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第二十一話 ”不思議なエッちゃんマジック”
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彼の母は数年前に天国に召されたが、姉とは度々ドッグランで会い、ふたりは転がるように遊んだ。ふたりで金の衣をワッサワッサと靡かせ走る姿は、まるで風に揺れる金のドレープのようだ。姉弟は夢中で遊び、そしてそれぞれの家の家族の元に戻る。
彼は瑞月が小学生の低学年の頃に藤井家の一員になり、瑞月の弟一号という肩書きを授かった。出生地は瑞月のバイト先の蕎麦屋の店主宅。蕎麦屋の店主宅は彼の生みの親の家である。彼女は十匹の子を産み、蕎麦屋店主はその中の一匹の子を彼女の元に残し、他を愛犬家の友人に託した。その一匹が藤井家の彼である。
瑞月の弟であるが、兄の年齢をすっかり超えた老犬である。兄が遊んでいる間に、ゴハンを食べている間に、眠っている間に、トイレに行ってる間に――
彼は音もなく兄である瑞月を超えた。
老の域に入りはしたが、その愛くるしさは昔と変わらずそのまま。
大好きな兄のそばで彼は彼なりに考え行動し、そして兄と同じマジックにかかった。
🌱
ボクの名前は”ダイちゃん”です。本当は「デヴィッド」ってカッコイイ名前があるのに、みんなボクを”ダイちゃん”って呼びます。ちなみにいつも一緒に遊ぶお姉ちゃんは「キャサリン」。だけど、おじさんに”カヨコ”って呼ばれてます。もう、どっちが名前でニックネームなのか、分かんないね!ま、いっかフフッ
でもね唯一キチンとボクのことを、”デヴィッド”って呼んでくれる人たちがお母さん以外にいるんだ。けれどその人たちがいるソコは、ボクにとって何度行っても恐怖の館的存在でしかないの。建物がどんなにキレイで窓ガラスに楽し気な仲間のステッカーを貼っていても、それは”ダマシ”というやり方の”ゴマカシ”だ!とにかくコワイんだ・・そして今、ボクには分かる。
「ダイちゃんオイデ!イイ子ダネー!」
大好きなお父さんが”イイ子”とか言ってボクを喜ばそうとしてるけど、目が笑ってないお父さんが既にコワイよう。ごめんなさい。ボクは本当にアソコだけはイヤなんだ。お父さん、ボクをアソコに連れて行こうとしてるでしょう?
いつだったかなんて、ソコで泣きじゃくるボクを落ち着かせる為に、必死になってたお父さんはボクを呼んでるつもりで
「サツキ!ほら、ダイジョーブだからサツキ!ああサツキ!アーッッサツキーーッ!!」
って、そこにいないサツキの名前をずっと呼んでたんだよ。ボクもそうだけど、お父さんのココロも乱れてたんだね。もう、お父さんったら!あーっはっはっはっはっはっはっはっ……はあ……その位ボクを宥めるのに、お父さんはいつも必死。分かってるよ大事なことだって。で、でもコワイよ ヤダよ……((ガタガタガタ…))
ア!あれは ”エ ッ ち ゃ ん” だ !!
ボクは家族以外で大好きだと思うただひとりは、”エッちゃん”なんだ。エッちゃんに助けてもらおう!
エッちゃんボクを助けて? そして―― 赤 ち ゃ ん を 作 ろ う !!
「きゃあ」
「コレ ダイちゃんダメでしょ! ごめんねエッちゃん大丈夫だった?ウチのダイちゃんは、エッちゃんが大好きなんだよ」
うん!そうだよお父さん さすがお父さん分かってるね!ボクは大好きなエッちゃんに会えると嬉しくなって、つい赤ちゃんが欲しくなるんだ。でも、いっつも怒られちゃうんだよね。……はぁ……ボクと君の赤ちゃん欲しいなあ……。きっとかわいいだろうな……。
君と僕の赤ちゃんが生まれたら……
スゴイよエッちゃん!ボクたちの赤ちゃんが10匹も生まれちゃった! みんな元気でかわいいよ!よく頑張ったねエッちゃん! ボク、こんなに嬉しいと思ったのは生まれて来て、これで三度目だよ ホンッと嬉しくって涙が出ちゃう ありがとうエッちゃん!大好きだよ!!
嬉しくって嬉しくって、自慢のシッポが飛んで行きそう。飛んで行って未確認飛行物体扱いされて、ボクの大事なシッポがペンタゴンにそのまま保管されちゃったらどうしよう! スゴイでしょうボク、”ペンタゴン”なんてヘンな言葉知ってるんだよ。ずっと前にお兄ちゃんと一緒に見てた、”不思議シリーズ”っていう本から覚えたんだ。
君に負けない位かわいいボクらのベビーたちは、お腹が空いてきっとお乳を欲しがるだろうね。それにしてもニンゲンって不便だよね。お乳がふたつしかないなんて。でもボクもちゃんと育児に協力するから、そこは安心してねエッちゃん(ハート)君ばかりに負担は掛けられないよ。だって、ずっと欲しかった、君とボクの赤ちゃんなんだから!!
君のお乳はふたつしかないのに、ボクらのベビーは10匹もいるから毎日毎日大変。だけどボクも頑張るからね!ふたりで頑張って、この大変な授乳期を乗り切ろう!!
ボクはまずベビーたちに、”待つ”ということを教えなければいけないね。
ボクはもう、お父さんなんだから。
これ、オマエ!ソッチに行ってもまだエッちゃんのお乳はもらえないよ!
けれどボクがいくらそう言っても、ボクらの元気なベビーたちは言うことを聞いてくれない。そしてお腹が空いて空いてガマンが出来なくなってしまったベビーたちは、君の全部がお乳だと勘違いを起こし始めるんだ。
「あっはっはっはっはっはっはっ…」←エッちゃん(くすぐったい)
エッちゃんが笑ってる!楽しそう!ボクも仲間に入れてもらおう!!
ああ…なんて楽しい毎日何だろう……ね…エッちゃん……
ねえエッちゃん 最近、ボクの大好きなお兄ちゃんの匂いが、君からするんだ。ボクを”楽しい我が家”の一員にしてくれた、大好きなボクのお兄ちゃん。
エッちゃんも大好きだけど、お父さんのもお母さんのも大好きだけど、お兄ちゃんが一番スキ……。
お兄ちゃんがボクを弟にしてくれたことが、ボクが生まれて一番嬉しいと思ったことなんだ。ボクは弟一号で、二号はブロック遊びに夢中。一緒にブロックで遊ぼうとすると、怒られちゃうんだ。だからいつもそばで見ていて、ボクを見てくれるのをおとなしく待っているんだよ。エライ?
ボクは気付いたんだ。ああ、そうなんだって。お兄ちゃん!やっぱりお兄ちゃんってスゴイね。”不思議に負けない、不思議なパワー”をお兄ちゃんは持ってるんだ。ボクはずっとそう思っていたよ。ボクのハナがそう教えてくれていたんだ。お兄ちゃんはずっとエッちゃんのことが好きだった。お兄ちゃんのお願いごとが叶ったのはきっとお兄ちゃんの”不思議に負けない、不思議なパワー”のせいだってボクには分かるよ。さすがボクのお兄ちゃんだ!フフッ
いつかさ ボクがニンゲンになったらって考えちゃった……。お兄ちゃんのそのパワーと、”エッちゃんハート”にボクは期待してるからね!お兄ちゃん!!
でも今はお父さんと病院に行って、「藤井デヴィッドくん」って呼ばれてくるね。……
「ダイちゃんどうしたの?」
「今日は父さんの先生がやってる病院で、予防接種してもらうんだって」
「お父さんがするんじゃないんだ」
「うん 嫌われたくないからだって」
「ふーん……」
🌱
「ねえ旺汰…エッちゃんって…… かわいいよね……」
「……うん…かわいいよ…… エッちゃんは……」
俺たちはさっきから
「虹生……」
「ん?」
「エッちゃんって かわいいよな……」
「うん かわいいよ エッちゃんは……」
朝からずっとこの調子で、同じ会話を繰り返していた。飲まず食わずで今はもう、オヤツの時間になろうとしている。試験勉強所ではない。そろそろこの状態から脱却しなければ。さもないと、本当にヤバイことになりそうだ。
彼女のことばかりが浮かぶのはナゼだろう。彼女のことを無性にナデ転がしたくなるのはナゼだろう。そんなことがドンドンドンドン自分の中を一杯にして行く……。俺の中が彼女で埋め尽くされてしまいそうだ。ヤバイと気付きながら止まらない。止められない。それはまるで後から後から続く波のように、俺たちはそこから抜け出せずにいるような――
このままでは…… イケナイ……
虹生!…
待って!待ってよ旺汰
なんで?なんでだよ虹生
ごめん旺汰……今、こんな気持ちのままで抱かれてもオレ……
……虹生……
やはり睨んだ通り、お前の方が重症らしい。こんな俺でもまだ軽症ということか。お前を弄りたくなるのだから……。虹生、お前の苦しみはどれほどなんだ。クッ…あの”マジック”にふたりしてやられるとは……。
ごめん 旺汰…… だってエッちゃんが……
彼女が?
……かわい過ぎて……
『・・・・・』
お前がそうなることは何となく予感はしていた
!… 旺汰、でも聞いて あのね…
お前が言おうとしていることも察しが付く
旺汰……!
虹生、俺も正直に言う……彼女は……エッちゃんは……かわいい……か わ い ス ギ ル ……ナ デ ナ デ し た い………
旺汰……
考えようか ふたりで
!…もしかして
どうやったら出来るのかを
『 お れ た ち の か わ い い エ ッ ち ゃ ん !! 』
に、なるか?
ふたりで考えよう
そうだね でも難しそうだよ
難しいだろうな でも…でも……何とかしないとこのままでは……(俺はお前にも触れない)
旺汰…
ん?
旺汰も苦しいの?
苦しい……何とかして彼女を……
エッちゃんを……
……エッちゃんを ふたりで……
『・・・・・』
「と、いうことでまずはその為の”練習”をしておかなければ、と思うんだ虹生」
「”練習”?オレたちで?……”練習”?」
「そうだエッちゃんをお迎えした時の為の、俺たちの”練習”だ」
「じゃあさ旺汰」
「なんだ?虹生」
「オマエ……”エ ッ ち ゃ ん 役” になって」
「 !! 」
「ダメか?旺汰…… やさしくスルから…… ねえ いいダロ・・・」
「ちょ、ちょっと待ってくれ(まさかの展開)」
「大丈夫だ旺汰 オレはオマエをアイシテル それにオレは分かっていることだ だから……(スケベなオマエと違ってやさしくデキル)」
「ま、待ってくれ ちょっと待ってくれ!」
「オマエさっき言っただろう!”練習”しようと!」
「お……俺が……《 ”エ ッ ち ゃ ん 役” 》……」
「な… 旺汰…… アイシテルヨ・・・さあ……」
「まっまっ待ってくれ」
「ズルイぞ旺汰!オレには散々ムリヤリだったくせに!!」
「今言うか?人聞きの悪い!じゃあ聞くぞ お前のソレは穢れなき俺への”愛”なのか!虹生!!」
「!……クソウ…」
「分かったか虹生 だからさあ……(いつものように)」
「クソッ……オレだって…」
「ま、ソレはオイオイな お前のキモチが分からなくもない(フウ…)」
「……オレだって…… 赤ちゃんが……」
「 ン !? 」
「オレだって 赤 ち ゃ ん が 欲 し い よ !! 」
「ナ・・ナニを言ってる虹生」
「旺汰!どうしたらいいんだオレは!助けてくれよ! その 愛 で!! オレだって赤ちゃんが欲しいよ!エッちゃんはかわいスギルんだ!!」
「虹生!!」
もはや言ってることがメチャクチャ。俺たちは一体どおすりゃあいいんだ……。
🌱
甘いお菓子が欲しくなって外へ出た、試験勉強合間の一時。澄んだ風が自分の肌を滑るのを感じ、夏の間に伸びた草花の風で揺れる心地よい音を耳に感じ、その中をふたり手を繋いで歩く世界は、ささやかでもきっと他では手に入れることができない幸せだ。ふたりで同じ世界を歩むことができる、自分の知らない巡り合わせの奇蹟に感謝しなくてはならない。その感謝とは、自分の想い人を大切にすること。
どんな小さなことでも恵風が一緒だと、瞬く間にそれは”トクベツ”になると瑞月は気付いてる。ひとりだったら分からない。きっとひとりだったら見えてる風景や、聴こえて来る音も全然違う。そしてそれは恵風と一緒だから見えない、聴こえない時もあるのだ。
君と一緒だから―― ”不思議なエッちゃんマジック”だ……
「ミズキーテスト終わったら、おいしいもの食べに行こうね」
「うん いいよ」
「勉強すると途端に眠くなる……なのに気になって夜は眠れない……早くテスト終わってほしい~」
「そーっかあ……それじゃあさあ……帰ったらチューとかしてみる?目が覚めるよきっと」
「……やっ……いい……」
「えーっ……ってそーゆーと思った……」
「……ねえソレってそんなにガッカリすること?」
「なに言ってるのエッちゃん もちろんでしょ!」
「そ、そうなんだ……」
「そうだよ!だから帰ったらチューしようね ☆赤ちゃん作る練習☆でもいいけど…… ごめん冗談だよ」
「……それは……別な時にね……」
「え……」
不思議なマジックに掛かってしまったそれぞれの風景……。
彼は瑞月が小学生の低学年の頃に藤井家の一員になり、瑞月の弟一号という肩書きを授かった。出生地は瑞月のバイト先の蕎麦屋の店主宅。蕎麦屋の店主宅は彼の生みの親の家である。彼女は十匹の子を産み、蕎麦屋店主はその中の一匹の子を彼女の元に残し、他を愛犬家の友人に託した。その一匹が藤井家の彼である。
瑞月の弟であるが、兄の年齢をすっかり超えた老犬である。兄が遊んでいる間に、ゴハンを食べている間に、眠っている間に、トイレに行ってる間に――
彼は音もなく兄である瑞月を超えた。
老の域に入りはしたが、その愛くるしさは昔と変わらずそのまま。
大好きな兄のそばで彼は彼なりに考え行動し、そして兄と同じマジックにかかった。
🌱
ボクの名前は”ダイちゃん”です。本当は「デヴィッド」ってカッコイイ名前があるのに、みんなボクを”ダイちゃん”って呼びます。ちなみにいつも一緒に遊ぶお姉ちゃんは「キャサリン」。だけど、おじさんに”カヨコ”って呼ばれてます。もう、どっちが名前でニックネームなのか、分かんないね!ま、いっかフフッ
でもね唯一キチンとボクのことを、”デヴィッド”って呼んでくれる人たちがお母さん以外にいるんだ。けれどその人たちがいるソコは、ボクにとって何度行っても恐怖の館的存在でしかないの。建物がどんなにキレイで窓ガラスに楽し気な仲間のステッカーを貼っていても、それは”ダマシ”というやり方の”ゴマカシ”だ!とにかくコワイんだ・・そして今、ボクには分かる。
「ダイちゃんオイデ!イイ子ダネー!」
大好きなお父さんが”イイ子”とか言ってボクを喜ばそうとしてるけど、目が笑ってないお父さんが既にコワイよう。ごめんなさい。ボクは本当にアソコだけはイヤなんだ。お父さん、ボクをアソコに連れて行こうとしてるでしょう?
いつだったかなんて、ソコで泣きじゃくるボクを落ち着かせる為に、必死になってたお父さんはボクを呼んでるつもりで
「サツキ!ほら、ダイジョーブだからサツキ!ああサツキ!アーッッサツキーーッ!!」
って、そこにいないサツキの名前をずっと呼んでたんだよ。ボクもそうだけど、お父さんのココロも乱れてたんだね。もう、お父さんったら!あーっはっはっはっはっはっはっはっ……はあ……その位ボクを宥めるのに、お父さんはいつも必死。分かってるよ大事なことだって。で、でもコワイよ ヤダよ……((ガタガタガタ…))
ア!あれは ”エ ッ ち ゃ ん” だ !!
ボクは家族以外で大好きだと思うただひとりは、”エッちゃん”なんだ。エッちゃんに助けてもらおう!
エッちゃんボクを助けて? そして―― 赤 ち ゃ ん を 作 ろ う !!
「きゃあ」
「コレ ダイちゃんダメでしょ! ごめんねエッちゃん大丈夫だった?ウチのダイちゃんは、エッちゃんが大好きなんだよ」
うん!そうだよお父さん さすがお父さん分かってるね!ボクは大好きなエッちゃんに会えると嬉しくなって、つい赤ちゃんが欲しくなるんだ。でも、いっつも怒られちゃうんだよね。……はぁ……ボクと君の赤ちゃん欲しいなあ……。きっとかわいいだろうな……。
君と僕の赤ちゃんが生まれたら……
スゴイよエッちゃん!ボクたちの赤ちゃんが10匹も生まれちゃった! みんな元気でかわいいよ!よく頑張ったねエッちゃん! ボク、こんなに嬉しいと思ったのは生まれて来て、これで三度目だよ ホンッと嬉しくって涙が出ちゃう ありがとうエッちゃん!大好きだよ!!
嬉しくって嬉しくって、自慢のシッポが飛んで行きそう。飛んで行って未確認飛行物体扱いされて、ボクの大事なシッポがペンタゴンにそのまま保管されちゃったらどうしよう! スゴイでしょうボク、”ペンタゴン”なんてヘンな言葉知ってるんだよ。ずっと前にお兄ちゃんと一緒に見てた、”不思議シリーズ”っていう本から覚えたんだ。
君に負けない位かわいいボクらのベビーたちは、お腹が空いてきっとお乳を欲しがるだろうね。それにしてもニンゲンって不便だよね。お乳がふたつしかないなんて。でもボクもちゃんと育児に協力するから、そこは安心してねエッちゃん(ハート)君ばかりに負担は掛けられないよ。だって、ずっと欲しかった、君とボクの赤ちゃんなんだから!!
君のお乳はふたつしかないのに、ボクらのベビーは10匹もいるから毎日毎日大変。だけどボクも頑張るからね!ふたりで頑張って、この大変な授乳期を乗り切ろう!!
ボクはまずベビーたちに、”待つ”ということを教えなければいけないね。
ボクはもう、お父さんなんだから。
これ、オマエ!ソッチに行ってもまだエッちゃんのお乳はもらえないよ!
けれどボクがいくらそう言っても、ボクらの元気なベビーたちは言うことを聞いてくれない。そしてお腹が空いて空いてガマンが出来なくなってしまったベビーたちは、君の全部がお乳だと勘違いを起こし始めるんだ。
「あっはっはっはっはっはっはっ…」←エッちゃん(くすぐったい)
エッちゃんが笑ってる!楽しそう!ボクも仲間に入れてもらおう!!
ああ…なんて楽しい毎日何だろう……ね…エッちゃん……
ねえエッちゃん 最近、ボクの大好きなお兄ちゃんの匂いが、君からするんだ。ボクを”楽しい我が家”の一員にしてくれた、大好きなボクのお兄ちゃん。
エッちゃんも大好きだけど、お父さんのもお母さんのも大好きだけど、お兄ちゃんが一番スキ……。
お兄ちゃんがボクを弟にしてくれたことが、ボクが生まれて一番嬉しいと思ったことなんだ。ボクは弟一号で、二号はブロック遊びに夢中。一緒にブロックで遊ぼうとすると、怒られちゃうんだ。だからいつもそばで見ていて、ボクを見てくれるのをおとなしく待っているんだよ。エライ?
ボクは気付いたんだ。ああ、そうなんだって。お兄ちゃん!やっぱりお兄ちゃんってスゴイね。”不思議に負けない、不思議なパワー”をお兄ちゃんは持ってるんだ。ボクはずっとそう思っていたよ。ボクのハナがそう教えてくれていたんだ。お兄ちゃんはずっとエッちゃんのことが好きだった。お兄ちゃんのお願いごとが叶ったのはきっとお兄ちゃんの”不思議に負けない、不思議なパワー”のせいだってボクには分かるよ。さすがボクのお兄ちゃんだ!フフッ
いつかさ ボクがニンゲンになったらって考えちゃった……。お兄ちゃんのそのパワーと、”エッちゃんハート”にボクは期待してるからね!お兄ちゃん!!
でも今はお父さんと病院に行って、「藤井デヴィッドくん」って呼ばれてくるね。……
「ダイちゃんどうしたの?」
「今日は父さんの先生がやってる病院で、予防接種してもらうんだって」
「お父さんがするんじゃないんだ」
「うん 嫌われたくないからだって」
「ふーん……」
🌱
「ねえ旺汰…エッちゃんって…… かわいいよね……」
「……うん…かわいいよ…… エッちゃんは……」
俺たちはさっきから
「虹生……」
「ん?」
「エッちゃんって かわいいよな……」
「うん かわいいよ エッちゃんは……」
朝からずっとこの調子で、同じ会話を繰り返していた。飲まず食わずで今はもう、オヤツの時間になろうとしている。試験勉強所ではない。そろそろこの状態から脱却しなければ。さもないと、本当にヤバイことになりそうだ。
彼女のことばかりが浮かぶのはナゼだろう。彼女のことを無性にナデ転がしたくなるのはナゼだろう。そんなことがドンドンドンドン自分の中を一杯にして行く……。俺の中が彼女で埋め尽くされてしまいそうだ。ヤバイと気付きながら止まらない。止められない。それはまるで後から後から続く波のように、俺たちはそこから抜け出せずにいるような――
このままでは…… イケナイ……
虹生!…
待って!待ってよ旺汰
なんで?なんでだよ虹生
ごめん旺汰……今、こんな気持ちのままで抱かれてもオレ……
……虹生……
やはり睨んだ通り、お前の方が重症らしい。こんな俺でもまだ軽症ということか。お前を弄りたくなるのだから……。虹生、お前の苦しみはどれほどなんだ。クッ…あの”マジック”にふたりしてやられるとは……。
ごめん 旺汰…… だってエッちゃんが……
彼女が?
……かわい過ぎて……
『・・・・・』
お前がそうなることは何となく予感はしていた
!… 旺汰、でも聞いて あのね…
お前が言おうとしていることも察しが付く
旺汰……!
虹生、俺も正直に言う……彼女は……エッちゃんは……かわいい……か わ い ス ギ ル ……ナ デ ナ デ し た い………
旺汰……
考えようか ふたりで
!…もしかして
どうやったら出来るのかを
『 お れ た ち の か わ い い エ ッ ち ゃ ん !! 』
に、なるか?
ふたりで考えよう
そうだね でも難しそうだよ
難しいだろうな でも…でも……何とかしないとこのままでは……(俺はお前にも触れない)
旺汰…
ん?
旺汰も苦しいの?
苦しい……何とかして彼女を……
エッちゃんを……
……エッちゃんを ふたりで……
『・・・・・』
「と、いうことでまずはその為の”練習”をしておかなければ、と思うんだ虹生」
「”練習”?オレたちで?……”練習”?」
「そうだエッちゃんをお迎えした時の為の、俺たちの”練習”だ」
「じゃあさ旺汰」
「なんだ?虹生」
「オマエ……”エ ッ ち ゃ ん 役” になって」
「 !! 」
「ダメか?旺汰…… やさしくスルから…… ねえ いいダロ・・・」
「ちょ、ちょっと待ってくれ(まさかの展開)」
「大丈夫だ旺汰 オレはオマエをアイシテル それにオレは分かっていることだ だから……(スケベなオマエと違ってやさしくデキル)」
「ま、待ってくれ ちょっと待ってくれ!」
「オマエさっき言っただろう!”練習”しようと!」
「お……俺が……《 ”エ ッ ち ゃ ん 役” 》……」
「な… 旺汰…… アイシテルヨ・・・さあ……」
「まっまっ待ってくれ」
「ズルイぞ旺汰!オレには散々ムリヤリだったくせに!!」
「今言うか?人聞きの悪い!じゃあ聞くぞ お前のソレは穢れなき俺への”愛”なのか!虹生!!」
「!……クソウ…」
「分かったか虹生 だからさあ……(いつものように)」
「クソッ……オレだって…」
「ま、ソレはオイオイな お前のキモチが分からなくもない(フウ…)」
「……オレだって…… 赤ちゃんが……」
「 ン !? 」
「オレだって 赤 ち ゃ ん が 欲 し い よ !! 」
「ナ・・ナニを言ってる虹生」
「旺汰!どうしたらいいんだオレは!助けてくれよ! その 愛 で!! オレだって赤ちゃんが欲しいよ!エッちゃんはかわいスギルんだ!!」
「虹生!!」
もはや言ってることがメチャクチャ。俺たちは一体どおすりゃあいいんだ……。
🌱
甘いお菓子が欲しくなって外へ出た、試験勉強合間の一時。澄んだ風が自分の肌を滑るのを感じ、夏の間に伸びた草花の風で揺れる心地よい音を耳に感じ、その中をふたり手を繋いで歩く世界は、ささやかでもきっと他では手に入れることができない幸せだ。ふたりで同じ世界を歩むことができる、自分の知らない巡り合わせの奇蹟に感謝しなくてはならない。その感謝とは、自分の想い人を大切にすること。
どんな小さなことでも恵風が一緒だと、瞬く間にそれは”トクベツ”になると瑞月は気付いてる。ひとりだったら分からない。きっとひとりだったら見えてる風景や、聴こえて来る音も全然違う。そしてそれは恵風と一緒だから見えない、聴こえない時もあるのだ。
君と一緒だから―― ”不思議なエッちゃんマジック”だ……
「ミズキーテスト終わったら、おいしいもの食べに行こうね」
「うん いいよ」
「勉強すると途端に眠くなる……なのに気になって夜は眠れない……早くテスト終わってほしい~」
「そーっかあ……それじゃあさあ……帰ったらチューとかしてみる?目が覚めるよきっと」
「……やっ……いい……」
「えーっ……ってそーゆーと思った……」
「……ねえソレってそんなにガッカリすること?」
「なに言ってるのエッちゃん もちろんでしょ!」
「そ、そうなんだ……」
「そうだよ!だから帰ったらチューしようね ☆赤ちゃん作る練習☆でもいいけど…… ごめん冗談だよ」
「……それは……別な時にね……」
「え……」
不思議なマジックに掛かってしまったそれぞれの風景……。
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