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67「あまり痛くしないでくださいね」
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「熱っ」
前衛で魔獣の注意を引いていた盾持ちが、小さく悲鳴を上げて、下がってくる。
「オルディウス! 俺まで焼く気か!!」
「撃つぞって言っただろ」
撃つと言うなり魔法をぶっ放したオルディウスに反省の色は見えない。
「下がるの確認してからにしろよ! ……君は大丈夫か?」
盾持ちよりも前に出ていたユランを気遣う。
「大丈夫です」
ユランは、火傷一つ負っていない。
「いやなんか氷みたいなのが……あれはなんだ」
後衛で弓を引いていた弓使いが、ユランの周囲で弾けた何かを見ていた。
「多分防御魔法が発動したんだと思います。魔獣討伐に行くって言ったら、先生に念入りに重ね掛けされたし」
一定以上の衝撃を無効化する、物理攻撃にも魔法攻撃にも対応の優れものである。
「そうだな、予想以上だ。今までの戦いを見てて、あのくらいなら当てても大丈夫だと思ってたが、傷一つないなんてな」
ユランに強い防御魔法がかかっているのは、魔術師なら感じ取れる。そうなると限界を確認したいのは魔術師の性である。
「つまりわざとやったのか」
盾持ちが低い声で唸り、オルディウスの頭を拳でぐりぐりした。仲間を危険に晒すなど許されることではない。
「え、結果的に無傷だし、身構えてなくても自動発動するのも確認出来たし」
「確認してどうするんだ」
「ユランくんを囮にすれば、攻撃し放題! ってことにならないかなと……痛い痛い痛いっ」
名案だろうと瞳をきらめかせたオルディウスは、さらに強くぐりぐりされてしゃがみ込む。
「ふざけるな。幾ら重ね掛けされてても回数には限度があるだろう、味方の攻撃で無駄に消費させるな」
肝心な時に発動しなかったらどうするんだと説教が始まる。エイダールの防御魔法には自動修復の術式も組み込まれているので、実質回数制限はないのだが、そのことはとりあえず黙っておこうとユランは思う。
「まともな奴もいて安心した。騎士団が全員あの魔導騎士みたいだったら不安でしょうがない」
弓使いの言葉に、槍使いが苦笑する。
「オルディウスに限らず魔術師ってのは、倫理観が吹っ飛んでるやつが多いからな」
魔術師は、効率を重視する場合も、好奇心を満たす場合も、人の道を外れがちな生き物だった。
「前に一緒だったときは、割と気遣ってくれたんですけど」
巻き込んだ場合と、共に戦う場合では対応が違うのだろう。
「いやはや、ちょっと出遅れたのにユランくんを確保できて良かったな」
班分けの時、良さげな人材から売れて行ったので、ユランは不人気だったということになる。体格はいいのだが、周りも警備隊員だと当然埋没するし、若さを経験のなさだと捉えられたらしい。
「僕もオルディウスさんに拾って貰えて良かったです。知らない貴族の人だと緊張するし」
割と人懐っこいユランだが、貴族の多い騎士団員相手だと気疲れする。
「オルディウスさんは貴族じゃなさそうだけど」
貴族っぽさが薄いオルディウスをユランは平民判定していたが。
「いや、一応侯爵家の次男なんだけどな……」
意外なことに高位貴族だった。
「えっ」
「ユランお前、もうちょっと貴族の家名を覚えとけよ。リエルベルクって聞いた時点で普通は分かるぞ」
同僚に呆れられるが、筆頭公爵家のサルバトーリもうろ覚えだったユランにはちょっと無理な話だった。
「まあ、今まで通りの態度でいいんで気楽にな」
「ありがとうございます」
「間に合いましたね」
結界張りを翌日に控え、結界石に目標としていた八割の充填を達成する。
「あとは張るだけですが……展開中に、万一、私が倒れたら、あなたが引き継いでください」
「…………はっ?」
枢機卿に言われて、エイダールは目を見開く。
「この国の安寧は、あなたの双肩にかかっています」
「いや待て、人の肩に勝手にそんなもん載せんな」
責任重大過ぎる。
「ですが、私も体調が万全ではありませんし……」
気力体力が充実していても、難易度の高い作業である。
「倒れそうになったら無理矢理回復するから、俺に投げるな」
「無理矢理ですか? あまり痛くしないでくださいね」
何故か犯罪の匂いがしてきそうな台詞を返される。過ぎた回復魔法は、痛みや、燃えるような熱さを感じたりする。
「なるべく配慮するけど、緊急事態と判断したら、痛かろうが熱かろうが突っ込むからな」
倒れさせないのが最優先事項である。
「出来れば優しくしていただきたいのですが」
「知るかっ」
「どうした、喧嘩かな?」
「猊下」
深層部に下りてきた教皇に、枢機卿は深く礼をした。
「いえ、優しく突っ込んでほしいと言ったら断られただけです」
「成程、激しいのが好きなのか」
若いなあ、と教皇はエイダールを見る。
「そのようですね」
さすが二十代、と枢機卿もエイダールを見る。
「言い方! あと、回復魔法の話だからな!」
「なんだ、愛を確かめ合っているのかと思ったよ……まあ、仲良くしなさい」
教皇は、愛だろうが回復魔法だろうがどちらでもいいらしく、話をまとめた。
前衛で魔獣の注意を引いていた盾持ちが、小さく悲鳴を上げて、下がってくる。
「オルディウス! 俺まで焼く気か!!」
「撃つぞって言っただろ」
撃つと言うなり魔法をぶっ放したオルディウスに反省の色は見えない。
「下がるの確認してからにしろよ! ……君は大丈夫か?」
盾持ちよりも前に出ていたユランを気遣う。
「大丈夫です」
ユランは、火傷一つ負っていない。
「いやなんか氷みたいなのが……あれはなんだ」
後衛で弓を引いていた弓使いが、ユランの周囲で弾けた何かを見ていた。
「多分防御魔法が発動したんだと思います。魔獣討伐に行くって言ったら、先生に念入りに重ね掛けされたし」
一定以上の衝撃を無効化する、物理攻撃にも魔法攻撃にも対応の優れものである。
「そうだな、予想以上だ。今までの戦いを見てて、あのくらいなら当てても大丈夫だと思ってたが、傷一つないなんてな」
ユランに強い防御魔法がかかっているのは、魔術師なら感じ取れる。そうなると限界を確認したいのは魔術師の性である。
「つまりわざとやったのか」
盾持ちが低い声で唸り、オルディウスの頭を拳でぐりぐりした。仲間を危険に晒すなど許されることではない。
「え、結果的に無傷だし、身構えてなくても自動発動するのも確認出来たし」
「確認してどうするんだ」
「ユランくんを囮にすれば、攻撃し放題! ってことにならないかなと……痛い痛い痛いっ」
名案だろうと瞳をきらめかせたオルディウスは、さらに強くぐりぐりされてしゃがみ込む。
「ふざけるな。幾ら重ね掛けされてても回数には限度があるだろう、味方の攻撃で無駄に消費させるな」
肝心な時に発動しなかったらどうするんだと説教が始まる。エイダールの防御魔法には自動修復の術式も組み込まれているので、実質回数制限はないのだが、そのことはとりあえず黙っておこうとユランは思う。
「まともな奴もいて安心した。騎士団が全員あの魔導騎士みたいだったら不安でしょうがない」
弓使いの言葉に、槍使いが苦笑する。
「オルディウスに限らず魔術師ってのは、倫理観が吹っ飛んでるやつが多いからな」
魔術師は、効率を重視する場合も、好奇心を満たす場合も、人の道を外れがちな生き物だった。
「前に一緒だったときは、割と気遣ってくれたんですけど」
巻き込んだ場合と、共に戦う場合では対応が違うのだろう。
「いやはや、ちょっと出遅れたのにユランくんを確保できて良かったな」
班分けの時、良さげな人材から売れて行ったので、ユランは不人気だったということになる。体格はいいのだが、周りも警備隊員だと当然埋没するし、若さを経験のなさだと捉えられたらしい。
「僕もオルディウスさんに拾って貰えて良かったです。知らない貴族の人だと緊張するし」
割と人懐っこいユランだが、貴族の多い騎士団員相手だと気疲れする。
「オルディウスさんは貴族じゃなさそうだけど」
貴族っぽさが薄いオルディウスをユランは平民判定していたが。
「いや、一応侯爵家の次男なんだけどな……」
意外なことに高位貴族だった。
「えっ」
「ユランお前、もうちょっと貴族の家名を覚えとけよ。リエルベルクって聞いた時点で普通は分かるぞ」
同僚に呆れられるが、筆頭公爵家のサルバトーリもうろ覚えだったユランにはちょっと無理な話だった。
「まあ、今まで通りの態度でいいんで気楽にな」
「ありがとうございます」
「間に合いましたね」
結界張りを翌日に控え、結界石に目標としていた八割の充填を達成する。
「あとは張るだけですが……展開中に、万一、私が倒れたら、あなたが引き継いでください」
「…………はっ?」
枢機卿に言われて、エイダールは目を見開く。
「この国の安寧は、あなたの双肩にかかっています」
「いや待て、人の肩に勝手にそんなもん載せんな」
責任重大過ぎる。
「ですが、私も体調が万全ではありませんし……」
気力体力が充実していても、難易度の高い作業である。
「倒れそうになったら無理矢理回復するから、俺に投げるな」
「無理矢理ですか? あまり痛くしないでくださいね」
何故か犯罪の匂いがしてきそうな台詞を返される。過ぎた回復魔法は、痛みや、燃えるような熱さを感じたりする。
「なるべく配慮するけど、緊急事態と判断したら、痛かろうが熱かろうが突っ込むからな」
倒れさせないのが最優先事項である。
「出来れば優しくしていただきたいのですが」
「知るかっ」
「どうした、喧嘩かな?」
「猊下」
深層部に下りてきた教皇に、枢機卿は深く礼をした。
「いえ、優しく突っ込んでほしいと言ったら断られただけです」
「成程、激しいのが好きなのか」
若いなあ、と教皇はエイダールを見る。
「そのようですね」
さすが二十代、と枢機卿もエイダールを見る。
「言い方! あと、回復魔法の話だからな!」
「なんだ、愛を確かめ合っているのかと思ったよ……まあ、仲良くしなさい」
教皇は、愛だろうが回復魔法だろうがどちらでもいいらしく、話をまとめた。
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