上 下
38 / 54

密室はまずいので

しおりを挟む
「フゥ(ふぅ)」
 幸いなことに、お手洗いは近かった。
 部屋を出るとすぐ前が水場で、廊下側の腰高の窓の下に水栓が七つほどあり、そのうち二つは完全に洗面台仕様。水場の隣がお手洗いという並びだった。
 この異世界は、中世ヨーロッパ風の割に、上水道も下水道も整備されており、蛇口をひねれば水が出るし、給湯器的な魔道具もあるのでお湯も使える。そしてお手洗いは水洗である。
「え、水まで流した……?」
 家とよく似た感じの作りだったので、用を足した後、ちゃんと流した。個室の扉の下をくぐって出ると、ルークさまが驚いている。
 やだ、そんな近くにいたの? いくら猫でも恥ずかしいじゃん。
「しっかり躾けられた、いいところのお嬢さま猫なんだろう」
 横でロイドさまが笑っている。
「飼い主がいるってことだよな、早めに探して帰してやらないと、心配してるだろうな」
 先程、部屋にいなかったハンスさまもいる。というか、ハンスさまは用足しに来たようだ。おもむろに前を寛げ……ちょっと待てえええっ!
 慌てて目を逸らし、お手洗いから廊下に出た。男子トイレを借りた私が言うのもなんだが、レディーの前でなんてことを。
 切羽詰まった状況から脱して気が抜けたのか、体がどんどん重くなる。籠に、籠に戻らなくちゃ。




「とりあえず、拾ってきたルークが責任もって面倒を見るように」
 私の心の声が聞こえたのか、ロイドさまが部屋から籠を持ってきて、私を放り込むと、ルークさまに渡した。
「分かった……けど、何かあったら呼ぶからな、俺は魔法使えないんだから」
「ああ」
 うん、回復系の魔術師がいると安心だよね。
 私の入った籠を抱えたルークさまは、さっきまでいた部屋から階段を挟んだ部屋の扉を開いた。ん、さっきまでいた部屋はロイドさまの部屋で、こっちがルークさまの部屋なのかな? 
 首を傾げていると、用足しを済ませたハンスさまが、ルークさまの隣の部屋に入っていくのが見える。建物の端の部屋にロイドさま、階段を挟んでルークさま、その隣にハンスさま、ということだろうか。扉はまだ六つか七つくらいあるように見えるけど、他の人の気配はない。




「ベッドの横でいいよな? あ、扉はちょっと隙間あけといたほうがいいな」
 部屋に入ったルークさまは、ベッドの横の窓の下に私の入った籠を置いた。
 扉に隙間。つまり私を一人前のレディーとして扱ってくれるんですね。このまま二人きりで夜を過ごさないとならないけど、密室にすることは避けようと考えて……分かってる、そういう気遣いじゃないのは分かってるけど。
 私は、レディーとして扱われたと思うことにするので!(個人の感想です)


 部屋を見回すと、ロイドさまの部屋より少し狭い。狭いのにベッドも机も二つずつあるので二人部屋らしいが、片方のベッドの上には、服や本が積まれているのでベッドとしては使っていないみたい。二人部屋を一人で使ってるのかな。
 ロイドさまの部屋は角部屋だからか窓が二つあったけど、ルークさまの部屋は一つだけである。多分こっちが標準で、ロイドさまの部屋が特別なのだろう。あの人、なんかこう幹部感あるし。
 壁には、制服らしきものが掛けられていた。
 というか、王立学園の制服に間違いないと思う。私はお隣のトリウさまの女子学生用の制服しか見たことがないけど、意匠が同じだもん。
 つまりここは王立学園の男子寮。王立学園なら、王城に割と近い立地の筈である。良かった、お家に帰ろう大作戦の未来は明るい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】 婚約破棄間近の婚約者が、記憶をなくしました

瀬里
恋愛
 その日、砂漠の国マレから留学に来ていた第13皇女バステトは、とうとうやらかしてしまった。  婚約者である王子ルークが好意を寄せているという子爵令嬢を、池に突き落とそうとしたのだ。  しかし、池には彼女をかばった王子が落ちることになってしまい、更に王子は、頭に怪我を負ってしまった。  ――そして、ケイリッヒ王国の第一王子にして王太子、国民に絶大な人気を誇る、朱金の髪と浅葱色の瞳を持つ美貌の王子ルークは、あろうことか記憶喪失になってしまったのである。(第一部)  ケイリッヒで王子ルークに甘やかされながら平穏な学生生活を送るバステト。  しかし、祖国マレではクーデターが起こり、バステトの周囲には争乱の嵐が吹き荒れようとしていた。  今、為すべき事は何か?バステトは、ルークは、それぞれの想いを胸に、嵐に立ち向かう!(第二部) 全33話+番外編です  小説家になろうで600ブックマーク、総合評価5000ptほどいただいた作品です。 拍子挿絵を描いてくださったのは、ゆゆの様です。 挿絵の拡大は、第8話にあります。 https://www.pixiv.net/users/30628019 https://skima.jp/profile?id=90999

【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。

櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。 ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。 気付けば豪華な広間。 着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。 どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。 え?この状況って、シュール過ぎない? 戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。 現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。 そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!? 実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。 完結しました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

秋風に誘われて

剣世炸
恋愛
【不定期更新】 届かぬ思い、すれ違う時間。 男は何を思い、女は何を感じるのか? 大人の階段を登りつつある、思春期を少し卒業しかけた高校生たちの物語。 表紙:西卯月そら(Twitter:@24udukisora)

処理中です...