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18「で、何を話せば?」
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「さて、本題に入ろうか。ヴェイセルとユランは戻っていいぞ」
アルムグレーンは二人を追い出して、場を仕切り直した。
「で、何を話せば?」
何を説明するのかの説明を、エイダールは求めた。
「あんたと一緒に来た騎士団の魔術師……ストレイムスだったか」
「イーレン・ストレイムスですね」
「その男が少し前に、うちの魔術師の魔力を少し提供して欲しいと言ってきてな。切羽詰まった様子で、必要な理由の詳細は文書で後日届けるってことでとりあえず許可したんだが。その文書とやらがいまだに届いてなくてな」
アルムグレーンは肩を竦める。
「その理由の説明を? うーん」
手掛かりが少なすぎる。途中参戦のエイダールには難易度が高い。
「魔力提供って、どのくらいの量を? どんな方法で?」
「試料としてほんの少量って話だったが……そうだよな?」
アルムグレーンはジペルスを見る。実際に提供したのはジペルスだ。
「本当に少量で、方法は紋様符に吸わせる形でした。魔力操作にまだ慣れていない人が使う、呼び水的な紋様符があるでしょう? あれに似た感じの」
魔力操作が下手で体外にうまく魔力を流せない場合に、少量の魔力を強制的に引き出すことで流れを覚え込ませるという補助的な紋様符が存在する。
「だったら本当に少量だよな、何かの動力にも使えない。他の魔術師もそんな感じで少量ずつ?」
「いえ、この西区の警備隊では私だけです。回復術師が行方不明になった中央区での現場で捜索に当たった魔術師という指定で、該当するのは私だけでした」
「早くしないと痕跡が消えるとか言ってたから、そこの現場絡みだと思うが」
「成程、何となく分かった気がする」
エイダールは、おそらく正解であろうという理由を見つけた。
「その一つ前の事件で、未遂で済んだ被害者がいたのは?」
知ってますか? と問われて、アルムグレーンは頷く。
「ああ。誘拐こそされなかったが、頭に酷い傷を負わされて意識不明だと」
「そう、その男が数日前に目を覚まして、こう証言しました」
『道を歩いていたら、突然地面がまるく光った。
転移陣のように見えた。
行方不明事件のことは知っていたので離れようとしたが
一瞬で魔力を持って行かれていて、その場にへたり込んだ。
懐に入れていた防犯用の紋様符を何とか破ったら、
物凄い風が起きて吹っ飛ばされ、気を失った』
「風が起きる紋様符だったんでしょうか? だとしても強力過ぎる? あれ、じゃあ頭の傷って犯人に殴られたのではなく?」
使用者を中心にして数歩下がらせる程度の風を起こす紋様符は多く出回っているが、吹っ飛ばすようなものになると許可制になるので入手方法が限られる。
「いや、大きな音を出して救援を呼ぶものだったと聞いてる。どっちにしても風属性だから、転移陣と干渉を起こしたんだと思う。で、本来なら自分には影響のない筈の風に思いっきり吹っ飛ばされて、たまたまそこにあった大きな石に頭をぶつけたってことらしい」
意識を取り戻すまでは、頭の怪我は犯人の所為にされていた。石で殴るなんて酷いことをと思われていたが、そこのところは濡れ衣だったらしい。
「そうか、転移陣も基本のところは風魔法だから、転移陣側の熱量が流入したのかもしれませんね」
「そうそう。風と火は物としては掴みにくいから、混じりやすいんだよな」
ジペルスとエイダールの間で、会話が弾む。
「それで?」
魔術師たちの会話についていけないアルムグレーンが続きを促す。
「証言から犯行に転移陣が使用されていることが分かって、そこから現場に再調査を入れて転移陣の痕跡探しを。ですが、未遂の事件の方はかなり時間が経っていたこともあって縁の円形を読み取るのも困難で」
「直近の中央区の方ならまだ残っていたと?」
「ええ、そっちの方は術式まで読み取れそうということになったんですが、現場調査に魔術師も入ったことで魔力の痕跡が入り混じっていて判別が難しくなっていて」
「魔力が入り混じる……?」
どういう状態なのかが想像できず、眉間に皴を寄せるアルムグレーン。
「例えば、現場に犯人の靴跡が残っていたとします。しかし気付かないまま、捜査員が踏み荒らしてしまい、現場には何人もの靴跡が入り混じっている状態です」
何とか分かりやすく伝えようと頑張るエイダール。
「そこで犯人の靴跡だけをはっきりさせるために、現場に入った人間の靴跡を引き算していく作業が必要になります」
「ああ、それで、入った人間の魔力の試料が必要だったんですね」
「そうそう」
試料として預かった魔力をもとに、それと同じ質の魔力を転移陣の上に残った痕跡から除いていくと、転移陣の痕跡だけが残るという寸法だ。
「もう少し転移陣の痕跡がはっきりしていれば、そっちの魔力だけを拾い上げるだけで済んだんですが、何しろ元が薄かったので」
主にイーレンが大変だった。イーレンが読み取って紙に起こしたものを補完しながら、機能するように仕上げなければならなかったエイダールも大変だったが。
「自分が不甲斐なくてへこみますね。転移陣の痕跡に気付かず踏み荒らすような真似をしたなんて。何の役にも立たないどころか邪魔をしてたなんて」
ジペルスは大きく溜息をつく。
「騎士団の魔術師にも見えてなかったよ、普通の痕跡探査じゃ気付かないくらいの薄さだったから」
へこむ必要はないとエイダールは続ける。
「転移陣の痕跡が残ってるかもしれないってことで、そういう意味で物凄く目がいいイーレンが『必ずここにある』と確信を持って集中してやっと見えたって代物なんで。大体の位置特定が出来たのは遺留品を見つけてくれた警備隊のお陰だし……ってことで、試料が必要だった理由の説明は終わりって感じですが」
エイダールは、もう家に帰っていいかな? という顔をした。
「家まで馬車で送らせよう、家はどの辺だ?」
帰りたい、という顔をしたエイダールに、アルムグレーンはそう提案したが。
「すぐそこの職人街なんでお構いなく。ここからなら徒歩五分くらいなんで」
エイダールに馬車を準備しているのを待つより歩いて帰った方が早いと断られる。
「近いな……成程、ユランが入り浸る筈だ」
立地が良すぎる。
「じゃあ帰ります……この食器、食堂に返しとけばいいんですか」
綺麗に平らげた昼食の食器を示すと。
「ああ、こっちで返しておくから置いて行ってくれ。口には合ったかな? 普段はもっといいもの食べてそうだが」
「美味かったです、ごちそうさまでした。さすが体が資本の警備隊って感じで」
肉多めのこってり系だった。
「普段はアカデミーの学食で食べることが多いんで、言うほどいいもの食ってませんが、あっちは甘いものも多いんで頭脳労働には合ってるかも」
食事だけではなくカフェメニューも多く、女性に人気だ。
「甘いものですか……それは魅力的ですね」
ジペルスが食いつく。甘いもの好きらしい。
「学食って言っても一般開放されてるんでいつでもどうぞ」
誰でも利用できる開かれた学食である。
「ええ、食事には時々お邪魔させていただいてますが、甘いものを楽しむほどの暇がなくて」
「せっかく来たのにそんな勿体ない……お勧めは果物のタルト」
季節ごとに旬の果物を贅沢に盛ってあって! と力説するエイダールに、親近感を覚えるジペルスだった。
アルムグレーンは二人を追い出して、場を仕切り直した。
「で、何を話せば?」
何を説明するのかの説明を、エイダールは求めた。
「あんたと一緒に来た騎士団の魔術師……ストレイムスだったか」
「イーレン・ストレイムスですね」
「その男が少し前に、うちの魔術師の魔力を少し提供して欲しいと言ってきてな。切羽詰まった様子で、必要な理由の詳細は文書で後日届けるってことでとりあえず許可したんだが。その文書とやらがいまだに届いてなくてな」
アルムグレーンは肩を竦める。
「その理由の説明を? うーん」
手掛かりが少なすぎる。途中参戦のエイダールには難易度が高い。
「魔力提供って、どのくらいの量を? どんな方法で?」
「試料としてほんの少量って話だったが……そうだよな?」
アルムグレーンはジペルスを見る。実際に提供したのはジペルスだ。
「本当に少量で、方法は紋様符に吸わせる形でした。魔力操作にまだ慣れていない人が使う、呼び水的な紋様符があるでしょう? あれに似た感じの」
魔力操作が下手で体外にうまく魔力を流せない場合に、少量の魔力を強制的に引き出すことで流れを覚え込ませるという補助的な紋様符が存在する。
「だったら本当に少量だよな、何かの動力にも使えない。他の魔術師もそんな感じで少量ずつ?」
「いえ、この西区の警備隊では私だけです。回復術師が行方不明になった中央区での現場で捜索に当たった魔術師という指定で、該当するのは私だけでした」
「早くしないと痕跡が消えるとか言ってたから、そこの現場絡みだと思うが」
「成程、何となく分かった気がする」
エイダールは、おそらく正解であろうという理由を見つけた。
「その一つ前の事件で、未遂で済んだ被害者がいたのは?」
知ってますか? と問われて、アルムグレーンは頷く。
「ああ。誘拐こそされなかったが、頭に酷い傷を負わされて意識不明だと」
「そう、その男が数日前に目を覚まして、こう証言しました」
『道を歩いていたら、突然地面がまるく光った。
転移陣のように見えた。
行方不明事件のことは知っていたので離れようとしたが
一瞬で魔力を持って行かれていて、その場にへたり込んだ。
懐に入れていた防犯用の紋様符を何とか破ったら、
物凄い風が起きて吹っ飛ばされ、気を失った』
「風が起きる紋様符だったんでしょうか? だとしても強力過ぎる? あれ、じゃあ頭の傷って犯人に殴られたのではなく?」
使用者を中心にして数歩下がらせる程度の風を起こす紋様符は多く出回っているが、吹っ飛ばすようなものになると許可制になるので入手方法が限られる。
「いや、大きな音を出して救援を呼ぶものだったと聞いてる。どっちにしても風属性だから、転移陣と干渉を起こしたんだと思う。で、本来なら自分には影響のない筈の風に思いっきり吹っ飛ばされて、たまたまそこにあった大きな石に頭をぶつけたってことらしい」
意識を取り戻すまでは、頭の怪我は犯人の所為にされていた。石で殴るなんて酷いことをと思われていたが、そこのところは濡れ衣だったらしい。
「そうか、転移陣も基本のところは風魔法だから、転移陣側の熱量が流入したのかもしれませんね」
「そうそう。風と火は物としては掴みにくいから、混じりやすいんだよな」
ジペルスとエイダールの間で、会話が弾む。
「それで?」
魔術師たちの会話についていけないアルムグレーンが続きを促す。
「証言から犯行に転移陣が使用されていることが分かって、そこから現場に再調査を入れて転移陣の痕跡探しを。ですが、未遂の事件の方はかなり時間が経っていたこともあって縁の円形を読み取るのも困難で」
「直近の中央区の方ならまだ残っていたと?」
「ええ、そっちの方は術式まで読み取れそうということになったんですが、現場調査に魔術師も入ったことで魔力の痕跡が入り混じっていて判別が難しくなっていて」
「魔力が入り混じる……?」
どういう状態なのかが想像できず、眉間に皴を寄せるアルムグレーン。
「例えば、現場に犯人の靴跡が残っていたとします。しかし気付かないまま、捜査員が踏み荒らしてしまい、現場には何人もの靴跡が入り混じっている状態です」
何とか分かりやすく伝えようと頑張るエイダール。
「そこで犯人の靴跡だけをはっきりさせるために、現場に入った人間の靴跡を引き算していく作業が必要になります」
「ああ、それで、入った人間の魔力の試料が必要だったんですね」
「そうそう」
試料として預かった魔力をもとに、それと同じ質の魔力を転移陣の上に残った痕跡から除いていくと、転移陣の痕跡だけが残るという寸法だ。
「もう少し転移陣の痕跡がはっきりしていれば、そっちの魔力だけを拾い上げるだけで済んだんですが、何しろ元が薄かったので」
主にイーレンが大変だった。イーレンが読み取って紙に起こしたものを補完しながら、機能するように仕上げなければならなかったエイダールも大変だったが。
「自分が不甲斐なくてへこみますね。転移陣の痕跡に気付かず踏み荒らすような真似をしたなんて。何の役にも立たないどころか邪魔をしてたなんて」
ジペルスは大きく溜息をつく。
「騎士団の魔術師にも見えてなかったよ、普通の痕跡探査じゃ気付かないくらいの薄さだったから」
へこむ必要はないとエイダールは続ける。
「転移陣の痕跡が残ってるかもしれないってことで、そういう意味で物凄く目がいいイーレンが『必ずここにある』と確信を持って集中してやっと見えたって代物なんで。大体の位置特定が出来たのは遺留品を見つけてくれた警備隊のお陰だし……ってことで、試料が必要だった理由の説明は終わりって感じですが」
エイダールは、もう家に帰っていいかな? という顔をした。
「家まで馬車で送らせよう、家はどの辺だ?」
帰りたい、という顔をしたエイダールに、アルムグレーンはそう提案したが。
「すぐそこの職人街なんでお構いなく。ここからなら徒歩五分くらいなんで」
エイダールに馬車を準備しているのを待つより歩いて帰った方が早いと断られる。
「近いな……成程、ユランが入り浸る筈だ」
立地が良すぎる。
「じゃあ帰ります……この食器、食堂に返しとけばいいんですか」
綺麗に平らげた昼食の食器を示すと。
「ああ、こっちで返しておくから置いて行ってくれ。口には合ったかな? 普段はもっといいもの食べてそうだが」
「美味かったです、ごちそうさまでした。さすが体が資本の警備隊って感じで」
肉多めのこってり系だった。
「普段はアカデミーの学食で食べることが多いんで、言うほどいいもの食ってませんが、あっちは甘いものも多いんで頭脳労働には合ってるかも」
食事だけではなくカフェメニューも多く、女性に人気だ。
「甘いものですか……それは魅力的ですね」
ジペルスが食いつく。甘いもの好きらしい。
「学食って言っても一般開放されてるんでいつでもどうぞ」
誰でも利用できる開かれた学食である。
「ええ、食事には時々お邪魔させていただいてますが、甘いものを楽しむほどの暇がなくて」
「せっかく来たのにそんな勿体ない……お勧めは果物のタルト」
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