上 下
39 / 45

一難去って

しおりを挟む
ブローバードと対峙しながら、隊長さんは指示を飛ばしていきます。私たちについていた諜報部の人たちは、生徒の誘導と安全確保を、それぞれのパーティーについている騎士に知らせに走りました。ドミニク様たちは、護衛のお姉様たちと離脱済みです。ブローバードを確認した時点で、学園と冒険者ギルドには緊急信号を発してあります。私たちが取り逃がせば、ブローバードは森から出る可能性も否定できません。

「レオとロッテはやつの翼をなんとかしろ!火は使うなよ?森に引火すると大惨事だ」

飛ばないようにしろと言うことですね?分かりました!レオナルド様も同じことを考えたようで、私に視線を寄越し頷いています。

「「はい!」」

「アレク、ドルーガはやつの気を引け!」

「了解」

「また、面倒なところを。フウ。分かりました」

お兄様は顔を顰めています。

「ダイスは首、サイラスは尻尾を押さえろ!ランスとミリーはふたりの補助だ」

「「「「はっ!」」」」

戦闘が始まりました。私とレオナルド様は、森の木の枝を魔法で操り、ブローバードの翼に絡ませますが、すぐに引き千切られてしまいます。凍らせても簡単に氷を砕かれ傷ひとつ与えられませんが、飛び立つことだけは阻止できています。

「さすがに、・・簡単にはいかないね」

「ええ。第6部隊の人たちは流石ですわね」

ランスロット様は鋭い嘴の攻撃を間一髪で避け、ミリーナ様は鈎爪を持つ足で踏み潰されるのを辛うじて避けています。本当にギリギリです。それに比べて隊長さんを含む第6部隊の人たちは・・・・。戦闘狂・・・・。嬉々として剣で切りつけ、鎖のついた大きな鎌を振り回しています。

ギャッ!

ブローバードが大きく翼を広げました。ブローバードの得意とする爆風が放たれる前の動きです。

「させるか!ロッテ!」

「はい!」

レオナルド様の言葉に、私は正面から広げた翼目掛けて水で横向きに竜巻を作り、レオナルド様がそれを凍らせてブローバードの翼に叩きつけました。致命傷は与えられませんでしたが、翼は傷を負い、爆風は防ぎました。

くぇぇぇぇぇぇぇ!

身体のあちこちに深く浅く傷を負い、分が悪いと悟ったのかブローバードが飛び立つべく翼を動かし始めました。

「ロッテ!」

「はい!」

私とレオナルド様はすかさず高く飛び、ブローバードの翼の付け根目掛けて先程と同じ魔法を3度、放ちました。少しは効いたでしょうか?

「レオ、ロッテ!良くやった。こいつはもう飛べない。ダイス、サイラス!留目だ」

「「イエッサー♪」」

隊長さんを含む3人は嬉々としてブローバードの首に正確に致命傷を与えていきます。3時間ほどの激闘を経て、漸くブローバードを狩ることができました。が、周りは大惨事です。夏なのに氷が飛び散り、霜が降りています。木は薙ぎ倒され剥き出しの地面が痛々しく抉れています。

「後の始末は・・・・」

「おやおや。ここに居ないはずの我の妃たちが見えるのは気のせいか?」

「げっ・・・・」

「何故、生徒がここにいる!帰れと命令を出したはずだ」

本来なら避難しているはずのセアベルテナータ殿下とその側近たちが今戦闘を終えたばかりのこの場所に何故いるのでしょうか?

「隊長!申し訳ありません。帰るように事態の説明をしたのですが、この国の命令に従う義務はないと、珍しい魔獣ならその目で確かめたいと訊かず・・・・」

隊長さんは眉を顰めています。

「いくら他国の王太子であっても、こういった不測の事態では従っていただかねば困ります。最悪の事態になれば命の保証はできません。国家間の問題に発展するのを分かっておいでか?」

隊長さんの言うとおりです。何を考えているのでしょうか?

「我の命に従わなかった妃たちには罰が必要だな」

「セアベルテナータ殿下!聞いておられるのか!」

苦言を無視された形になった隊長さんは、厳しい顔をしていますが、これはいつものことです。お兄様が隊長さんに向かって首を振って溜め息混じりに無駄だと伝えると口を閉ざしました。

「寝言は寝てから言ってください、セアベルテナータ殿下。ああ、あなたの妃たちとはダイスとサイラスのことでしたか。失礼しました。殿下にそういったご趣味があったとは存じませんでした。ダイス、サイラス。君たちどんな命令をされたのさ?」

突然お兄様から問題発言を振られたふたりは「「え?え~?!」」と目を白黒させています。

「おや、義兄殿もおられたのか。貴殿も聞いておったであろう?我と共に参加することを野外実習の条件にしたことを。それを破ったのだ。罰が必要だとは思わんか?」

この人は心底それが正しいと思っている自己中なナルシストなのだから、手に負えません。

「全く思いませんね。なにしろ、ここにあなたの妃などいませんから」

「さて、ふたりの罰だが・・・・」

お兄様のこと言うことなんて全然聞いてないし!

成り行きをレオナルド様の背後から見守っていた私に、突然、得体の知れない衝撃が襲いました。

「グハ・・・・ハア・・ンク・・・・」

「ウック・・グ・・・・グハ・・・・」

その衝撃のキツさに立っていられず、崩れ落ちるところをレオナルド様に抱き止められました。

「ロッテ!ロッテ!」「ミリー!!!」

私は必死に冷静になろうと勤め、この衝撃の原因を探っていきます。

「妃たちの苦しむ姿は見たくはないが、今後同じことを起こさぬようその身にしっかりと刻むことだ」

セアベルテナータ殿下の声が遠くから聞こえます。

「きさま!何をした!!!」

ランスロット様の声が頭に突き刺さるようです。

「罰を与えると言ったであろう?聞いていなかったのか?」

「術を解いてもらおうか」

冷静なお兄様の声がぐわんぐわんと頭に響いてきます。

「それはできない相談だな。何、多少精神が壊れても子を生むのには問題ない。さて、我の妃たちを渡してもらおうか」

「何を言っているんだ、この男は?」

「レオ・・・・キンジュツ・・・・ハアハア・・レオノマ・リョク・デ・・・・オオ・テ。ハアハア・・アラガウ・・・・マリョク・・オク・・テ」

それ以上、もうしゃべる気力もありません。ぐったりとレオナルド様に身体を預けて、私は全神経を術の解呪に向けました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

【完結】絶世の美女から平凡な少女に生まれ変わって幸せですが、元護衛騎士が幸せではなさそうなのでどうにかしたい

大森 樹
恋愛
メラビア王国の王女であり絶世の美女キャロラインは、その美しさから隣国の王に無理矢理妻にと望まれ戦争の原因になっていた。婚約者だったジョセフ王子も暗殺され、自国の騎士も亡くなっていく状況に耐えられず自死を選んだ。 「神様……私をどうしてこんな美しい容姿にされたのですか?来世はどうか平凡な人生にしてくださいませ」 そして望み通り平民のミーナとして生まれ変わった彼女はのびのびと平和に楽しく生きていた。お金はないけど、自由で幸せ!最高! そんなある日ミーナはボロボロの男を助ける。その男は……自分がキャロラインだった頃に最期まで自分を護ってくれた護衛騎士の男ライナスだった。死んだような瞳で生きている彼に戸惑いを覚える。 ミーナの恋のお話です。ミーナを好きな魅力的な男達も沢山現れて……彼女は最終的に誰を選ぶのか?

【完結】殺されたくないので好みじゃないイケメン冷徹騎士と結婚します

大森 樹
恋愛
女子高生の大石杏奈は、上田健斗にストーカーのように付き纏われている。 「私あなたみたいな男性好みじゃないの」 「僕から逃げられると思っているの?」 そのまま階段から健斗に突き落とされて命を落としてしまう。 すると女神が現れて『このままでは何度人生をやり直しても、その世界のケントに殺される』と聞いた私は最強の騎士であり魔法使いでもある男に命を守ってもらうため異世界転生をした。 これで生き残れる…!なんて喜んでいたら最強の騎士は女嫌いの冷徹騎士ジルヴェスターだった!イケメンだが好みじゃないし、意地悪で口が悪い彼とは仲良くなれそうにない! 「アンナ、やはり君は私の妻に一番向いている女だ」 嫌いだと言っているのに、彼は『自分を好きにならない女』を妻にしたいと契約結婚を持ちかけて来た。 私は命を守るため。 彼は偽物の妻を得るため。 お互いの利益のための婚約生活。喧嘩ばかりしていた二人だが…少しずつ距離が近付いていく。そこに健斗ことケントが現れアンナに興味を持ってしまう。 「この命に代えても絶対にアンナを守ると誓おう」 アンナは無事生き残り、幸せになれるのか。 転生した恋を知らない女子高生×女嫌いのイケメン冷徹騎士のラブストーリー!? ハッピーエンド保証します。

悪役令嬢に転生したと思ったら悪役令嬢の母親でした~娘は私が責任もって育てて見せます~

平山和人
恋愛
平凡なOLの私は乙女ゲーム『聖と魔と乙女のレガリア』の世界に転生してしまう。 しかも、私が悪役令嬢の母となってしまい、ゲームをめちゃくちゃにする悪役令嬢「エレローラ」が生まれてしまった。 このままでは我が家は破滅だ。私はエレローラをまともに教育することを決心する。 教育方針を巡って夫と対立したり、他の貴族から嫌われたりと辛い日々が続くが、それでも私は母として、頑張ることを諦めない。必ず娘を真っ当な令嬢にしてみせる。これは娘が悪役令嬢になってしまうと知り、奮闘する母親を描いたお話である。

散財系悪役令嬢に転生したので、パーッとお金を使って断罪されるつもりだったのに、周囲の様子がおかしい

西園寺理央
恋愛
公爵令嬢であるスカーレットは、ある日、前世の記憶を思い出し、散財し過ぎて、ルーカス王子と婚約破棄の上、断罪される悪役令嬢に転生したことに気が付いた。未来を受け入れ、散財を続けるスカーレットだが、『あれ、何だか周囲の様子がおかしい…?』となる話。 ◆全三話。全方位から愛情を受ける平和な感じのコメディです! ◆11月半ばに非公開にします。

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

時間が戻った令嬢は新しい婚約者が出来ました。

屋月 トム伽
恋愛
ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。(リディアとオズワルド以外はなかった事になっているのでifとしてます。) 私は、リディア・ウォード侯爵令嬢19歳だ。 婚約者のレオンハルト・グラディオ様はこの国の第2王子だ。 レオン様の誕生日パーティーで、私はエスコートなしで行くと、婚約者のレオン様はアリシア男爵令嬢と仲睦まじい姿を見せつけられた。 一人壁の花になっていると、レオン様の兄のアレク様のご友人オズワルド様と知り合う。 話が弾み、つい地がでそうになるが…。 そして、パーティーの控室で私は襲われ、倒れてしまった。 朦朧とする意識の中、最後に見えたのはオズワルド様が私の名前を叫びながら控室に飛び込んでくる姿だった…。 そして、目が覚めると、オズワルド様と半年前に時間が戻っていた。 レオン様との婚約を避ける為に、オズワルド様と婚約することになり、二人の日常が始まる。 ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。 第14回恋愛小説大賞にて奨励賞受賞

婚約者を腹違いの妹に寝取られ婚約破棄されましたが、何故か騎士様に求婚されたので幸せです!〜むしろ溺愛されすぎて困惑しています〜

るん。
恋愛
「──お姉様。私、ラインハルト様の子を妊娠しましたの」 突然腹違いの妹、ロージュに言い渡された婚約者との不貞関係。 婚約者のラインハルト様は子供の頃に婚約してから1度も私(ケイ)に手を出したりしなかったが、それは大切にされている訳ではなく「お前は地味すぎて女として見れないから仕方がないだろう」……と。 妹のことだ。 私よりも何もかも優れていないと気が済まないのだろう。妹は伯爵家の次男との婚約が決まっていたがそれを破棄して侯爵家長男のラインハルト様と結婚することになるらしい。 お父様も妹には激甘で「今回のことは水に流してあげなさい。お前は姉なのだから」とのこと。 女としてのプライドを傷つけられ、デキ婚という複雑な形で例えモラハラ気質な相手だとしても婚約者を奪われた私は絶望していた……が。 婚約者破棄が正式に発表されるや否や、侯爵家の子息で有能だと名が知れている騎士様に求婚を受け、何か裏があるのではないかというくらい溺愛されて逆に困ったことに──? ✩︎設定ゆるめです ✩魔法が存在する世界観です ✩サクッと読めるように1話を短めにしています。 ★2021年6月19日、ホットランキング4位ランクインしました!皆様のおかげです!ありがとうございます。! ★しっかり長編が読みたい!という方は、【異世界でナース始めました。】も是非お読みください!異世界転移×魔法×恋愛のファンタジー小説です! ★更新がゆっくりめで申し訳ありません。お待ち頂いてる方々にとても感謝しております!いつもありがとうございます!

処理中です...