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2章 街で幸せに
21 姉と妹
しおりを挟む「── 総員突入!」
!!私の言葉で訪れた一瞬の静寂は次の瞬間に入ってきた多数の騎士達によって破られました。
部屋に入ってきたのは7人の騎士達で、6人は軽装の鎧と綺麗な装飾が施された立派なマントを纏っていました。
「な、何事だ!? 」
「貴公には皇帝陛下への反意、及び税の着服、家人への法外の罰則……他多数の嫌疑が掛かっています。皇帝陛下の御命令により皇城で詳細の聞き取りを行うため、ご同行願います」
「何の事だ……! 私は陛下への反意など持っておらん」
……お父様、皇帝陛下への反意の疑い以外は否定なさらないのですね。
それにしても、、皇室騎士でしたか。道理で佇まいがカトル公爵家の私兵と違うと思いました。
残念ながらカトル公爵家の私兵は質がよろしくありませんので。
それと、先程私を連れてきた方の内の1人も皇室騎士だったのですね、、1人だけ服装が違いますし、顔を見ていたので分かりますが雰囲気が大分変わっています。
……ウィリアム様が気を利かせてくださったのでしょうか?
「── お父様、騒がしいですよ? 何事ですか?」
この可愛らしい声はミラですね。
玄関の方から来たみたいなので、外出から帰って来たみたいですが、今は来ない方が良いでしょうに……。
……それと、このタイミングで皇室騎士の突入、、絶対にウィリアム様が関わってますよね?
「な、何をしてるんですか!?」
「……カトル公爵には多数の嫌疑が掛かっているため、皇城で取り調べを受けていただきます」
「!えっ、お父様、皇城に行けるんですか!?」
……この子は本当に成績優秀なんですよね?
成績優秀という割には何と言いますか……。
「連れていくのはカトル公爵のみです」
「えぇ~、何でですか!? 私も行きます!」
お父様が遊びに行くとでも思っているのでしょうか?
そもそも、この騎士達が見えないのでしょうか?
「ミラ……私は絶対に帰ってくるからこの屋敷で待っていてくれ」
「何でですか!?」
……見方によっては、連行される父とその身を案じる健気な娘なのでしょうが、全く違いますね。騎士の方々も対応に困っているようです。
「……あの、、この方には私からお話ししておきますので皆様はどうぞ、ご自分の任務をなさってください」
「……ありがとうございます。何名か、屋敷の調査をする者を残していきます。何かございましたらこの者達をお呼びください」
私は部外者ではありますが、今くらいはカトル公爵令嬢として対応しても良いですよね?
私の申し出に、他の騎士と色の違うマントを纏った方、、隊長でしょうか? が頭を下げました。
私の服は普通の平民が着ているものですが、髪と瞳の色からカトル公爵家の者だと分かったようです。
隊長を含めた3人の騎士はお父様を連れて出ていき、残った4人は調査を始めました。
「 貴女、誰ですか?」
「……お久しぶりです、、ミラ様」
「本当に誰です? そもそも、何故平民がこの屋敷に入っているの?」
「その事もご説明しますので、部屋を移動いたしましょう?」
「下民が私に指図しないで!」
はぁ、、ではどのように言えば良いのでしょう?
それとミラは案の定、自分が私にした命令を忘れてしまっているようですね。
「── リーナ、手を貸そうか?」
「う、ウィル!? 何故ここにいるのですか!?」
「私が大切なリーナを一人で敵地に送るわけがないだろう?」
「そうは言っても、「ウィリアム様!!」
ミラはウィリアム様に会ったことがあるのでしたね、、ウィリアム様は変装をされているわけでもありませんので、気付かれてしまって当然です。……この様子を見るに一目惚れをしたということでしょうか? 会ったのは一度だけのはずですし。
……嫌です。
「ウィリアム様ですよね? 貴方が亡くなるはずがないと思っていたんです! 式はいつにしますか?」
「ご令嬢、私の名はウィルです。 それに『式』とは?」
「まぁ、愛称で呼んでいいのですね! 式はもちろん結婚式ですよ。 愛らしい私とウィル様の結婚式ですもの、盛大なものにしましょうね?」
ミラが可愛らしくウィリアム様に微笑みます。
……これ以上、私から奪わないで、、
両親向けられる愛情、期待、関心、、全ては妹だけに向けられていました。やっと心が許せる人に出会えたのに、私はまた失ってしまうのでしょうか?
「── 申し訳ないことに、私はここにいるリーナと将来を誓い合っております」
「リーナ?」
ウィリアム様は私を安心させるように優しく手をとり、愛おしいと物語っているような視線を私へと向けました。……それだけで、心に渦巻いていた不安が払拭されます。
「さっきから私の邪魔ばかりして、、平民が私程ではないとしても、そんなに美しくいることが許されるとおもっているの?」
「おや、ご令嬢はカトル公爵家の血筋を示す特徴をご存知でないと?」
「特徴? もちろん、知っていますけど……まさか、、この女があの醜い上に無能だった私の姉だというのですか?」
「ご令嬢、その話の前に場所を変えましょう」
「は、はい、ウィル様!」
* * *
ウィリアム様が人目につくのは望ましくないという事で、掃除以外では滅多に人の訪れない書庫に移動しました。 書庫にはくつろげるスペースもありますし、この家でここを利用していたのは私だけでしたから。
……まぁ、多くの使用人がウィリアム様を見てしまっていますので、今更のようにも感じますが、、
それぞれがローテーブルを囲む一人掛けのソファに座ると、ミラが口を開きました。
騎士達はウィリアム様のことを知っているようで、屋敷の調査に残った内の一人が書庫の前で待機しています。
「それで、ウィル様? この平民の女は何ですか?」
「ご令嬢の想像通りだと思いますが?」
「……『ご令嬢』だなんて寂しいです。“ミラ”と呼んでください! 私達は夫婦になるのですから、口調の方も気軽なものにしてください。 ……それにしても、ウィル様が生きていてくれて、本当に嬉しいです!」
……困りました、話が通じません。
ミラの対面に座るウィリアム様にそっと視線を向けると、ウィリアム様もから困ったような視線を返されました。
「……ミラ様、私はリーナと申します。かつてあなたの姉だった者です」
「嘘をつかないで! 今私はウィル様と話しているんです、下民が口を挟まないで! 大体、あれは髪も肌も荒れていて汚くって、顔にはそばかすまであったのよ?」
「嘘ではありませんよ?……ミラ、あなたは幼かったから覚えていないかもしれないけど、そばかすはあなたのお願いで描いていたのよ?」
─── 私がお母様からの指示で髪を隠し、肌を汚すようになったのは5歳の頃、、ミラはたった2歳の子供でした。
でも子供は2~3歳で簡単な会話が成り立つよう成長しますし、ミラは発語能力が高かったです。
ある日、お母様に本の読み聞かせをしてもらった後で偶然そこにいた私に『ねしゃ、しょばあす』と言ったのです。お母様がその場にいた乳母に『あの娘の顔ににそばかすを描きなさい』と言ってその通りにされると、ミラはとてもご機嫌になりました。
その後、そばかすを描き続けるように指示を出したのはお母様ですが、そばかすを描いていなかった時、3歳になったミラが『おねーさま、きょうはないの? なんで? みらのおねがい、や?』と言って、泣きそうになってしまったためお父様がお怒りになってしまいました。その後も『おねーさま、おかおにそばかすかいて?』というお願いがなくなることはありませんでした。
原因の本自体はそばかすにコンプレックスを抱える少女のお話しだったので、最初は私でそのヒロインを再現したかったの言うのと、覚えたての言葉を使いたかっただけだと思うのですが、いつの間にか嘲りの対象になっていました。
「── そんな話、信じないわ! お姉様が私より綺麗だなんてあり得ないもの」
「では、この髪と瞳の色はどう説明するのですか?」
「そんなの、偽物でしょう!?」
「──キャッ!」
「ッ、リーナ!」
い、痛い……!
急に立ち上がったミラが自分の左前にいた私の髪に掴み掛かりました。すぐにウィリアム様が自分の方へ引き寄せてくださいましたが、令嬢とは思えない力で引かれて抜けた髪がパラパラと床へと落ちます。
「カトル公爵令嬢…… 自分の意に添わぬからと他者に手を上げるとは、、貴族としてあるまじき行いであるとは思わないか?」
~~~~~~~
読んでくださりありがとうございます(^^)
《補足》
~ウィルがリーナを見つけさせようと言った理由~
感想欄で漏らしましたが、ウィルの父である皇帝はリーナに追手がかかったと知って、捜索の手がリーナから遠ざかるように操作していました。
ウィルはしばらくして『父が何かしているのでは?』と気付きます………が!
リーナを苦しめていたカトル公爵家に復讐をしたいと思っているちょっと(大分?)過激なウィル君は、自分の考えと協力の要請をまとめた手紙を元皇子な自分につけられていた護衛に渡しました。
……護衛に気が付いていたことについては“ウィル君は流石、皇子なヒーローでした”で納得していただければm(__)m
それで、なんだかんだ息子に甘い皇帝は、カトル公爵家の怪しい動向が気になっていた事もあり兵を送ります。
……表向きはかなり無理矢理な理由ですorz
裏の理由は作者の都合なので(´-ω-`)
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