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私を○○に連れてって

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 窓から見える空が茜色に染まり、物悲しい気分になってくる。
「ミャミャン(母さま……)」
 そう、夕方なのである、子供はお家に帰る時間である。
 でも私は川を流れて遠い場所にいる。
 帰らぬ私を探して、今頃我が家は大騒ぎだろう。
 心配かけてごめんね、父さま、母さま、兄さま、イチノ、他のみんな!


 助けられる少し前に王城が見えた。王城の隣には騎士団本部、その一角に魔導研究所がある筈である。アスター伯爵家から魔導研究所までは馬車でニ十分から三十分ほどの距離だ。舗装された大通りでも自転車よりゆっくり走る感じなので、時速は十キロいかないくらい? 三十分として我が家まで五キロと言ったところか。魔導研究所からこの寮までの距離が分からないけどそんなには離れていないと思う。
 大人なら、せっせと一時間歩けば辿り着けるだろうけど、私は五歳児である……それ以前の問題として、五歳児よりもさらに小さい猫である。直接家を目指すのは厳しい。父さまが出仕している王城か、クリストフさまやレティーシャさまがお勤めの魔導研究所を目指すべきだろう。
 この場所は安全そうだしまずは体力回復! 正確な位置把握!

 必ず無事に戻るからね、みんな待っててね!




 日が暮れてから、小さくちぎったパンとミルクを少し貰った。
「ミャミャー(ごちそうさまでした)」
 ルークさまのお夕飯から分けていただいたようだ。
 この世界にあるのかどうか知らないけど、カリカリとか出てこなくて良かった。いや、あれも栄養バランスのとれたものなんだろうけど、人としてこう、譲れないラインというものが、がががが。
 猫の時は、あまり食べ物を口にしないので、ミルクを飲むときにちょっとむせたけど、まあまあ上手に食べられたと思う。


 さて、私はピンチを迎えていた。
 ほら、生物というものは、あれですよ。食べるとあれですよ。
 有り体に言えば、催したのである。
「ミャッ、ミャーッ(お手洗いどこおおお)」
 籠から抜け出すと、途端に倦怠感に襲われた。そうだ籠に回復魔法が掛かってるんだった……でも、私は行かねば。扉まで移動してかりかりと引っ掻く。
「どうしたんだ、外に出たいのか? まだよろよろじゃないか」
 籠の横にいたルークさまが立ち上がって追いかけてくると、私を抱き上げる。
 あ、だめ、お腹を押さないで。
「食べたから出るんじゃないのか」
 ロイドさま、人をところてんみたいに言わないで……合ってるけれども!!
「お手洗いに連れて行ってみたらどうだ。毛並みからしていいところで飼われてる猫だろうし、そう躾られている可能性が高い」
 そうそうその通りよ、ロイドさま。別に躾られてる訳じゃないけど、猫の時も私はちゃんとお手洗いで用を足す子なの。私をお手洗いに連れてって!
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