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3章 再交する道

22 . 闇

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 ───見つけた。

 はっ、やはり生きていたのだな。
 どうせ死を辿る運命だと言うのに愚かなことよ。

 しかし……今代の神子が天代宮の半身であったとは想定外であった。生きているだけならばまだよかったものを、魂が修復されてしまっている。時間をかけて心を壊し、あと一歩というところであったになんと遺憾なことか。

 ……天代宮の半身となった故に事を為すのが難しくなった。
 あの天代宮のことだ、余の存在は既に看破し、式神にでも監視をさせていよう。
 そうなればもはや時間をかけたところでなんの意味もあるまい。早急に動くとしよう。


 何故なにゆえここに辿り着くのにこうも時間がかかったのか……この者・・・のせいであろうな。
 余の代となった娘が、余の行動を阻んでいるなどとは思いもしなかった。今この身は余自身。当然、余が起こす行動のすべてが余の意志の下にあると思っていたが、その考えは誤りであったようだ。

 思えば、神子を亡き者にする方法などいくらでもあったのだ。いくら術が効かず、直接触れられぬ程の強い神気を纏っているとは言ってもな。
 神子とは言っても人である。人の身は脆く、簡単に壊れる。
 脳天に鈍器でも落とせば、階段から転がせばそれだけで死ぬこともあろう。同じ家屋で生活していた余にとっては何ら難しくない、いと容易きことであったはずだ。

 それが実際にはどうだ?
 失敗する以前に、そのような行動を起こそうとすらしなかった。いや、行動を起こそうとする気が起きなかった。余がしたことと言えば、神子を精神的にに追い詰めるということのみ。
 ……余ではなく術が及んだものが直接的な行動に出ることはあったが、それだけであった。

 が妖の王となってより早千年か……余は妖の王となってより少なくない数の神子を葬ってきた。神子に死という幕を引くこともはや余の本懐とも言えよう。

 その余が、永き年月変わらぬ本懐としてきた行動を起こさなかったことの、なんと異な事か。

 余の支配下にあると思っていたこの肉体に余以外の意志が残っていたのだ。驚くべきことである。

 代となりながらまだその意識が消滅せず残っているとは只人では成しえぬこと。さらにいえば、この肉体はまだ自我も持たぬ胎児の内に余の代となったのだ。よほどの思いなくして自我を失わず余の行動に影響を及ぼすほどの意志を保つことなど出来ようか?

 ……そのようなある種の慢心、ヒトへの侮りがこの身にある余以外の意志の存在への気付きを阻害したか。いや、今となって過去の失態を悔いたところでなんの意味もないな。

 ……ヒトの心は弱く、簡単に欲に溺れる。
 己の欲のためならばいかに親しくしていた友であろうと、……我が子ですら贄とするような残忍な生き物である。今までに数多のそうした人間の姿を見てきた。

 だというのに、今代の神子の周りの人間はどうだ?
 あの両親も祖母も兄も……代となったこの娘さえも、術に堕ちてもなお余の思いのままには動かぬ。娘、孫、妹そして姉である今代の神子を護ろうと余に抗う。

 今代の神子とあの子・・・の何が違う?


 余も妖の王となった初めより神子を殺すことを本懐としていた訳ではない。

 余は、この千年の間に8人……いや、9人の神子を見てきた。今代の神子は10人目。
 あの子・・・の悲劇を繰り返さぬためと、最初は傍観しているだけであった。そして、余が傍観するに留まった3人の神子は皆同じ運命を辿った。

 最初はヒトから称えられ崇められるも、それは次第に恐れへと変貌し、裏切られる。その後に神子を待っているのは搾取されるだけの、希望など微塵もない絶望の世界。
 そして、その悲劇の中に神子が望むのは死という救いのみ。

 そんな生に何の意味があろうか?

 神子が歩むのは、死なくして苦しみが終わらぬ……いや、死によってしかその苦しみから逃れられないという救いなき運命。

 ヒトを信じたところで妬まれ利用され苦しみに苛まれるだけだというのに、何時の世においても人に寄り添おうとする神子。
 そしてヒトを信じ救いを与えた神子に与えられるのは、欲に満ちた人間から搾取されるだけの生。

 最初は神子をを称賛した人間も、いずれは神子を己の欲望を満たす道具と見なすようになる。そして、その力を恐れ、裏切る。

 ヒトが変わることはない。さすれば神子の運命も変わらず悲劇であり続ける。なんと悲しいことか。
 それでもヒトは同じ過ちを繰り返し続け、その過ちに気が付こうともしない。


 そのヒトの愚かさは筆舌に尽くしがたい。

 余はこの力をもって欲深きヒトを呪い殺そう。
 そして、神子が苦しみに死を望む前に、人の欲に触れる前に余が救い・・を与えよう。

 ……今代の神子よ、時間がかかったことにより苦しみの時間が長くなってしまったが、次会ったときこそ、お前を現世を生きる苦しみから解放する。
  
 神子の苦しみが続く前に、光無き生を終わらせねばならない。はそのために存在しているのだから。














~~~~~~~~~~

 読んでくださりありがとうございます(*^^*)

 先週は更新できなくて申し訳ありませんでしたm(。_。)m
 
 しなければならないことが溜まりに溜まってしまったため、今後も投稿できない週が出てきてしまうかと思いますが、ご理解いただけますと幸いですm(。_。)m


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