隣の部屋に入っていくのが見える。建物の端の部屋にロイドさま、階段を挟んでルークさま、その隣にハンスさま、ということだろうか。扉はまだ六つか七つくらいあるように見えるけど、他の人の気配はない。
「ベッドの横でいいよな? あ、扉はちょっと隙間あけといたほうがいいな」
部屋に入ったルークさまは、ベッドの横の窓の下に私の入った籠を置いた。
扉に隙間。つまり私を一人前のレディーとして扱ってくれるんですね。このまま二人きりで夜を過ごさないとならないけど、密室にすることは避けようと考えて……分かってる、そういう気遣いじゃないのは分かってるけど。
私は、レディーとして扱われたと思うことにするので!(個人の感想です)
部屋を見回すと、ロイドさまの部屋より少し狭い。狭いのにベッドも机も二つずつあるので二人部屋らしいが、片方のベッドの上には、服や本が積まれているのでベッドとしては使っていないみたい。二人部屋を一人で使ってるのかな。
ロイドさまの部屋は角部屋だからか窓が二つあったけど、ルークさまの部屋は一つだけである。多分こっちが標準で、ロイドさまの部屋が特別なのだろう。あの人、なんかこう幹部感あるし。
壁には、制服らしきものが掛けられていた。
というか、王立学園の制服に間違いないと思う。私はお隣のトリウさまの女子学生用の制服しか見たことがないけど、意匠が同じだもん。
つまりここは王立学園の男子寮。王立学園なら、王城に割と近い立地の筈である。良かった、お家に帰ろう大作戦の未来は明るい。
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