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遠目で見ればセーフ

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「母さま、どこかに寄るの?」
 ほやほやの魔獣を何とか回避し、帰途に就く。馬車がいつもは曲がる道を真っ直ぐに進んだので、母さまを見上げて訊ねた。
「そうよ、あなたのぬいぐるみを取りに行きますよ」
「私の? 猫のぬいぐるみ? 出来たの?」
「ええ。何日か前に完成したという連絡を貰ったから、届けて貰っても良かったんだけど、定期健診のついでに今日取りに行きますって伝えてあるのよ」
 二ヶ月ほど前に制作を依頼したぬいぐるみが出来上がったらしい。




「いかがですか、お嬢さま」
 お店のマダムが、ぬいぐるみを見せてくれる。
「可愛い! すごい! そっくり!」
 作ってもらったぬいぐるみのモデルは、猫バージョンの私である。ぬいぐるみなのでかなりデフォルメされているが、色とサイズ感は忠実に再現されている。
 猫の姿でこのお店に来て、撫でまわされ……測られた甲斐があった。
「ありがとうマダム!」




「御機嫌ね。そんなに気に入ったの?」
 馬車の中で猫のぬいぐるみを引っ繰り返して裏側を確認したりしている私に、母さまがにこにこと問いかける。
「うん、ずっと欲しかったの」
 私にとってこのぬいぐるみは、いわば影武者である。
 この異世界が、どんな物語をベースにしているかはいまだ不明なので、もしかすると、猫になる令嬢が、猫であることを活かした冒険活劇かもしれない訳である。警戒されずに情報を集めたり、人の入り込めないような狭い場所を駆け抜けたり。下町系ほのぼの日常コメディから、世界を股に掛けた手に汗握るスパイアクションまで、可能性は幅広い。
 そんな時、基本的に活動は秘密裏に行われると思われる。
 堂々と『ちょっと潜入調査に行ってくるね』と出掛けようとしても止められるだろうし、だからといって黙って出掛けて姿が見えないとなると、家族に心配をかけてしまう。
 そこで必要になるのが身代わりだ。
 このぬいぐるみを、私が猫になった時、お昼寝に使っている寝籠に置いて行けば、『お嬢さまは猫の姿でお昼寝中』と思わせることが出来る。
 まあ、ぬいぐるみだから相当遠目じゃないとばれるけどね。そこは思い込みで脳内補整してもらいたい。


「父さまがお帰りになったら、お礼を言いましょうね」
「はい、母さま」
 このぬいぐるみ、父さまに、誕生日に何が欲しいかと問われて思いついて作ってもらったものなので、父さまからの誕生日プレゼントということになる。

 制作に時間が掛かったから、誕生日はとっくに過ぎちゃったけどね!
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