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デビュタント

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我が国では、15歳から夜会に参加出来るようになり、一番最初に行われる王家主催の夜会でデビュタントのお披露目をするのが習わしとなっています。ですからAクラスの殆どが今年が社交界デビューとなるのです。もちろん、私とレオナルド様もそのお披露目に参加します。デビュタントの衣装は、白。お母様とお義母様が、私とレオナルド様の衣装をお揃いになるように誂えてくれました。一目見ただけで対になっていると分かる意匠です。

夜会のエスコートのために我が家に家族で来たレオナルド様を見て、その洗練された居で立ちにぽけっと魅入ってしまいました。

に、似合いすぎです、レオナルド様。

この隣に立ちたくないと思ったのは許してください。月とすっぽん、美女と野獣・・・・。この場合私がすっぽんで野獣です。

お母様もお義母様もしてやったりとニンマリしていましたが、お父様やお兄様は苦虫を潰したような顔です。お義父様は、ニコニコしています。

「ロッテ、お揃いだね♪よく似合ってるよ。可愛い」

レオナルド様は、上機嫌で私をぎゅうしてきます。ボソッと「誰にも見せたくないなぁ。夜会、サボっちゃいたい」耳許で囁かれ、ボンと赤い顔が更に赤くなってしまいました。正装をするレオナルド様を見るのは初めてで、ぎゅうはされ慣れているはずなのに、レオナルド様の子供の頃とは違う逞しさを意識してしまい、夜会前からフラフラクラクラしてきました。

「レオ。ロッテが倒れる。じゃ、私はビアを迎えに行くよ」

「ああ。会場で落ち合おう」

お父様とお兄様が私の背後で言葉を交わしていますが、レオナルド様はいっこうに解放してくれません。それどころか私の髪の崩れなさそうな所に顔をすりすりとしてきます。私は段々と茹だってきてしまい、それを察したお父様によって強制的にべりっと剥がされました。

「あっ。あぁ・・・・」

レオナルド様の残念そうな声が響きました。今はお父様の腕の中です。上を見上げると、米神に青筋が立ちそうなお父様の顔があります。

「まあまあ、あなた。落ち着いて。今日のエスコートはレオナルドですよ?」

「ロッテちゃん、今日はレオナルドから離れないようにね?お花摘みも一人で行ってはダメよ?」

「いやあ、女の子はいいねぇ。実に華やかだ」

「女の子と言えば、来年からお義姉様の娘さんが留学生としてお出でになるでしょう?」

それは初耳です。

「まあ!フリーデル様の娘さんがいらっしゃるの?是非、お会いしたいわぁ」

「それがねぇ。あまりよろしくなくて・・・・」

「何か懸念でも?」

「ええ。実は・・・・」

お義母様の目が輝いたように見えたのは私だけでしょうか?

「ああ、もう時間だ。遅刻してはまずい。そろそろ行こうか」

お義父様の一言で、盛り上がりを見せそうだったお母様たちの話はひとまず終わり(もっとも名残惜しそうにしてはいましたが)、私たちは、馬車3台に別れて夜会の会場である王宮へと向かいました。いつものごとく私はレオナルド様の膝の上にいます。今日はクロエはお屋敷で留守番です。アーデルもいません。仮婚約者がエスコートする場合に限って付添人シャペロンを伴う必要がないからです。つまり、この馬車の中は私とレオナルド様だけということになります。その馬車の中で、レオナルド様が先程のことをお話ししてくれました。

「ロッテ。さっきも母上が言っていたけど、来年から私の従妹が来るんだ。父上の姉の子だよ」

「そうなのですね。仲良くなれるといいのですが。1年生ですか?」

「うん。・・・・それでね。・・・・えっと」

何故かレオナルド様の歯切れがよくありません。キョロキョロと視点も定まっていません。

「何か懸念でも?」

「そのね。従妹はキルム王国のファイアウォール公爵の息女で、名前はミランダ・ファイアウォール。その・・・・。私の最低相性のひとりなんだ。小さい頃に一度会っただけなんだけど、その時、その、・・・・魔力に当てられて倒れる程だったんだ。なのにその時から私と結婚するんだって、自分で釣書まで送ってくる始末だ。もちろん、すぐに断ったよ?私はロッテ以外に興味はないから。でも、しつこくて。まだ諦めてないみたいなんだ」

「まあ・・・・」

何と言えばいいのでしょうか?恋敵?出現?

お兄様も卒業してしまわれましたし、来年の学園生活が少し不安になってきました。

「でも、でも。私にはロッテだけだよ。ロッテが一番だからね?何があっても私を信じてくれる?」

「はい。レオを信じますわ。最低相性ですと大変なんですね」

「いや。私とミランダ嬢の相性が異様に悪いんだよ。普通はちょっと不快になる程度かな。じゃなきゃ生活できないでしょ。カイザール様に教えていただいたんだけど、相性にも程度があってね。私とロッテの相性は最高の中でも最高で、ミランダ嬢は最低の中でも最低なんだよ。アレクはそこまでは分からないって言ってた。時々私みたいな魔力に敏感な子が産まれるんだって」

「まあ、男の人は大変ですね」

私、女の子でよかったです、本当に。

「ロッテの魔力は、ふかふかでほわんほわんで甘くて美味しいよ。だからロッテの近くにいると安心できる」

綿菓子?私はレオナルド様にとって綿菓子なんですね・・・・。

レオナルド様は、「ハァ・・・・」と疲れたように息を吐き、私の肩に顔を預けてきました。

「学園が始まったら、傍にいてね?」

余程、その従妹とのことが負担になっているのか、珍しく弱音を吐くレオナルド様の背中をポンポンと宥めている間にお城に着きました。レオナルド様のエスコートで馬車を降り、会場に足を踏み入れると、そこは贅を尽くした煌びやかな光景がひろがっていました。美味しそうな食事も用意されています。

「ロッテ、レオナルド。暫くすると陛下がおみえになるだろう。そうしたらすぐに挨拶に行けるように、玉座の手前まで行く。それまでは、挨拶回りに来た貴族との交流だ。面倒だが、これも貴族の仕事だと思って諦めろ」

私たち公爵家が挨拶しなければ、他の貴族家は陛下に挨拶ができません。我が家は筆頭ですから、一番に挨拶が必要になります。

我が家とバーデンテール公爵家の揃ったこの場には本当にたくさんの貴族家の当主と奥方が挨拶にやって来ました。クラスメイトも両親にくっついて挨拶に来てくれて、その時ばかりはほっと一息です。

「国王陛下並びに王妃陛下がご入場されます」

この一言で私たちはさっと動き、言われた通り玉座の手前で頭を垂れました。

「みなの者、よく来てくれた。今日はひとつ重大な知らせがある」

そして、知らされたのは、第2王子のフィリップス殿下の王族からの抹消とエルシア・ヒッチコック侯爵令嬢との仮婚約の解消及び王命によるクレマチス・シャベルテート男爵令嬢との婚約・・でした。クレマチス様と婚姻されるまでフィリップス様はグラスホップ男爵を名乗るそうです。

会場がざわめきに包まれました。ですが、お父様たちより上の世代になると驚はあるものの冷静に受け入れているように見受けられます。あの野外実習で結局第2王子は、男爵令嬢の所属するCクラスのパーティーについて行ってしまいましたからその結果なのでしょう。こっそりとエルシア様を伺い見ましたが、ローランド様にエスコートされて、学園では見たことのないゆるゆるの顔をしていました。可愛い♪ローランド様はきっと気が気じゃないでしょうね。




「やっぱりこうなったな」

「だから、あのとき忠告したんだ」

「既にあちらの祖父母も亡くなっている。爵位を継いだ兄とは縁を切っているはずだ。バカな貴族の口車に乗らないことを祈るよ」

「どのみち双方とも子は望めない」

「それもそうだ」

お父様とお義父様の間でボソボソと何やら不穏な会話がされていますが、聞こえない振りです。隣のレオナルド様も私を腕の中に納めて、ニコニコと私を見ています。聞こえていないはずはありませんが、知らん顔です。触らぬ神に祟りなし、ですよ。



そんなビックリな発表もありましたが、私とレオナルド様はお披露目のダンスも恙無くこなし、美味しいお料理やお菓子もたくさん戴いて、平穏無事にデビュタントを飾ることができました。
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