混(線)の処女

月琴そう🌱*

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第四章 野いちご

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 図書室を閉めるまでに、まだ少し時間があった。
本の背表紙眺めながらそこで時間を潰していても良かったのだが、何となく足が反対方向の体育館に向いてしまった。
夜に保護者の集会があるとの事で、屋内使用の部活動は今日はここを空け、体育館には誰もいなくガランとしていた。

 誰もいない体育館は気配だけがあるようで、普段の喧噪さを思ったらあまり気持ちのいいものじゃない。
けれどふと、去年までの自分がうっすら過った。
ここの体育館の匂いは、去年までの三年間に自分が無色になるまで馴染んだものとは違う匂い。

 図書室に行こうとした所で出しっ放しになっているバスケットボールが目に入り、カバンと学ランを隅に置いてボールを手に取った。

 不思議なものだ ボールを持っただけで、いつもの上履きが途端に頼りなく感じるんだから。
自分はまだこれの感覚を、すっかり失くしたわけじゃないらしい。
指でその肌の感触を確かめながら、リングを睨んでボールを放った。
狙いを外しボールはリングにぶつかって、大きな音をたてて弾き飛んだ。
誰もいない体育館は、失敗を大げさに響かせてるように聞こえた。

  ウワ~鈍ってる……

 ボールを一回二回と床に打ち、再びリングを睨み―
「ッシャーーッッ!」
「ッイッシューッ!」

 誰もいないと思っていたのが、声が聞こえて飛び上がるほど驚いた。
ボールを拾いに行くよりも先に、声の方を確かめた。

「お前、バスケしたいの?」
  わ この人バスケ 部?……
「い、いえ ボールが出てたのが見えたんで、片付けついでにと思って……スイマセン」
「いや、いいよ それ、ウチのタマじゃないし……お前一年か?何か見た事あるな」
  ―! コイツ……
「……帰宅部です……」
「ナンだよバスケやればいいのに」

 サッとソイツの胸を見たけどネームプレートがひっくり返されていて、名前も学年もはっきり分からなかったがコイツはオレの〝モト先輩〟だ。

「一年平岡……もしかしてお前、月琴中出身?」
「……はい」
「バスケやってた?」
「…………はい」
「あーーっやっぱりか……ナンだよ帰宅部かよダセエなあ ま、いいや……いいよ俺が片しておくから」

 と言いながら、彼はあの頃のままらしかった。
ボールを向けても受け取る手を出さず、中学時代のバスケ部の面々の今の話を始めた。
聞いた所で興味は湧かず、けれども彼の気に障らない程度に反応をしながら付き合った。
ボールをこのまま放って出て行きたい。
そうしたいと思いながらそれも出来ず、捕まった時間がやたらに長く感じていた。
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