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第三章 ちゃんと私を見てくださいよ先輩!

Addiction-2

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「何が起こるんだ……!?」
「これは絶対ヤバい……!」

 ドス黒い霧から異様で巨大な威圧感が放たれる。
 私達は、とんでもないモノを呼び覚ましてしまったのかもしれない。

 そう思わざるを得ない程の脅威を、霧の中に感じた。

「ギぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」

 霧の中のナニカがまた、人間とも獣とも言えない不快な叫び声を上げてその姿を現した。

 それは熊のような姿をしていたが、憎しみで満ちている血走った三つの目が付いていた。

 全身の黒い毛はミミズの体のように変質しており、隙間から血がポタポタと溢れている。

 刀のように伸びた赤い爪と牙が、絶対的な殺意を物語っていた。

 化物……。
 私は異形に成り果てた熊を見てそう思わずにはいられなかった。

「グぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」

「うわっ!」

 化物は、ミミズの集合体のような腕を私に振ってきた。即座に私は八重染琥珀を全身に掛け避けようとする。

 しかし化物の速さは軽々と私を超えていた。
 凶悪な爪が、私の左腕を切り裂いた。

「ぐうっ……!」
「琥珀さん!?」

 肉が裂けて腕から血が零れ落ちていく。
 焼けるような痛みが腕に纏わり付いた。

 この化物……見た目以上に凶悪だ……!
 麗紗に引けを取らないかもしれない……。

 傷を負った私を見て、凍牙が慌てて化物に氷の刃を放つ。

「くそっ……! よくも!」
「ガぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」

「ぐあああああああああっ!!」

 だが熊が腕を一振りすると、氷の刃もろとも凍牙は宙へと投げ出されてしまった。

 やっぱりさっきまでの熊とは桁が違う……。
 凍牙の攻撃がまるで通じてない……。

 ここは一旦隠れよう。
 私は凍牙の下に駆け寄って加速で化物から逃げた。

 幸い、化物は自我を失っているようでそこらの木に標的を切り替えた。

「凍牙……凄いの食らってたけど大丈夫?」
「体は痛みますが何とか。ですが琥珀さんこそ酷い怪我じゃないですか……。今の内に千歳さんの薬を飲んでおきましょう」

「うん……そうだね……」

 化物の牙が届かない距離まで引いた私達は、木の陰で千歳の薬を飲んだ。
 特色者に襲われて怪我した時にと、千歳が前に渡してくれたのだ。

 飲んだ瞬間、ぱっくりと開いていた傷口がまるで何事も無かったように消えた。
 これで動くのに全く問題はないな。

 傷を癒した私達は、あの化物をどうするかを考える事にした。

「よし……問題はアレをどうやって倒すか、ですよ……」
「今の私達じゃ厳しいんじゃない? 麗紗が戻って来るまで待った方が……」

「お嬢様ですか……それも手ですがあの様子だといつ戻って来られるかも分かりませんしおそらくお嬢様が来る前に奴に見つかってしまうでしょう。あまり頼り過ぎるのもどうかと……」

「そっか……じゃあどうしよう……」

 麗紗なら何とかなると思ったんだけどな……。
 クソ……あの厨二病め……! 

「ただ、私達にも勝算は十分あると思いますよ。奴は今完全に自我を失っている上に、消耗も激しい状態のようですし」

「まあ確かに……」

 奴は今もひたすら暴れてるだけって感じだし、時々呻き声を上げて体から血を噴き出すんだよな。

 力が強い分、反動も大きいんだろう。
 あの峠みたいに。

 でも力の差がありすぎるんだよな……。
 私がそこを不安に感じた事を察したのか、凍牙が凛々しい表情をして言う。

「奴の力は絶大です。ですがここはやるしかありません。このままではいずれ見つかって倒されるだけです……!」

「覚悟を決めるしかないって事か……分かった、やるだけやってみよう!」

 凍牙の言葉に、私はそう答える。
 正直、奴がどう動くか分からない以上隠れてる方が危ないし。

 奴の攻撃が届く範囲もかなり広い。
 足止めするのが一番だろう。

「それでは、まず私が氷の壁と床で遠くから奴を邪魔します。琥珀さんはここでまた黄玉を溜めて溜まり次第すぐに撃って下さい。溜めた状態の黄玉なら少しは攻撃が通る筈です。当てたら一目散に逃げて下さいよ!」

「分かった!」

 結局さっきとそんなに変わらない戦法に落ち着いた。凍牙は少し化物に近寄り能力を行使する。

 私は八重染琥珀を空気に掛け、輝く光の玉を出現させてそれにエネルギーを注いでいく。

「私の氷が見えますか? はあっ!」

 化物の目の前に、透明な壁を出現させる凍牙。
 しかし化物は一撃で氷の壁を薙ぎ払ってしまう。

 奴には見えてようが見えてなかろうがあんまり関係ないのかな……。

 それを見た凍牙は戦法を変え、地面に氷を伝わらせた。

「くっ……ならばこれで……!」
「ギぃぃぃぃぃっ! グぃぃ!?」

 すると化物は暴れていた勢いも相まって凄まじい勢いで転んでしまった。

「よし……これなら……!」
「グぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」

「なっ!?」

 化物は痛みに怒り狂い地面に豪腕を打ち下ろす。
 地に振動が走り、氷もろとも地面が抉れた。

 ちょっとは効いたと思ったのに……! 
 でもこれで完全に黄玉が溜まった。

 現時点での最大火力を、化物に向けて放つ。
 強大なエネルギーの塊が、化物に炸裂する。

「ゲェェェェェェェェェェェェェェェっ!」

 だがそれも化物は腕一本で相殺してしまう。
 これでも効かないなんて……嘘でしょ……。

 こうなったら誤爆覚悟でやるしか無い。
 私は限界を超えて再び黄玉を溜める。

「ヴェェェェェェェェっ!!」
「今度こそ……! これでどうだ!」

 凍牙が足に氷の刃を出し、また地面を氷で覆う。
 そして化物の前に躍り出る。

「バカ凍牙ッ! いくら遠距離じゃ効かなかったからって――!」
「ギェェェェェェェェェェェェェっ!!!」

「ぐわあああああああああああ!!!」

 残像を見せる程のスピードを出していた凍牙だったが、化物の攻撃の余波で吹き飛ばされてしまった。

 前に出たとはいえ一定の距離は保っていたはずなのに……! 

「最後の手段だ……! “フリーズフィールド”ッ!!!」

 凍牙は何とか体勢を立て直し木の陰に隠れ、切り札を出した。

 夥しい量の氷が、瞬く間に化物の周囲に広がり化物を凍えさせようとする。

「ギゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
「そんな……! 馬鹿な……!」

 しかしそれも化物は破壊してしまう。
 凍牙は呆然として膝から崩れ落ちた。

 あの強さは反則にも程がある……!
 私はそう憤りながらも最後の手段を使った。

 爆散覚悟の黄玉。
 眩しくて直視出来ないそれは、煌めきながら化物に当たった。

 閃光が弾け、凄まじい爆発が化物を襲う。

「はあっ……はあっ……」

 何とか誤爆は防げた。
 お願いだから今度こそ効いていてほしい。

「アゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥっ……」
「……いい加減にしてよ。何なんだよ……何なんだよお前ッ!」

 ……爆炎が止むと、大してダメージを食らっていない化物が姿を現した。

 これだけやって何で効かないんだよ……! 
 私はあまりの力の差に激しい憤りを感じた。

「ゲゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥっ!!!」

 打つ手が無くなった私達の方に、化物が爪を振るう。
 凄まじい衝撃波が私達を蹂躙する。

「ぐああああああああああああ!!!」
「きゃああああああああああああああ!!!」

 体中が、痛烈な悲鳴を上げる。
 逃げ……ないと……。

 死ぬ。

 私が生存本能のまま必死に立ち上がろうとしたその時。

「ぐぁっ……! やめっ…やめろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 凍牙が、左目の眼帯を抑えて呻き出した。





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