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お兄様が連れてきた家庭教師は今年学園を卒業したばかりの青年だった。名前をマイケルといい、教師の能力を持ち、学園の教師を目指している。学園の教師になるには、3年以上の家庭教師の経験が必須。その後、試験に合格して、晴れて学園の教師になれる。

「これから、クルーガ殿が学園に入学するまでの予定で教えることになってる。よろしくね。まずは、学力を把握するためのテストから」

渡されたテストを解いて愕然とした。王国の歴史、魔法学、魔法史、語学、算術。え、こんな程度でよかったの?お兄様にさせられた2年前のは何だったの、かな?

「マイケル先生。これは、学園で学ぶ内容の全てですか?」

顔がひきつる。

「いいや」

そうだよね。ほっとした。

「最後の数問は、学者や研究者には必須だけど、学園では触れないよ」

「・・・・。すみません、お兄様に用事があるのを思い出しました。テストは終わりましたので、半刻ほど席を離れてもよろしいでしょうか?」

「そんなに急ぎなの?」

「はい。急ぎですし、とても重要なことです」

「分かった。いいよ」

私はお兄様が居るであろう執務室に勢いよく飛び込んだ。

「お兄様!!!」

「シュシュ。そんなに慌ててどうしたの?もっと優雅にいつでも落ち着いて。マナーの時間を増やすべきかな?」

私は一度だけ深呼吸して、お兄様を問い詰める準備を整えた。

「わたくしは充分落ち着いておりますわ。それよりも!お兄様、わたくしに嘘をつきましたわね?」

「何のことだい?」

すっとぼけた表情に腹が立つ。

「2年前のテストのことですわ」

「ククク、やっと気が付いたのかい?いつ聞かれるかヒヤヒヤしながら待ってたよ」

お兄様は悪びれることなく、にっこり笑ってしれっとしている。

「#♯%>♭\+^・・・・。私を試したのですね」

「はは。予定では半分もできないはずだったんだ。まさか、全部解くとはね。一度学園の恩師にその回答を見せたら、目を剥いて誰が解いたのか詰め寄られたよ」

ほんと、楽しそうですこと。

「何故!」

「うーん、理由は色々。シュシュの本気を見てみたかったのが一番かな」

「そんなことのために」

「うん。シュシュの解答は間違いに規則性がなかったからね。適当にわざと不正解にしていると思ったんだ。その通りだったみたいだけど。普通、苦手な計算や覚えられない名前やあやふやな記号は決まってる。同じところで躓くんだよ。例えばね、5+7が苦手な子は15+7も間違える。でもシュシュは、5+7は間違えるのに15+7は正解する。おかしいだろ?学園ではもっと上手くやるように。それに、今日の顔合わせの前に言ったろ?学園のレベルを把握しておきなさい、ってね」

ああ、お兄様には敵わない。そんなこと気付きもしなかった。王宮から派遣された教師よりお兄様の方が余程教師に向いているに違いない。そんな些細なこと、王宮の教師の誰も気づかなかったというのに。


家庭教師の出したテスト問題を全て解いてしまったことから、私の学力は研究者相当と判定されてしまった。クルーガからは尊敬の眼差しを浴びている。マイケル先生にはバレてしまったことだし、学園の勉強を知るためにもクルーガの勉強に時々付き合うことにした。そして、余っている時間の一部は、嬉々としてマイケル先生に確保され、研究課題に付き合わされるはめになった。

算術を専攻しているマイケル先生は、今回の問題の中に自分の取り組んでいる問題研究課題を入れていた。それが、ゼロより少なくなる計算と丸いものを等分に分ける方法だ。つまり、3-4=?と円を8等分するというもの。頭の柔らかい子供なら新しい視点から何か出てくるかも!という発想からだそうだ。・・・・・・・・。理想的な解答を導きだしてしまった私に迫るマイケル先生を止めたのはクルーガだった。ああ、こんなはずじゃなかったのに・・・・。

後日、ガイウスにこのことを話したら大笑いされた揚げ句に「やっぱりシュシュは間抜けだな」と呆れられた。自分でもそう思うから膨れる以外に出来ることはなかった。ここでも私は致命的なミスをしているのだが、ガイウスが何も指摘しなかったから気付くことはなかった。私が帰ったあと、ガイウスが大きな溜め息つきながら頭を抱えたことを私は知らない。

ポロポロとボロを出しつつ、周りの気遣いによって私は恙無く生活し、学園に入学する日を迎えた。ガイウスの工房から通うことを許され、ウキウキの私を送り届けてくれたお兄様はとても複雑そうな顔をしている。

「くれぐれも、くれぐれも頼んだよ?」

ガイウスにそれだけを言うと心配そうに帰っていった。

学園では、私はCクラス、リルアイゼはSクラスになった。このクラス分けは教養科目の成績だけでなく、魔力量と魔法の属性数、能力によって決められる。平民程度の魔力量と土魔法の下位属性である植物魔法、それに能力が調薬では、S→A→B→Cのうち最下位のクラスになるのは必然だった。リルアイゼの姉というだけで注目を浴びるのは分かっていたが気分のいいものではない。それでも目立たず、ひっそりと学生生活を送るつもりだった私の計画は、リルアイゼによってあっという間に崩されてしまった。
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