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本当に終わります?
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クラウスは婚約してから忙しい合間をぬって、3日と開けず私に会いに来てくれる。私はこの国の第2王女、クラウスは公爵家の長男で跡取り息子だった。お互いに随分と出世したものだ。私の18歳の誕生日を待ってクラウスの家に嫁入りすることになっている。またクラウスのお嫁さんになれると思うと今まで散々してきたお勉強にも身が入るというものだ。
「ねぇ、クラウス」
「ん?どうした?」
「今回は騎士にならないの?」
「ならない。俺には向いてないことが前回でよく分かったよ。今は領地経営の方が楽しい。向いてると思う。あ、でも剣の腕は落ちてないぞ?毎日鍛えてるからな」
クラウスの体格は前回と変わっていない。熊のようにおっきくてがっしりしているから抱っこは安定感があるし、目線が高くなるから大好きだ。クラウスの膝の上もお尻の座りがよくて落ち着く。顔も強面のままだ。この顔に安心するのは私くらいだろう。
私たちの婚約から数ヵ月後、隣国にいるウィリアム殿下がこの国に番を探しに訪れた。謁見の間でウィリアム殿下を目の前にした姉のローズマリー=今の名はクリスレイア、は瞳を輝かせてウィリアム殿下に見入っていた。ウィリアム殿下は相変わらず、彫刻のように完璧な美貌の持ち主だった。
「ローズはクラウスが番だなんて可哀想ね。今からあの容姿では将来も期待出来なくてよ?それに引き換え、ウィリアム殿下のお美しいこと。ハア」
私の今の名前はローズマリー。この死に戻りでは名前が入れ替わっていた。案の定、お姉様はウィリアム殿下に一目惚れのようだ。
「お姉様。クラウスと比べるのはおやめください。クラウスにはクラウスの良いところがたくさんあります。それに、わたくしはあのような美しい方の隣には立ちたくありません。見劣りしてしまうわ」
「あなたならそうよね」
フン!と見下したように私を見るが、私にそっくりなあなたに言われたくはない。違うのは瞳の色くらいだ。お姉様は瑠璃色、私は茶色。
「これ、ふたりとも。お行儀よくなさい」
こそこそとお喋りしていた私たちはお母様に叱られてしまった。それに気付いたウィリアム殿下が、目元を緩めくすりと笑みを溢したのだが、それに見惚れたお姉様は顔を真っ赤にして俯いている。私は・・・・。ただただ早く終わらないかなぁと、明後日の方向を向いてこの後会う約束をしているクラウスのことを思い描いていた。その私をウィリアム殿下がじっと見ていたなんて気付きもしなかった。
「クラウス♪」
謁見を終えて、王族が退出する扉から外へ出るとクラウスが待っていてくれた。私は両手をあげて抱っこのおねだりだ。
「ローズ、お行儀が悪いよ」
お兄様に注意されても知らん顔でクラウスに抱き上げてもらう。だって、番なら普通でしょ?お父様とお母様は別室で隣国の両陛下と会談。お姉様はウィリアム殿下とお茶会と称した歓談。そちらに行くはずのお兄様は・・・・。私たちについてこようとするお兄様を追い払い、ふたりで私の部屋に面した庭にある四阿山に来ている。
「どうだった?」
「ウィリアム殿下は相変わらず彫像のような整った顔立ちをしていたわ。お姉様は一目惚れしたようよ」
「マリーは?グラッとこなかったのか」
「もう!意地悪なこと言わないで!」
「冗談だ」
「むう」
膨れて見せた私にクラウスは額に口づけを落とした。番として婚約したからかクラウスはこういった接触をよくしてくる。クラウスにされるのは嬉しい。それだけで機嫌が治ってしまうくらいには。
「・・・・あのね。ありがとう、クラウス。クラウスが婚約してくれなかったら、わたくし、きっと倒れてた。本当はあの人に会うのも怖いの。気付かれるんじゃないかって」
震えそうになる身体をクラウスにしがみつくことで宥める。ウィリアム殿下は、私に混乱しかもたらさない。あの人は私の本当の番だから本能で求めてしまう反面、私に死をもたらす存在でもあるから本能が拒絶もするのだ。私はクラウスがいい。番でなくても一緒に幸せになれる人だ。
「悪かった。大丈夫だ。これを着けていれば、気付かれることはない」
クラウスはゆっくりと私の髪を鋤くように撫でてくれた。
「そうよね」
私はクラウスから婚約の証として、小指に指輪をもらった。クラウスとお揃いだ。これは、番避けの装飾品なのだが、そうとは分からないように細工してある。番同士がつけるお揃いの装飾品が番避けだとは誰も思わないだろう。
「ウィリアム殿下がここに滞在する間だけでも、俺の家に来る?」
「いいの?」
「もちろん。俺も家族も大歓迎だ。連れてこいと言われてる。マリーもここにいるのはしんどいだろう?」
「うん。お母様に聞いてみる」
私は両親とお兄様に許可を取り付け、早々にクラウスの家に避難した。ウィリアム殿下が滞在する間、ずっと緊張したまま過ごすことも覚悟していたから、クラウスと一緒に居られる時間が増えるのは嬉しい。お姉様のクローゼットには番避けをしていない状態で身に付けた装飾品や羽織などを分からないように忍ばせてある。若干、匂いが弱いかもしれないが、何とかなるだろう。私は安心してクラウスのお家での日々を満喫した。番がいる私はウィリアム殿下と会う必要はなく、お城で開かれるパーティーや園遊会に参加することはなかった。このまま会うことなく帰って行くと思っていたある日、前触れもなく、ウィリアム殿下がクラウスの家を訪れた。私に会うために。
「ねぇ、クラウス」
「ん?どうした?」
「今回は騎士にならないの?」
「ならない。俺には向いてないことが前回でよく分かったよ。今は領地経営の方が楽しい。向いてると思う。あ、でも剣の腕は落ちてないぞ?毎日鍛えてるからな」
クラウスの体格は前回と変わっていない。熊のようにおっきくてがっしりしているから抱っこは安定感があるし、目線が高くなるから大好きだ。クラウスの膝の上もお尻の座りがよくて落ち着く。顔も強面のままだ。この顔に安心するのは私くらいだろう。
私たちの婚約から数ヵ月後、隣国にいるウィリアム殿下がこの国に番を探しに訪れた。謁見の間でウィリアム殿下を目の前にした姉のローズマリー=今の名はクリスレイア、は瞳を輝かせてウィリアム殿下に見入っていた。ウィリアム殿下は相変わらず、彫刻のように完璧な美貌の持ち主だった。
「ローズはクラウスが番だなんて可哀想ね。今からあの容姿では将来も期待出来なくてよ?それに引き換え、ウィリアム殿下のお美しいこと。ハア」
私の今の名前はローズマリー。この死に戻りでは名前が入れ替わっていた。案の定、お姉様はウィリアム殿下に一目惚れのようだ。
「お姉様。クラウスと比べるのはおやめください。クラウスにはクラウスの良いところがたくさんあります。それに、わたくしはあのような美しい方の隣には立ちたくありません。見劣りしてしまうわ」
「あなたならそうよね」
フン!と見下したように私を見るが、私にそっくりなあなたに言われたくはない。違うのは瞳の色くらいだ。お姉様は瑠璃色、私は茶色。
「これ、ふたりとも。お行儀よくなさい」
こそこそとお喋りしていた私たちはお母様に叱られてしまった。それに気付いたウィリアム殿下が、目元を緩めくすりと笑みを溢したのだが、それに見惚れたお姉様は顔を真っ赤にして俯いている。私は・・・・。ただただ早く終わらないかなぁと、明後日の方向を向いてこの後会う約束をしているクラウスのことを思い描いていた。その私をウィリアム殿下がじっと見ていたなんて気付きもしなかった。
「クラウス♪」
謁見を終えて、王族が退出する扉から外へ出るとクラウスが待っていてくれた。私は両手をあげて抱っこのおねだりだ。
「ローズ、お行儀が悪いよ」
お兄様に注意されても知らん顔でクラウスに抱き上げてもらう。だって、番なら普通でしょ?お父様とお母様は別室で隣国の両陛下と会談。お姉様はウィリアム殿下とお茶会と称した歓談。そちらに行くはずのお兄様は・・・・。私たちについてこようとするお兄様を追い払い、ふたりで私の部屋に面した庭にある四阿山に来ている。
「どうだった?」
「ウィリアム殿下は相変わらず彫像のような整った顔立ちをしていたわ。お姉様は一目惚れしたようよ」
「マリーは?グラッとこなかったのか」
「もう!意地悪なこと言わないで!」
「冗談だ」
「むう」
膨れて見せた私にクラウスは額に口づけを落とした。番として婚約したからかクラウスはこういった接触をよくしてくる。クラウスにされるのは嬉しい。それだけで機嫌が治ってしまうくらいには。
「・・・・あのね。ありがとう、クラウス。クラウスが婚約してくれなかったら、わたくし、きっと倒れてた。本当はあの人に会うのも怖いの。気付かれるんじゃないかって」
震えそうになる身体をクラウスにしがみつくことで宥める。ウィリアム殿下は、私に混乱しかもたらさない。あの人は私の本当の番だから本能で求めてしまう反面、私に死をもたらす存在でもあるから本能が拒絶もするのだ。私はクラウスがいい。番でなくても一緒に幸せになれる人だ。
「悪かった。大丈夫だ。これを着けていれば、気付かれることはない」
クラウスはゆっくりと私の髪を鋤くように撫でてくれた。
「そうよね」
私はクラウスから婚約の証として、小指に指輪をもらった。クラウスとお揃いだ。これは、番避けの装飾品なのだが、そうとは分からないように細工してある。番同士がつけるお揃いの装飾品が番避けだとは誰も思わないだろう。
「ウィリアム殿下がここに滞在する間だけでも、俺の家に来る?」
「いいの?」
「もちろん。俺も家族も大歓迎だ。連れてこいと言われてる。マリーもここにいるのはしんどいだろう?」
「うん。お母様に聞いてみる」
私は両親とお兄様に許可を取り付け、早々にクラウスの家に避難した。ウィリアム殿下が滞在する間、ずっと緊張したまま過ごすことも覚悟していたから、クラウスと一緒に居られる時間が増えるのは嬉しい。お姉様のクローゼットには番避けをしていない状態で身に付けた装飾品や羽織などを分からないように忍ばせてある。若干、匂いが弱いかもしれないが、何とかなるだろう。私は安心してクラウスのお家での日々を満喫した。番がいる私はウィリアム殿下と会う必要はなく、お城で開かれるパーティーや園遊会に参加することはなかった。このまま会うことなく帰って行くと思っていたある日、前触れもなく、ウィリアム殿下がクラウスの家を訪れた。私に会うために。
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