不憫な貴方を幸せにします

紅子

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先手を打たれました

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その日は朝から浮かれていた。だって、朝からグランに会えるんだもん。時間よりも早くから玄関の外でソワソワとしている私を、執事と侍女たちは微笑ましく見ている。

「お嬢様。お時間にはまだお早いですよ。まだ、お友達の馬車も見えません」

「分かっているわ。だって、嬉しいんですもの」

「お友達とご一緒なさるのは初めてでございましたね」

セルマたちには、昨日のうちに友達と一緒に王宮へ行くことは告げてある。セルマはうちのタウンハウスの執事。お父様はお茶会後すぐに幼い弟のいる領地に帰っているから、ここでの私の保護者のようなものだ。セルマたちは、落ち着きなくはしゃぐ私を微笑ましげに見守っている。

「おや、お嬢様。馬車が来ましたよ」

玄関に横付けされた馬車には、王家の家紋が施されていた。グランは本格的に動いてくれるようだ。それを見たセルマの顔色が一瞬のうちに変わった。更に追い打ちをかけるように、そこから出てきた人物が、フードを被ってはいるが、誰だか見当が付いたようで、膝から崩れ落ちるのを執事というプライドだけで保っていた。

「待たせたか?」

私がグランに駆け寄ると、さっと抱き上げられた。いつものことだ。

「ううん。これで行くの?御者台にいるのは誰?」

「ああ。あれはベリルの創ったゴーレムだ」

「本当の人みたい」

『ティナよ。セルマが倒れそうだ。説明する気がないなら早くここを離れよ』

ライムの助言に後ろを振り向くと、セルマだけは青い顔をしつつも馬車の近くに待機しているが、侍女たちは他の使用人によって屋敷の中に運ばれている。これって、グラン効果?

「セルマ。行ってまいります」

馬車が走り出すと同時に外が騒がしくなった。ザクロ曰く『セルマが気絶しただけだ』という。命に別状はない。

「分かっただろう?私が姿を現すと普通はああなるんだよ。あの執事は耐えた方だ」

「凄いね!グランのそばにいれば危険が減るってことだよね?私、ザクロとライムの能力だけでも身の危険を感じるのに、この外見でしょ。絶対グランから離れない」

グランは困った子を見る目で私を見た。グランだけでなく、4体の守護精霊も同じような目で見ている。あれ?何か間違ったこと言った?

「そういうことじゃないんだけど。まあ、ティナがそう思うならそれでいいよ」

それから暫く馬車の中でキャッキャウフフと戯れているとあっという間に王宮に着いてしまった。残念に思いながら、グランのエスコートで馬車から降りると、そこには何故かエルフィント殿下とライオネル殿下がいた。

「な!何故ベルティナ嬢がお前といる?!」

「嘘でしょ?どうして?!」

「ご機嫌よう、エルフィント殿下、ライオネル殿下。御前、失礼致します。行きましょう、グラン」

驚愕の2人を残して、グランとその場を後にする。

「ま、待て」

「ベルティナ嬢」

我に返った2人が静止をかけるが、グランがその必要はないと判断したなら、それに従うだけだ。

「ティナ。陛下には話を通してあるが、このまま向かう?それとも他の婚約者候補たちに会ってからにする?」

え?陛下に会う?聞いてない。聞いてないよ、グラン!!!私はただ、私が誰の婚約者になるつもりなのか公にしたかっただけなのに。グランは驚く私をフードの陰から愉しそうに見ている。グランがその気なら、先手必勝。話を通してあるなら、陛下に会わないという選択肢は消えた。

「陛下に先に会いに行く」

後回しに出来るわけないでしょ?!

「分かった」

グランの満足げな顔からそれが正解だったようだ。

「待て!何の話だ。何故、父上に会うのだ?俺も行く!」

エルフィント殿下は、何かを察したのか、ついてくると言い出した。

「兄上が行くなら、僕も!」

騒然とする廊下を私はグランに伴われ、2人の王子を従える形で、陛下の待つ貴賓室へと足を進めた。
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