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その日の夕方、私は初めてガイウスと工房から領地の屋敷へと転移した。

「やっぱり、ライナスの妹だな」

「それは違うよ。お兄様は天才的な才能で転移を編み出したけど、私のは他力本願だから」

「???どう言うことだ?」

「まあ、それは、関係者が全員揃ってからね。まずは、お兄様に会いに行きましょう」

自室からガイウスを伴い、お兄様の執務室を目指した。この時間ならまだそこにいるはずだ。ここに居るはずのない私とガイウスに行き会った使用人たちは一瞬驚いた顔をするものの、すぐに、ああ、と納得の表情を浮かべた。お兄様の転移で来たと思ったのだろう。



コンコンコン

「どうぞ」

私たちを招き入れたもののお兄様は書類に目を通したまま顔をあげない。私たちには気づいていない。

「ペイジ。夕食か?」

そこでやっと顔をあげたお兄様の驚愕振りは凄まじかった。2度見どころか3度見して頭を振り「働きすぎだな」と納得していた。

「違いますから。幻ではありませんよ、お兄様」

「!!!???どうやって?まだ、王都のはずだろう?引っ越しは1月先じゃなかったか?」

私たちは1月後このグランダ領で生活を始める。ライオネル領でないのは、こっちの方が職人が少なく、お得意様の多いハワード辺境伯領に近いからだ。と言うのは建前。本当は私がお兄様の力になりたいと言ったから。ガイウスがその願いを聞き入れてくれたのだ。フフ。愛されてます♪

「まずは、夕飯にいたしましょう?そのあとでプルメアお姉様をも交えて大切なお話がございます」

「俺たちとお前たちの身の振り方を左右する話になる。子供を寝かしつけたあと、アルベルトのところで話し合いたい」

ガイウスの言葉にすっと表情を引き締めたお兄様はすぐに動き出した。そして、2刻後には王宮に居る王太子殿下のところに突撃訪問した。




「!ご、護衛はあ!!!・・・・」

突然現れた私たちに咄嗟に声をあげた王太子殿下を『たいしたものだ』と誉めたのはコマちゃんだ。お兄様たちを連れて転移したのはキュウちゃん♪王宮には独自の魔法が張り巡らされていて、お兄様の転移では弾かれてしまう。声を出して叫ばれることも想定して、着いて直ぐ様結界を張って音漏れを防ぐ早業はキュウちゃんだからこそできる。

「どうやって入った?」

全員の視線が私に注ぐ。

「全てをお話いたしますが、その前に王太子妃殿下を内密にお呼びください。あなたが国王となる暁には王妃として隣に立つお方であるならば、無関係ではいられませんから」

王太子殿下の片眉が器用に上がった。

「侵入者の戯れ言をこの私が聞くとでも?」

「・・・・では、女神の愛し子としての命、ではどうですか?」

「愛し子は妹の方なのだろう?証明できるのか?」

王太子殿下は、私の意図を探るように目を逸らそうとはしない。

「出来ます。ですが、何度も説明する気はありません」

目を逸らさずはっきりと言い切った私に、王太子殿下は目を見開いた。愛し子の証明はできないというのが通例なのにそれを覆そうというのだ。私の本気を感じたのだろう。

「いいだろう。暫し待て」

王太子殿下は、私たちを残し、人を呼ぶのではなく自ら隣室へと赴いた。緊張感が漂い空気が重い。やがて・・・・。ちょっと不機嫌な王太子妃様を伴った殿下が戻って来た。

「待たせたな。適当に座ってくれ。さて、まずは私の私室に勝手に押し入った言い訳とその方法を聞かせてもらおうか。やっと執務が終わって寛げると思ったところだったのだ」

くだらない理由じゃないだろうな、との圧が凄い。王太子妃様も頷いているからこれからふたりでイチャイチャの予定だったのかもしれない・・・・。

「まずは、お茶をお出ししますね」

落ち着いてゆっくりと話したい。私は、自分の異空間箱から熱いお湯とマドレーヌやマカロンといった軽くつまめるお菓子を取り出した。全員が目を見開いてその様子を凝視しているが、そんなの無視だ。

「殿下、紅茶を戴いても?」

「・・・・」

驚きすぎて返事もできないようだ。私は勝手に了解を得たと判断して、王室の美味しいお茶を淹れた。

「どうぞ」

毒味もかねて私から紅茶とお菓子を戴いた。まだ、誰も動かない。

パン!

ありきたりだが、手を打つことでみんなの意識を引き戻した。

「なななな、それは、何なのだ?!」

王太子殿下の第一声。

「シュ、シュ、シュ。・・・・どうなっている?」

これはお兄様。シュがひとつ多いです。

「シュシュ~。まだ隠してたか」

これはガイウス。あら、他にも何かご存じで?

「美味しそうね」

「綺麗だわ♪」

これは、プルメアお姉様と王太子妃様。女性は綺麗で美味しいものには目がないよね。

「それどころではないだろう?」

お姉様たちは異空間箱には興味がないというか、理解できない事柄は目の前の美味しそうなお菓子現実に負けるのだろう。

「まあまあ。ちゃんとお話し致しますから」

「さっさと話せ」

「では、まずここに来た理由ですが・・・・。リルアイゼと国王陛下たちを痛い目に遭わせようと思いまして」

「ブッホ。な・・いきなり物騒なことを言い出すな!愛し子と陛下に刃を向けると言っているようなものだぞ?それは反逆罪にあたる。口にした時点で首と胴が離れても文句は言えんぞ?それに私はこの国の王太子だ。分かって言っているのか?」

辛うじて紅茶を吹き出すことを回避した王太子殿下の言い分は正しい。それに全員が青い顔をしている。だが・・・・。

「お兄様のことはご存じでしょう?それに加えて、リルアイゼからガイウスと離縁してハーレムに差し出すよう言われましたので」

「ハーレム・・・・」

間違ってないよね?

「あー、それは・・・・。リルはシュシュの地雷を見事に踏み抜いたね」

さすがにお兄様は理解が早い。私に付け加えるようにガイウスがお兄様の冤罪による追放のことを話して聞かせた。プルメアお姉様は怒りで拳が震えている。

「赦せませんわ!これまで、何もしてこなかったくせに!」

「その事は私も赦すつもりなどないが、なぜ私を巻き込む?」

「ええーと。ちょっと国王陛下には退位していただこうかなぁなんて考えてまして?陛下が退位したら次の国王は・・・・」

ちらっと王太子殿下を見る。ニヤリと悪い笑みが返ってきた。

「愛し子ならば可能だな。いいだろう。協力してやる。ただし、その方が本物の愛し子だと証明できたら、の話だが」

私と王太子殿下の利害が一致した瞬間だった。
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