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77「二日酔いだろ」
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「まだ寝てんのか、今日から仕事だろ、さっさと起きろ」
翌朝、エイダールに乱暴に揺さぶられて、ユランは体を起こした。
「何これ、頭痛い……」
ずきずきと痛む頭を抱えて丸くなる。
「二日酔いだろ」
「二日酔い? これが……?」
翌日に残るほど酒を飲んだのは初めてでよく分からない。
「覚えてないのか? 昨夜、強い酒丸々一本空けてたろ」
婚姻の腕輪を見せつけられて、酒瓶を掴んだ記憶はあるのだが。
「酒を飲んだのは覚えてますけど、どれだけ飲んだとか覚えてません……」
「飲んだ後のことは?」
とんでもない絡み方をされたエイダールは、聞きたいことがたくさんある。
「覚えてません」
エイダールに無理やりキスする夢を見たような気はするが、現実の筈がないので、夢である。
「そうか、覚えてないか」
エイダールは、良かったような悪かったような複雑な気持ちになる。
「え、僕、何かやらかしたんですか!? あいたたたたた」
ユランは起き上がろうとして、また頭を抱えてベッドに転がる。
「やらかしたというか、やらかしてないというか」
一応未遂である。
「覚えてないなら、その件に関してはいいが、あんな飲み方はもうするなよ」
「はい……」
「とりあえず、動ける程度には酒精を抜いてやる」
エイダールはユランの腹部に触れ、飲み方を反省するべきなので最低限の処置を施す。一分ほどで頭痛が治まったユランは、ベッドから出ようとして、動きを止めた。ぎこちない動きでエイダールを見る。
「あの、ここ、先生のベッドですよね? 僕、なんで下半身丸出し……?」
幸いなことに事後らしき痕跡はないが、問題があるような気がする。
「酔っ払ったお前が昨夜、ここで寝るっつって押し掛けて来たんだよ。で、自分で脱いで寝た」
大幅に端折った内容だが、嘘はついていない。眠ったユランを移動させるのは難しかったので、そのままにした。
「自分で脱いだ? 何で脱いだんだろ……」
自分の行動が理解できなくてユランは呆然と呟く。
「さあな。まあ、それも含めてしっかり反省するんだな」
酔った挙句、ことに及ぼうとしていたことを伏せたのはエイダールの優しさである。
「じゃあ、俺はもう仕事に出るから。ユランも遅れないようにな」
「はい、いってらっしゃい先生」
「二日酔い? お前がそんなになってんの初めて見る気がするぞ」
出勤したものの、顔色が悪く額を押さえているユランを、ヴェイセルが珍しいものを見るように観察した。
「二日酔いとか初めてですよ、僕、そもそもあんまりお酒飲まないし」
飲むより食べたいお年頃である。
「なんでそんなになるまで飲んだんだよ」
「先生が、例の腕輪を眺めてたから」
自棄酒である。
「そんな理由で飲み慣れない奴が強い酒あおったらそりゃ悪酔いするな」
ヴェイセルは肩を竦める。
「二日酔いはいいんだけど……良くはないけどちょっと頭が痛いくらいだし。ただ、起きたら、先生のベッドだったんですよね」
「おいおい、犯罪者になった話なんか聞きたくないぞ」
襲ったのか、襲ったんだな、何てことを。とでも言いたげな顔になるヴェイセル。
「大丈夫です。何故か下半身には何も着てなかったけど、やらかした痕跡もなかったので」
「…………限りなくまずい状況だよなそれ」
状況証拠だけで有罪になりかねない。
「でも何もした覚えがないんですよ? 先生に無理やりキスする夢は見ましたけど、夢だし」
「本当に夢だったのか!?」
「頬に行ってらっしゃいのキスをするのも嫌がる先生が、大人しく唇にキスさせてくれる訳ないじゃないですか」
なので夢である、というのがユランの推理である。自宅で気を抜いているところに弟枠のユランが相手となれば、エイダールも不覚を取る訳だが。
「確かにあの先生なら軽くかわしそうだよな……というか、行ってらっしゃいのキスを強要してんのか。おかしいぞ」
仮に一緒に暮らしていても、幼馴染みに望むことではない。
「強要はしてません」
してほしいな、と迫っただけである。結局してもらえなかった。
「今後は記憶がなくなるような飲み方しないようにってことだ。今回は何もなかったにしろ、そんなこと繰り返してたら追い出されるぞ」
「えっ」
やっと一緒に暮らし始めたところなのに、とユランは言うが。
「考えてもみろよ、夜中に酔っ払いが寝室に押し入ってきて、服脱いでベッドに飛び込んでくるなんて、普通に嫌だろ?」
安心という言葉から程遠い暮らしであり、通報されてもおかしくない。
「仮にそれが先輩でも、嫌というか気持ち悪いですね」
酔っぱらいをヴェイセルで想像したユランは、ぶるっと肩を震わせる。
「そんな状況には絶対ならないから安心しろ」
何で俺で想像したんだとヴェイセルは不満げに呟く。一緒に住む予定もないし、酔って乱入する予定もない。
「あ、でも先生だったら可愛いかも」
たまに見かけるほろ酔いのエイダールは、言動が少し幼くなって、よしよししたくなる。幼くなっても性格は俺様のままなのだが。
「何を可愛いと思うかは個人の自由だよな」
エイダールを可愛いとは全く思えないヴェイセルだが、個人の主観なのだからと耐える。
「とにかく、追い出されないようにな……そういや、住所変更の手続きしとけよ」
引っ越したのなら届け出なければならない。
「はい……あ、まだ契約してないや」
話がまとまってからお互い忙しくて、契約書類の作成がまだである。
「契約してないのかよ。つまりいつ追い出されても何も文句が言えないと」
「うわああああ」
翌朝、エイダールに乱暴に揺さぶられて、ユランは体を起こした。
「何これ、頭痛い……」
ずきずきと痛む頭を抱えて丸くなる。
「二日酔いだろ」
「二日酔い? これが……?」
翌日に残るほど酒を飲んだのは初めてでよく分からない。
「覚えてないのか? 昨夜、強い酒丸々一本空けてたろ」
婚姻の腕輪を見せつけられて、酒瓶を掴んだ記憶はあるのだが。
「酒を飲んだのは覚えてますけど、どれだけ飲んだとか覚えてません……」
「飲んだ後のことは?」
とんでもない絡み方をされたエイダールは、聞きたいことがたくさんある。
「覚えてません」
エイダールに無理やりキスする夢を見たような気はするが、現実の筈がないので、夢である。
「そうか、覚えてないか」
エイダールは、良かったような悪かったような複雑な気持ちになる。
「え、僕、何かやらかしたんですか!? あいたたたたた」
ユランは起き上がろうとして、また頭を抱えてベッドに転がる。
「やらかしたというか、やらかしてないというか」
一応未遂である。
「覚えてないなら、その件に関してはいいが、あんな飲み方はもうするなよ」
「はい……」
「とりあえず、動ける程度には酒精を抜いてやる」
エイダールはユランの腹部に触れ、飲み方を反省するべきなので最低限の処置を施す。一分ほどで頭痛が治まったユランは、ベッドから出ようとして、動きを止めた。ぎこちない動きでエイダールを見る。
「あの、ここ、先生のベッドですよね? 僕、なんで下半身丸出し……?」
幸いなことに事後らしき痕跡はないが、問題があるような気がする。
「酔っ払ったお前が昨夜、ここで寝るっつって押し掛けて来たんだよ。で、自分で脱いで寝た」
大幅に端折った内容だが、嘘はついていない。眠ったユランを移動させるのは難しかったので、そのままにした。
「自分で脱いだ? 何で脱いだんだろ……」
自分の行動が理解できなくてユランは呆然と呟く。
「さあな。まあ、それも含めてしっかり反省するんだな」
酔った挙句、ことに及ぼうとしていたことを伏せたのはエイダールの優しさである。
「じゃあ、俺はもう仕事に出るから。ユランも遅れないようにな」
「はい、いってらっしゃい先生」
「二日酔い? お前がそんなになってんの初めて見る気がするぞ」
出勤したものの、顔色が悪く額を押さえているユランを、ヴェイセルが珍しいものを見るように観察した。
「二日酔いとか初めてですよ、僕、そもそもあんまりお酒飲まないし」
飲むより食べたいお年頃である。
「なんでそんなになるまで飲んだんだよ」
「先生が、例の腕輪を眺めてたから」
自棄酒である。
「そんな理由で飲み慣れない奴が強い酒あおったらそりゃ悪酔いするな」
ヴェイセルは肩を竦める。
「二日酔いはいいんだけど……良くはないけどちょっと頭が痛いくらいだし。ただ、起きたら、先生のベッドだったんですよね」
「おいおい、犯罪者になった話なんか聞きたくないぞ」
襲ったのか、襲ったんだな、何てことを。とでも言いたげな顔になるヴェイセル。
「大丈夫です。何故か下半身には何も着てなかったけど、やらかした痕跡もなかったので」
「…………限りなくまずい状況だよなそれ」
状況証拠だけで有罪になりかねない。
「でも何もした覚えがないんですよ? 先生に無理やりキスする夢は見ましたけど、夢だし」
「本当に夢だったのか!?」
「頬に行ってらっしゃいのキスをするのも嫌がる先生が、大人しく唇にキスさせてくれる訳ないじゃないですか」
なので夢である、というのがユランの推理である。自宅で気を抜いているところに弟枠のユランが相手となれば、エイダールも不覚を取る訳だが。
「確かにあの先生なら軽くかわしそうだよな……というか、行ってらっしゃいのキスを強要してんのか。おかしいぞ」
仮に一緒に暮らしていても、幼馴染みに望むことではない。
「強要はしてません」
してほしいな、と迫っただけである。結局してもらえなかった。
「今後は記憶がなくなるような飲み方しないようにってことだ。今回は何もなかったにしろ、そんなこと繰り返してたら追い出されるぞ」
「えっ」
やっと一緒に暮らし始めたところなのに、とユランは言うが。
「考えてもみろよ、夜中に酔っ払いが寝室に押し入ってきて、服脱いでベッドに飛び込んでくるなんて、普通に嫌だろ?」
安心という言葉から程遠い暮らしであり、通報されてもおかしくない。
「仮にそれが先輩でも、嫌というか気持ち悪いですね」
酔っぱらいをヴェイセルで想像したユランは、ぶるっと肩を震わせる。
「そんな状況には絶対ならないから安心しろ」
何で俺で想像したんだとヴェイセルは不満げに呟く。一緒に住む予定もないし、酔って乱入する予定もない。
「あ、でも先生だったら可愛いかも」
たまに見かけるほろ酔いのエイダールは、言動が少し幼くなって、よしよししたくなる。幼くなっても性格は俺様のままなのだが。
「何を可愛いと思うかは個人の自由だよな」
エイダールを可愛いとは全く思えないヴェイセルだが、個人の主観なのだからと耐える。
「とにかく、追い出されないようにな……そういや、住所変更の手続きしとけよ」
引っ越したのなら届け出なければならない。
「はい……あ、まだ契約してないや」
話がまとまってからお互い忙しくて、契約書類の作成がまだである。
「契約してないのかよ。つまりいつ追い出されても何も文句が言えないと」
「うわああああ」
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