天使は女神を恋願う

紅子

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邂逅

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ミカエル様の体温が心地よくて、王様達が来ているにも関わらず、ストンと眠ってしまった。



暫くすると、何処か見知らぬところを漂っていることに気がついた。見知らぬところと言うか、只々、真っ白な空間。目が覚めたわけではないようだ。何故なら、頬をつねってみても痛くない。

「そうですね。ここは、貴方の夢の中です。やっとお会いできましたね」

誰?と聞かなくても、私をこの世界に連れてきた女神様しかいないだろう。

「思考を読むの止めてもらっていいですか?」

「お察しの通り、私が貴女をこの世界に連れてきました。貴女にどうしても助けて欲しい者が居たからです」

声だけが聴こえてくるというちょっと不気味な状態だ。

「何故、私なのですか?他にもたくさんいるでしょう?というか、姿は現せないんですか?」

「そうね。貴女なら平気ね」

ゆらりと空気が揺れ、そこに現れたのは・・・・。 

「えっ!ミカエル、様?・・・・じゃないよね。女神様なの?」

ミカエル様にそっくりな髪の長い女性が佇んでいた。それにしても、プロポーション抜群で、美しいの域を越えている。

「ええ」

女神様はとても寂しそうな笑顔を見せた。

「どうして私を呼んだの?」

「その話しの前に、この世界のことをお話しさせて?」

徐に切り出された女神様の昔話しは、それはそれは長かった。要約すると、いかに駄女神かという話しだったと思う。あるいは、ポンコツ女神と言ってもいいかもしれない。

つまり、この世界で一番美しいのは女神たる自分だとするために、左右対称のものを排除し、崇拝され畏怖されるように魔獣の外見をちょっとだけ自分に似せた。銀の髪と金の瞳がそれだ。容姿も自分より美しくならないよう、ふくよかな体型やスレンダーな体型に寄せた。

すべては、自分が一番美しい・・・・・と称賛されるためだった。しかし、時は流れ、女神様の思惑は予期せぬ方向へと進み、一番美しいはずの自分が一番醜い存在に成り果ててしまった。それを打棄すべく創られたのがミカエル様だという。ミカエル様と言う存在を通して、この世界の意識を塗り替えようと試みた。結果は、言うまでもない。

それを聞いた私の心情が分かるだろうか?あまりにも駄女神すぎて、開いた口が塞がらない。

「貴女がポンコツなのは良くわかりました。さて、貴女はこの世界をどうしたいのでしょう?この世界に浸透している美意識を今更変えるなんて、それこそ長い時が必要ですよ。ミカエル様を創ることが出来たなら、もういっそのこと、全ての生命をそのレベルの美しさにし続けたらどうです?そうすれば、いつか貴女も美しいひとり・・・として認識されるかもしれませんよ?ミカエル様ひとりに何が出来るというんです?多勢に無勢。濁った水に清らかな一滴を垂らしたところで何も変わるはずがありません」

もっと言いたいが、ポンコツ相手にするのは、疲れるだけだ。

「分かってるわよぉ。ここは、私が一番最初に造った世界なんだから、仕方ないじゃない。チヤホヤされたかったのぉ。他の世界はもっと真面目に造ったわ。ミカエルのことは、魔が差したと言うか・・・・。私がこの世界に姿を現したらどんな反応になるのか見たかったのよ。もう絶対にこの世界には姿を現せないわ」

「貴女が助けて欲しいのはミカエル様なんですね?」

「ええ。あの子には申し訳ないことをしたわ。本当なら、生まれるはずのなかった子なのよ。私の我が儘で、理不尽な目にたくさん遭ってるわ。だから、貴女に助けてほしかったの」

「何故、私なんです?」

「魂の相性、とでも言うのかしら?生物にはね、それぞれ魂が持つ輝きがあるの。どの世界でも、その魂の輝きを何かしらの方法で表現してる。この世界では生命の持つ魔力に現れるわ。この世界で魔獣になる生き物は、その素質があるからよ。人も生き物である以上、魔獣になる可能性がないとは言えない。今のところないけど、人が魔獣になっちゃったら、魔王になるのかしらね。その魔力の相性がいいと産まれてくる子は神力を授かりやすくなるの。もちろん、それだけじゃないけど。相性のいい魔力はね、相手の体液が甘く感じられるのよ。でも、ミカエルは私が介入したことで、ちょっと特殊な生命になってしまったわ。この世界の誰もあの子の魂の輝きを見つけられない。あの子には幸せになってもらいたくて、あの子の輝きを分かってくれる子をいろんな世界から探したわ。だって、あの子は私だもの。そうして、見つけたのが貴女。最初から不思議なくらい馴染んだんじゃない?」

確かに。初めから怖くなかった。一緒にいると陽溜まりにいるみたいに気持ち良かった。

「他にも居るんじゃないですか?」

「そうね。もっと探せばひとりくらい居るかもね。でも、今、この世界では、貴女だけだわ」

「私は、元の世界では、どうなっているんですか?」

「どうなっていて欲しい?異母兄を糾弾したい?事故死がいい?それとも貴女の存在そのものを消したい?」

「帰ることは出来る、の?」

帰りたい訳じゃない。でも、聞きたかった。

「今なら出来るわ。この世界では、貴女の存在はまだ薄いから。帰りたい?」

ふるふると首を横に振った。今更、ミカエル様を独りになんて出来ない。

「帰りたくはない、けど。パパのことだけは心配だから」

「どうして欲しい?」

「・・・・事故死にして。異母兄が疑われるとパパの会社に迷惑がかかるから。できるなら、パパには私は幸せだって知って欲しい」

「分かったわ。異母兄が去った後、足を滑らせて落ちたことにしましょう。防犯カメラをそのようにしておくわ。貴女のお父様には、貴女の結婚式を夢でライブ中継するのでどう?きっと安心すると思うわよ」

「それでいいです」

うん。絶対に無理だと諦めていた花嫁姿をパパに、例え夢でも見せられるのは嬉しい。隣に居るのがミカエル様なのは、もっと嬉しい。その時にパパに伝えればいい。ありがとうと幸せだよと。

「ひとつだけ。余計なことかもしれないけど、貴女の異母兄のこと」

本当に余計なことだった。今更、異母兄が私を愛していたとか。あの人が人間不信なのは知ってる。なのに、たったひとり初めて愛した人が異母妹わたしで、その葛藤とか行き場のない想いとか、そんなの知らされても困る。ポンコツは、ポンコツだった。


「改めて、この世界へようこそ。正式にこの世界の住人になるには、ミカエルとの体液の交換が必要だけどね。貴女には、この世界でミカエルと幸せになってもらいたいの。そのためにも、神力を授けましょう!」

ポンと手を打って、さもいい考えだと、嬉しいだろうと言わんばかりだ。

「いえ、神力、要りませんから。それよりも、子供が神力を授かるには、魔力の相性の他にどんな条件を満たすと授かるんですか?」

「えー!駄目よぉ。ミカエルの傍にずっと居て貰うためには必要なのよぅ。サービスで3つあげるわ。神力はね、その人生に合わせて魂が自ら選んでくるの。魔力の相性がよい両親でも、子の魂が不要と判断したら授からないし、逆に魔力相性悪い両親でも必要と思ったら、稀だけど得られることもあるわ。ひとつ言えるのは、神力を授かる魂は輝きが強いわ。それがどんな大悪党でもね」

「それなら!ミカエル様に差し上げてください!それがいい!要するに、気紛れってことか。所詮、人には計り知れないってことですね。なら、贈り人は?全員が持っていた訳じゃないみたいですけど」

「そうともいえるわね。贈り人も同じよ。魂が必要と判断したら宿るの。普通の贈り人は、私と邂逅することすらないわ。貴女は別よ。ミカエルは、産まれたときから神力を2つ持ってるわ。でもそうね。もうひとつ貴女から授けるといいわ。分け与えるっていうのかしら。同じ神力が宿るわ。うん。正式な住人になるためにも必要だし、丁度いいから、やっちゃって♪」

何を?

「あら、そろそろ時間ね。貴女達、ふたりとも奥手だから不安だわ。ちょっとだけ力を貸すから頑張るのよ。そうそう、第二王子は、王族じゃないから。側妃と第二王子は、禁足地に入れないはずよ。彼らには気をつけて」

その言葉を最後に、白い空間は遠ざかっていった。変わりに、心配そうなミカエル様の顔が瞳に映る。その途端、身体が勝手に動いて、唇に柔らかい何かがあたる。

ああ、体液の交換ね、と、霞がかかった思考でぼーっと舌をさ迷わせていると、ペタッと何かに触れた。そこに向かって魔力と思われるものが流れ込んでいく。気持ちいい。

あれ?私、何してる?

次第に晴れていく思考に、自分のしていることに気づいて、叫びだしそうになった。今は、ミカエル様の舌に翻弄されて、息も絶え絶えだ。身体に力が入らない。くたりと全身の力が抜けた。ファーストキスがこんな濃厚だなんて、しかも私からミカエル様にしたなんて、ちょっと記憶から抹消したい。まあ、ミカエル様も耳が赤いから、いいか。女神様は私達ふたりとも奥手だって言ってたから、こんなことでもなきゃ、ずっと出来なかったと思う。余計なことを!と思ったけど、許してあげてもいいかもしれない。やっぱり、この人の傍は気持ちいい。

「大好き♪・・またしてくれる?」

私の顔もミカエル様と同じくらい赤いに違いない。恥ずかしくてもちゃんと伝えないと、この人は我慢して、遠慮してしまう。自分との行為を「気持ち悪い」と言うくらいだ。どれだけ伝えても足りない。

「ありがとう」

私の言葉の意味を正確に汲み取ったミカエル様は、私をふんわりと包み込んで、優しく触れるだけのキスをくれた。
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