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2章 巡り逢う者達

12 . 明かされる真実

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「──じゃあ、俺は帰るね」

「うん、さようなら」

 高橋君が帰って教室には私一人になった。……って違う、桃さんと葵さんもいるんだ……!

「あ、あのっ、桃さん、葵さん」

「はい、ここに」

「どうかなさいましたか?」

 堪らずにこの教室にいるであろう二人を呼ぶと、二人とも姿は現さないけど返事をしてくれた。

「い、今の見てましたよね……?」

「……はい……」

「申し訳ございません……」

 やっぱり……ど、どうしよう?
 ああいうことは麗叶さんに報告されるのだろうか?

「あの、さっきのこと麗叶さんには内緒にしてもらえませんか?」

「もちろんでございます」

「私共は姫様が不快に思われることはしませんので安心してくださいませ」

「ありがとうございます……」

「いえ……さぁ、そろそろ参りましょう。主様が到着されたようにございます」

 ……!

「は、はい」

 れ、麗叶さんにどんな顔をして会えばいいんだろう?
 あれ? 今まではどうしてたんだっけ……?

 えっと……今までの麗叶さんは私にとって何だったんだろう?
 半身ではあるけど、残念ながら私は“半身”の認識が薄かったから……
 加奈ちゃん達との会話の中で言ってた“親”というのとは違ったと思う。
 麗叶さんは私の恩人で、生活する場所も提供してくれている人……“親”とほとんど変わらないかもしれないけど、“保護者”っていうのが近かったのかもしれない。
 
 ……今まで通りに接することができるだろうか……




* * *




「──咲空、今日は何か変わりはなかったか?」

「はい。迎えにきてくれてありがとうございます」

「気にするな。……いつもと様子が違うが、やはり何かあったのか?」

「いえ、そんな!」

 ……正直なところ、隠し通すのは難しいと思う。
 麗叶さんだし、半身は互いの感情をある程度感じとることができると前に聞いたから。
 ……神族側の方が感じやすい感覚である上に、私はいろいろと麻痺しちゃってたから全く分からなかったけど……

 私がいつもと違うと変に思われたり、言わずとも気付かれてしまったりするくらいなら、今言っちゃった方がいい……?

 ……ううん、まだダメ。

 私は自分が感情に疎いことを自覚しているし、恋愛なんて本当にわからない。今もやっと自覚し始めただけの状態。そんな状態で気持ちを伝えるというのは麗叶さんに失礼だと思う。
 私自身にも自分と向き合う時間が必要だし……

 ……思えば、麗叶さんは大切にしてくれているし、とても気遣ってくれるけど、直接的に「好き」だとか「愛してる」だとかいう言葉を放ったことはなかったかも。
 だからといって、言われてこなかったのなら私のことが好きなわけではないんじゃないじゃないかとは思わないけど。……少し前ならそう思ってしまったのかもしれない。だけど、麗叶さん自身から前を向くことの大切さを教えてもらったから。麗叶さんはきっと、私に合わせてくれていたんだろう。
 
 ……ここまで自分じゃない人の気持ちに自信をもてるのって、普通ではない、すごいことだと思う。でも、麗叶さんは私を思ってくれているという根拠のない自信がある。
 ……これが、半身が互いの感情を感じとるという感覚なのかもしれない。

「咲空?」

「あっ、すみません。えっと、友達に今週末一緒に遊びに行かないかって誘われたんです」

「ほう、よかったではないか。そなたは行きたいのであろう?」

「はい……」

「ならば我のことは気にせずに行ってくるといい」

「! ありがとうございます」

「気にするな。……ただ、そなたの生家の周辺には行かないと約束してほしい」

「家に?」

 何かあったのだろうか?
 進んで家に行きたいとは思わないけど、家だけでなく周辺に近づいてはいけないというのは、少し大袈裟な気がする。

「そう不安そうな顔をするな。少し気になることがあるだけだ」

「はい……」

「……黙っていては反って不安になってしまうか……わかった、帰ってから詳しく話そう」



* * *



「──やっぱり、私の家で何かあったんですか?」

「家でというよりは、そなたの家族がそなたのことを探し始めたのだ」

「……今更ですか?」

「……そなたの家族である者達に対してこのようなことは言いたくないが、我自身あの者達に対してあまり良い印象はもっておらぬ。しかし、家族を憎まないでやってほしい」

「……」

 ……家族を憎んだことはないと思う。それこそ、麗叶さんに出会う前までは、出来損ないな私を受け入れてくれる家族を得難いものだと考えていたし、あんな日々であっても家族のことを大切に思っていた。
 麗叶さんに出会ってからは家族のことを考えることもあまりなかったけど、それでも血の繋がりのあるという存在を憎んだり恨んだりすることはできなかった。心のどこかで“家族の絆”というものを信じていたのだと思う。

「家族を憎んだことはありません。……憎めませんでした」

「そなたは本当に優しいな……これは我ら天代宮が過去に犯してしまった失態なのだ」

「天代宮の失態?」

 完全無欠とも言える天代宮が失態を犯すなんてことがあるのだろうか?
 それに、麗叶さんのいう『これ』はどこにかかっているんだろう……
 私の家族と天代宮は過去にも何か関わりがあったのだろうか?

「……以前、をまとめた書を読んだであろう?」

「? はい」

「その中にあったあやかしという存在が出てきたと思うが、その妖の始祖を先々代の天代宮が打ち損じてしまったのだ。……いや、正確には屠ることができたと思い込んでいたのだ」

 妖……平安時代頃の記録を読んだ時に出てきた。確か、人を惑わし時には大きな災害を引きと越すこともある危険な存在だったと思う。
 その妖の始祖……天代宮の目を欺くなんて、普通の存在じゃないのは明らか。麗叶さんの口振りや表情からもその存在の危険さを感じる。

「情けないことに我自身、つい最近まで妖の始祖は消滅したものと思っていた」

「つい最近まで?」

「あぁ、そなたの家族に違和感を感じて調べてみたのだ。……勝手にすまない」

「い、いえ、謝らないでください。……それで、調べて何がわかったんですか……?」

「……妖の始祖がそなたの妹に取り憑いておった。巧妙に隠蔽されていたが確かだ」

「そんな……」

 じゃあ、私が今まで美緒だと思っていたあの子はなんだったの?
 ……それに、妖が人を惑わすというのが本当なら、お父さんやお母さんが私への関心が薄かったのもそのせいだったの?
 
「我ら天代宮が慢心していたばかりに、そなたを苦しめてしまった」

「……妹はいつからその……妖の始祖に取り憑かれていたんですか?」

「生まれた時からだ。……少し長い話になるが、妖の始祖と天代宮の因縁についての話をしておきたい」
 















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