混(線)の処女

月琴そう🌱*

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第四章 野いちご

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「眠ったら大分スッキリしたよ 悪かったな」
 笑ってるけど、それは俺にそう見せてるだけだ。
「虹生……」
「ゴハンまでホント、悪い」
「虹生、一体何が」
「おばさんにお礼言わないとね」
「 虹 生 ! 」

「  ……〝イタズラ〟だよ……レイプじゃない」

「――!……何が……あったんだ……虹生……」

     胸にあった言葉ではあったが、聞きたくもない言葉でもあった。

 虹生は考え事をしているような表情で自分の唇を触り、その指を今度はボンヤリ見ている。
唇に血が滲んでいた。

「虹生……頼むから……!」
「……大丈夫だよ……深刻じゃない」
「だからって!何が大丈夫なんだよ!」
「……」
「分かった この前廊下で擦れ違ったヤツだろう」
「旺汰もう、いいからやめてくれ」
「 何 が い い ん だ よ !! 」
「――声、大きい」
「なあ……虹生……お願いだから……」


     「……旺汰……こっち来て……」



 虹生の隣に座り、顔を見た。
いつもの彼にはほど遠い。生気を全く感じない表情。

  
  俺と目も合わせられない?
  こっち見てくれないの? 
  俺に話してくれないの?

   ……頬が赤くなってる

「ぁ……触っても……いい?……」

 言葉よりも先に触れてしまいそうになった。
彼は小さく頷き、さっきのように避ける事はしないでくれた。

「手……触ってもいい?」

 他人に触れるという事は、言葉にしたらこんなに滑稽なやり取り。
許しを請うて許されて、絶対に乱暴にしてはいけない事。
彼は俺の手に、自分から合わせて来てくれた。
その手はヒンヤリとして冷たく、いくつものアザが腕に出来ているのが見えた。

「痛くない?本当に痛くない? ……本当に?」

 ああ……どうしてこんな事になってしまったんだろう。
綿を包むように彼を抱き締めた。
本当に辛いのは彼。俺ではなくて彼。


 どれだけの恐怖をお前はひとりで受けていたんだ
 どうして俺はそこにいなかったんだろう
 どうして俺はお前と一緒じゃなかったんだろう
 どうして俺はお前をひとりにしてしまったんだろう
 俺にもそれを分けて欲しい
 お前は一生懸命自分を守っていた
 こんなにアザを作りながら
 小さなこどものように頼りなく寄り掛かって 
 まだ震えてる 
 怖かった 怖かった って

 ああ  どうして  どうして


  ごめん……虹生…………



 ベッドから毛布を引っ張り、頭から包むように巻いてまた抱き締めた。
 彼があたたまるように 
 あたたまって、震えが治まるように。




  あったかい……
  やさしいな……  旺汰は 
         
      なんで  オマエが泣くんだよ
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