弟枠でも一番近くにいられるならまあいいか……なんて思っていた時期もありました

大森deばふ

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49「はいはい、寝言は寝て言おうな」

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「ユラン、先生の家に泊まるのはもう確定だからな、気をしっかり持って、間違いを起こさないようにな」
「はい、先輩」
 一緒に戻ってきた被害者たちを騎士団本部に運び込んだ後、ユランとカイは帰宅のため別の馬車に乗り換えて、騎士団所属の医官と何か話しているエイダールを待っている。
「もう落ち着いてるみたいだから大丈夫だとは思うけどな」
「そうですね、先生の傍にいても、胸が締め付けられるような感じにならないし、今はすっごく眠いし」
 ユランは、ふわああっと欠伸をする。
「そうだな、もう零時過ぎるかってところだしな」
 ヴェイセルも眠そうに眼を瞬かせた。






「先生、眠いです、ベッドに飛び込ませてください……」
 漸くエイダールの家に辿り着いたユランは、目をこすりながら懇願した。気が緩んだらしく、足取りもふらふらしている。
「こら、まだ寝るな。すぐ風呂の用意出来るから」
 自在に湯を出せるエイダールにかかれば、ほんの数分で用意できる。普段はそんなことはせずに生活魔道具を使って給湯しているが。
「でも僕、風呂で寝ちゃう気がします……」
 危ないですってば、とユランは訴えるが。
「俺も一緒に入るから心配しなくていい。ほら全部脱げ」
 幼児の世話をするように、てきぱきと事を進め、ぼんやりしたまま脱がされたユランは、そのまま風呂場に連れ込まれる。
「背中に薄く何かの痕があるな、どうしたんだ」
 洗いながら全身を確認する。侯爵邸の近くで再会した時にも一通りは見たが、暗いし、人前で服を剥ぐ訳にもいかなかったので、薄い痕までは分からなかった。
「背中ですか? ああ、そう言えば、袋詰めにされたまま床に放り投げられたときに、強く打ちつけられて、一瞬息が詰まりました」
「痛みや違和感は?」
「そう言われれば、ちょっと痛いかも……右肩を上げるときに」
「右肩か」
 肩甲骨や肩関節をしばらく撫でていたエイダールは、傷んでいるところを見つけたらしい。
「ここだな……『治癒ヒール』」
 惜しみなく魔法を使う。
「他は問題ないな、あとはこの腰の魔法陣だが」
「魔法陣なら、先生がすぐに拭いちゃったじゃないですか」
 エルディの血で描かれた魔法陣は、エイダールにその場で拭われたし、今も全身洗われたので何も残っていないと思うのだが。
「魔力が魔法陣の形で染み込んでて痕跡があるんだよ、機能もしてる」
 魔術師だからこそ気になる。
「暫くすれば消えるけどな」
「じゃあ、ほっといていいんじゃないですか?」
 自分に害なすものではないので、ユランはお気楽だ。
「お前の体から他の男の気配がするとか、気に入らない。俺のなのに」
「えっ」
 いきなり所有権を主張されて、うとうとしかけていたユランの目が覚めた。


「まあ、浄化するほどでもないか。よし、湯に浸かって……元気だな」
 体を温めろと言おうとしたエイダールは、ふと、ユランの下半身に目をとめた。何が元気かと言えば、ユランのユランである。
「これは不可抗力だと思いますよ!?」
 今まで眠すぎてよく分かっていなかったが、風呂なのでお互い素っ裸である。最近は機会が減っていたが、一緒に風呂に入ること自体は珍しいことではない。しかし、直前まで体を撫でまわされていたとなると、反応しても仕方がないと思う。
「そうだな、疲れ過ぎててもなるって言うしな。落ち着いたら湯に浸かって体を温めろよ」
 エイダールはたいして気にした様子もなく、自分の体を洗い始める。
「……………………」
 ユランは、何の拷問だろうかと考えた。好きな人が目の前で無防備に素肌を晒している。もしかして襲ってもいいのだろうか。いい訳がない。
「先生」
 ユランは、抱きつくくらいなら許されるのではないだろうかという結論に達した。頭の片隅でそれもだめだろうと思うのだが、止められない。
「なんだ? って、重いぞ」
 背中から伸し掛かるように抱きつかれて、エイダールは潰れそうになった。
「ごめんなさい、ちょっとだけ」
「そんなに眠いのか? ここで寝るなよ?」
 エイダールは、ユランが眠すぎて甘えているのだと思ったらしい。
「僕、先生を襲おうとしてるんですけど」
 ユランは本気だったが、エイダールには通じない。
「ああ、はいはい、寝言は寝て言おうな。ほーら、湯槽に御案内だ」
 湯槽の中の湯が生き物のように波打って、ユランを引きずり込んだ。
「うわっ」
 引きずり込まれたことにも驚いたが、間違いを起こそうにも起こせないことに呆然とする。
「大人しく温まってろよ」
 本気を出せば川を割る事も出来るエイダールにとって、湯槽の湯を操ることなど造作もなかった。




「よし、温まったな」
 エイダールは、呆然としていたままのユランを湯槽から出す。
「湯冷めしないうちに寝ろよ」
 風呂場からも出して、大きなタオルを渡し、髪はざっくりと水分を飛ばした。
「どうした? もうベッドに飛び込んでいいんだぞ、念願の睡眠だぞ」
「あ、はい」
 謎の敗北感を抱えたまま、ユランはのろのろと服を着る。
「おやすみなさい、先生」
「ああ、おやすみ」
 ユランは、自分が貰っている部屋に入ると、ベッドにどさりと倒れ込んだ。
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