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1章 街へ

3 過去と人の温もり

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 さて、私もマチルダさんも食べ終わりましたし、お話しをしますか、、

「それではまず私についてですが、私はカルト公爵家の長女です」

「えっ!カルト公爵家って、この街を治めてる、、あのバカでかい屋敷のかい!? 大貴族じゃないか!」

「はい……ですが、私は母から嫌われていました。マチルダさんと会ったときの格好もそのせいです ───」


* * *


「リーナ、貴女はカツラを被って肌も汚しなさい」

 5歳のある日、、私は突然、お母様に命令されました。

「な、なぜですか?お母様!」

「貴女の綺麗なプラチナブロンドと青銀の眼が気に入らないのよ! 私もミラも地味な黒髪黒眼なのに………」

「お、お父様…… お母様が私に────」

「カトレアの言う事を聞きなさい!」
 
 私はお父様にお母様を窘めてもらおうと思いましたが、私の方が怒られてしまいました。

 子供ながらに理不尽だと思いましたが、お父様はお母様をとても大切にしていて、そのお母様に似たミラを溺愛していたので、私はどうでも良かったようです…………。

 それから、私は自分の部屋の中以外で、前髪の長い茶髪のカツラを付け、顔を含めた肌を汚すという生活を強いられました。

 当時3歳だったミラからも『おねーさま、おかおにそばかすかいて?』と言われ、お父様からも『妹のお願いなんだから聞きなさい!』と言われました。
 多分、まだ3歳だった当時のミラは覚えたての“そばかす”という言葉を使いたかっただけだったのだと思うのですが………。

 そうでなければ、たった3歳のミラが、何でそんな事を言ったのか分かりません、、

 時々、お母様のとミラのを忘れて部屋の出てしまうことがありましたが、その度にお母様が激しくお怒りになって頬を打たれたり、棒で叩かれたり…………本当に辛かったです。

 自分の身を守るには、お母様をを聞くしかありませんでした………。

 そんな生活が続くと私のその格好は当たり前のものとなり、私が13歳になる頃には全員、私に言ったことなど忘れて“醜い”と罵るようになりました。

 13歳から学園に入学しましたが、カツラの色のせいで“汚らわしい私生児”と言われて、、

 当然、友達なんてできませんでしたから、いつも図書室で本を読んでいました。

 そのお陰か、在学中は全科目がずっとトップの成績でしたが、それをお母様とミラに知られたら酷い目に遭うと思って家族には言えませんでした。

 その結果、家族は私が〝家族に言えない程悪い成績〟であると勘違いして、“醜い”という罵りに“無能”という言葉が加わりました。

 まぁ、学園ではそんな私に声をかけてくれる人がいて……第二皇子殿下なのですが、私を気に掛けてくださって、よく本の内容や学園での授業についてなどの話をしました。

 ───あの時間は楽しかったです。

 第二皇子殿下と過ごす時間は、あの頃の私の唯一の安らぎでした。

 そして、15歳になって学園を卒業すると、家の仕事をするようになりました。

 本来、貴族家の仕事は父である ファーレンの仕事なのですが………。

 お父様はお母様やミラと過ごす時間を増やすために財政や他の貴族家とのことは執事長に、領地のことは代官に丸投げしてしまっていました。

 いつも大変そうな彼らに「手伝いましょうか?」と声をかけたらとても喜んでくれました。

 それに、彼らと仕事をするのは楽しかったです。会話はなくても一人ではないと感じることが出来ました。
 それに、学園で学んだことを生かせましたし、日々新たな学びがありましたから。

 ………最近は、お母様とミラの要求がエスカレートしてきて、、


『お姉様にこの綺麗なドレスはもったいないわ!私がもらってあげる』

『ミラ、それが最後の一着なの………それがないと社交界デビューできないわ』

 つい先日、私の最後の一着になった夜会用のドレスを持って微笑むミラがいました。
 他の夜会用ドレスは全てミラが破いてしまったのでそれが最後の一着だったのに………。

『じゃあ、返します』


 ──── ビリッ


『あっ、お姉様ごめんなさい!』

 ミラは破いたドレスを返してくれました。

 アスラート帝国の貴族は18歳になったら社交界デビューするので、少し前に5着のドレスを作ってもらいましたが、もう全てダメになってしまって……。

 新しく作ろうと思っても、お父様から『無駄飯食らいに与えるドレスはこれだけだ』と言われていたので不可能でした。

 18歳になっても社交界デビューしないことは礼儀のなっていない者であることを意味するのに……。

 お母様からは、

『貴女はミラに悪い影響しか与えないのよ! 無能が移るわ。私達の視界に入らないで!』

 ……もう我慢の限界でした。

 そして、18歳になったら家を出ようと決意し、今朝ついに、カトルの姓を捨てました。


* * *



「これが、私があのような格好をして、公爵家を出た理由です」

 マチルダさんは静かに聞いてくれましたが、目に涙を浮かべています。
 マチルダさんは立ち上がって、


 ────ギュッ


 私を抱き締めてくれました。
 
 ────人に抱き締めてもらうのは初めてです……。
 人の温もりとは、こんなにも優しいものだったのですね……。

「辛かっただろうね……自分の娘にそんな事をするなんて、、、ここにいる間はアタシがリーナの母親だ! いくらでも頼りなよ!」

「マチルダさん……ありがとうございますっ」

 






 



 
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