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第一三話 結日のファーストキス?
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最寄りのバス停からはたった三区間、自転車での移動も無理のない距離。いつもは街駅のショッピングセンター。今日は近くのショッピングモール。お小遣いを持ってさあ行こう。
「ヒマだから俺も行く」
仲間が増えた。移動手段は鳥海兄妹共用の自転車都合で、急遽路線バスに変更だ。それも難なくクリア。さあ乗り込もう。
毎日君は電車通いだし、”降りますブザー”は任せるよ。さあ押してごらん。
「バカヤロウ幼稚園児じゃねーんだぞ!」
「うるさいユイ!早く押して」
〈ミ~~〉恵風は結日の手を掴み、ブザーに押し当てた。
目的地に無事到着した仲良し三人組は、足並みも揃え歩き出す。
ブツブツ言う結日をよそに、恵風と瑞月は何やらクスクスお喋りしてる。不意に足を止めた結日はふたりを繁々と観察し、自分の隣の瑞月の手を掴んで無言でニィと笑い自分も繋いだ。
平日の午前中はまだ店内に余白があり、瑞月を真ん中にして三人で並び歩く。自分を中央にして左右で花畑と古池な心境の瑞月だ。
あるメンズショップを通りかかった時恵風が
「あ!コレかわいい!買っちゃおうかな」
と、手に取った服はお花とクマちゃんがプリントされている、男子のかわいい長そでTシャツだった。
「色違いで俺も買っちゃおうかな」
「コレで三つ子のファッションでお出掛けする楽しみが出来たな」
会計をしている時に結日も同じ服を持ち、薄く笑ってそう言った。
「お前たちは制服があるから、毎日の俺の苦労は分からないだろうが」
結日の通う学校は制服がなく、私服登校だ。
「今学ラン着てみろって言われたら、それは俺にコスプレしろって言ってるのと変わらないほどに、同い年のお前たちと感覚が離れてしまった 何て言うか、いつの間にかオッサンになってしまった気分……不本意だ」
『・・・』
「コスプレ気分をどうせ味わうなら、学ランよりもセーラー着るぐらいやってみたい 恵風!俺が代わりに学校行ってやるぞ 一度、お前らの学校に入ってみたかった」
「なに気持ち悪いコト言ってるの!」
「なにバカなこと言ってるんだ結日! エッちゃんの可憐なセーラーは、兄のお前でも手を触れてはいけない ましてや袖を通そうなんて言語道断!何て恐ろしい破廉恥なことを考えてるんだ それにお前とエッちゃん全然違うよ!”代わり”になんて、なれるものか!!」
「ナンだよふたりして ケチンボだな 冗談に決まってるだろう」
一緒に遊んでた頃は少々ズレていても、もっと現実的な男子だったはず。瑞月はここのところの結日の違和感から、ついつい昔の彼と比べてしまう。
「あれ?エッちゃんは?」
「恵風はトイレだ お前も行くなら付き合うぞ」
「ちょっと!エッちゃんをひとりにさせるなんて、よくも平気でいられるねえ! それでもお兄ちゃんなの!?ドコ?ドコのおトイレ!?」
「ったく、大したセキュリティ振りだな瑞月 こんなじゃ恵風は逃げも隠れも 鬼ごっこも出来ないじゃないか」
「鬼ごっこなんて、今関係ないでしょ!全く!お兄ちゃんなんだからしっかりしてよ!」
「参ったな 自分が恵風の”お兄ちゃん”ってこと、スッカリ忘れてたよ プッ」
この疎通の困難は、自分たちの空白期間がそうさせてしまったのだろうか。瑞月は憂いた。
「アッレー藤井じゃん 今日は珍しく”エッちゃん”と一緒じゃないんだね?」
クラスメイトの女子だ。夏休み中出先でバッタリは特に珍しいことではない。
「エッちゃんは今、別の所に行ってるの 彼はエッちゃんの双子のお兄ちゃんだよ」
「どうも…恵風とミライの義弟がいつもお世話になっ…」
「キャハハハ…じゃ、マッタネ~」
「ナンなんだよ アレ!」
「…… さあ」
結日は外見が面白いとか、決してそんなわけではない。恵風からのアドバイスで先日からメガネをコンタクトレンズにしたり、彼の身辺に何か起きてるのか”俺もかわいくなる”と色々チャレンジしているとのことだ。
何と言っても、かわいいかわいい自分の恵風と同じ血を流している双子の兄。誰から見たって外見がおかしいなんてことはないのに。と、瑞月自身も今の出来事に少々不服を感じた。
「瑞月!ちょっとココ覗いてみようぜ!」
「でもエッちゃんが…エッちゃん!」
「はぐれてもスマホ持ってるんだから大丈夫だろ!」
混み出して来た店内は三人並んで歩くには困難で、遠慮して離れたのは恵風だった。ショッピングモールにいながらもはや瑞月の見たいもの、見るべきものは恵風のみとなり、それさえもままならず思わずため息を漏らす。
今結日が恵風と同じくらいかわいい金髪美少女にナンパされたとしても、自分は妬みを全く感じない。きっと快く結日を送り出すだろう。そんなことを考えていた矢先だった。
《 ハッッ!! エッちゃん、なにそのオトコども!!? 》
自分が目を離した隙の恐れていた出来事。瑞月は恵風の元へと馳せ参ずる。
「失礼キミタチ、俺のエッちゃんにナンか用デスカ?」
「よう!藤井」
「ドコでもオマエはやっぱり”藤井”なんだな」
どこの馬のホネかと思いきや、虹生と三島旺汰のふたりであった。
「今来たところなんだって」
「クスクスクス…ふたりでお買い物?」
「いや、それがふたりじゃないんだ エッちゃんのお兄ちゃんも…」
「ドウモ恵風とミライの義弟がいつもお世話になっております ぼくは恵風の兄、結日です」
『・・・』
いつの間にやら結日は瑞月の隣にいて、虹生と旺汰に向けて丁寧な挨拶をした。彼はやっと自分の挨拶を仕舞いまで言うことが出来た。何度も”言い掛け”を聞いて来た瑞月も聞いたのは初めてだ。
「ミライのギテーって、なに?パパのマネ?なんかヘン」
何も知らない恵風の脳内は、漢字変換がうまくいってない様子。実妹に無情なことを言われても、結日はそれを少しも気にせず言い切ったことに満足気な顔だ。
旺汰は何やら一生懸命言葉を探しているような面持ち。よそ行きの静かな笑みを浮かべている虹生は、ここから離れた後にきっと笑うに違いない。
結日といると調子が狂い、チカラがドンドン抜けて行くこの現象はなんなのだろうか。もしやコレは、彼の”マジック”なのだろうか……?瑞月はひっそりと考える。
「エッちゃんの双子のお兄ちゃんだよ 会うの初めてだよね」
「よく三人で遊ぶの?」
「いや今日はタマタマ…」
「……」←結日
「わああ!なに?結日」
「なにって、聞くか?別にイイジャンカ」
会話の最中結日は瑞月の手を取り、指を絡ませるように繋ごうとしたのだ。
「じゃ…じゃあ行くね俺たち」
「うん、じゃあね」
「別に繋いだっていいだろ!今のヤツらだって手を繋いでた ヤロー同士でも手を繋ぐのはおかしいことではない!お前の学校のトモダチがそう証明し…」
「アイツらは付き合ってるの!俺と結日はそうじゃないでしょ!」
「へえ!そうなのか!本当にいるんだな 俺の近くて遠い世界にいるヤローが ま、俺たちもそう変わらないじゃないか瑞月 なんせ、お前は俺のカタワレと付き合ってるんだ 恵風だろうが俺だろうが大差はない! だろう?」
「大アリだよ!なにトンチンカンなこと言ってるんだよ全く!」
「……ナンだ 残念だな……」
「……~…エッちゃん離れないで!寄りたい所あったら教えて!」
「お腹空いた」
「そうだね混み出す前にチョット早いけど、フードコートに行こうか ね、結日」
「そうだな俺の腹もグウグウ言いそな頃合だ」
(……ハァねえエッちゃん お昼ゴハン終わったら、帰りのバス時間調べてもう帰らない?ミズキは君と手を繋いで楽しい時間を過ごしたいのに、思いのほか君のお兄ちゃんがアグレッシブで、ミズキは疲れて君をダッコ充電したい気分だよ)
瑞月の心中を察することができる者がこの中にいるのだろうか。三人はフードコート奥の、正面が大窓の横並びの席に着いた。ここなら多少のことは、ご家族連れの方々への迷惑にならないだろうと、瑞月が判断してのことだ。自分がふたりの真ん中に座り、以前ならなかった謎の気苦労を背負う瑞月の立ち位置はまるで長男だ。
しばしの待機後、ホカホカのランチを迎えて三人の頬が緩む。今日のタスクがひとつ、やっとまともに達成できると思った間もなく――
「ズルイぞ恵風ばっかり!」
「ユイは何をそんなにオコッテルノ!?」
「ちょっと、兄妹ゲンカ?こんな所でやめてよ」
立ち位置長男の気苦労は休まる暇がないらしい。
「恵風ばかりとおしゃべりしやがってズルイぞ!俺も仲間に入れろよ!」
「結日、俺とエッちゃんは付き合ってるんだから普通でしょ!それに声、大きいよ!」
「クソウ俺だって、お前と仲良くしたいんだ! ……本当はあの時だって後悔してたんだ」
『・・・』
「俺だって瑞月っ!お前のことが好きだっ!! ……この前”ヤローズトーク”で話した”気になってるヤツ”ってのは……瑞 月 お 前 の こ と だ!!」
『 !!!! 』
「ねえソレって、藤井とキスがしたいっていう意味の”好き”ってこと? 話は聞かせてもらったよ!」
「ナナくん!」「!」「・・・!」←結日
「お前らいたのか!」
「アソコの柱の陰にな ここに来た時はいつもそこに座る なぜかと言うとオトコふたりがくっつき座っていても、不自然に見えない横並び仕様 そして柱の陰 コレを利用しない方がバカだ なあ虹生… 今日もそうしていたら、聞き覚えのある声が聞こえて来た 見るとお前たちだったわけだ」
「ねえキミ……”オニイチャン” 藤井のことが好きなの?」
「瑞月のこと……うん、好きだ! 俺はもうあの時のような間違いは起こさない だからハッキリ言う、瑞月のことが 好 き だ」
「ソレは どういう意味の”好き”なの?」
今聞こえてくる内容は、自分には全く関係ないもので、どこかの誰かの話をしているのだ。瑞月は逃避したい。鈍くなった血流がカラダをひんやりとさせ、酸欠起こしたようにクラクラとしてきた。
そんな瑞月をよそに自分を抜いた者たちは、こんな冗談のような話に真剣な表情で向き合い、誰も自分を気にしてくれない。
虹生は結日の隣に座り、目からも答えを聞くように真っ直ぐ結日に合わす。
それは普段、笑い上戸の彼が滅多に見せない真剣な表情だ。時には見せるが、それは本当に彼が真剣になってる時。その真剣さは余計に瑞月を不安にさせた。
「ちょっとナナくん……」
「藤井、虹生に任せておけ……きっと虹生なら彼の正直な気持ちを引き出せる 俺もコレ…やられたんだ……クスッ」
結日と虹生の組み合わせは最高であり、最悪である。瑞月が感じている結日の常人離れしている不気味な要素は虹生によって増幅され、それが今彼ら周辺に影響を与えようとしている。そのキッカケは結日の、嘘、偽りのない清らかな心、ただそれだけなのがやっかいである。
「フジイ…オレたちはもう昔のような、無邪気に笑ってたあの頃のこどもだった自分じゃないんだよ 立つモノはタチ、湧き出すモノが湧き、そして数々の試練を乗り越えドンドン逞しく成長して行く……そんなトコロにオレたちはいるんだ 分かるだろ? カレはオマエを好きだと言う それを今ワザワザ言うなんて、こどもの言う”好き”と同じだと思うかい?」
「 !! 」←フジイ
「ねえオニイチャン……ソレってもしかしてフジイと”キスがしたい”ってことなんじゃないの?」
「瑞月と……・・キス……!」
「そうフジイと……キス……」
『・・・・・』
結日の目がゆっくりと瑞月の目を捉えた。
彼のこのような真剣な眼差しが初めての瑞月は戸惑う。静かなひたむきさを含んだ少年のその瞳の奥に、何か熱いものが隠れている。そんな視線を一直線に渡すものだから、よしみも何処に思わず瑞月は照れ臭さで逃げたくなった。
まるで結日じゃないようで「よせよ…」そう跳ね返すことも出来ない。
彼はどんなことを思いながら、そんな熱い視線を自分に向けているのか。
興味よりも恐ろしくて、落ち着かない鼓動が瑞月の胸を打っていた。
さっきまで聞こえていた、昼時のフードコートの喧騒が遠のく。
何か喋り出しそうな軽く閉じられた彼の唇は、自分の愛しい人と同じカタチであると、瑞月は気付いてしまったのだ。
彼の視線が友人Nの言葉で触発されたように、自分の口元に来たのが瑞月に分かった。
彼は今まで眠っていたのだろうか。
彼を起こしてしまったのはなにものか。
眠ったままでいてほしかった。
お前のその唇だけは愛おしく思う。
今度からお前と話をする時はウッカリそこばかりに目が行って、思わず恋のため息をもらさないように気を付けないと――
キ・・・ ス・・・・・
《 ハッッ!! 》
「ちょ、ちょっと待ってよヘンなことになってない?」
「フジイ!こういうことはコジラセル前にハッキリさせた方がいいんだ!」
「そうだぞフジイ虹生の言う通りだ 大事な友であるお前が彼に襲われる前に! だから彼がまだ落ち着いている今の状態が望ましい!!」
「何だよその”襲われる”って!」
「ユイもミズキのコトがやっぱりスキだったの!?」
「エッちゃん、そんなはずないでしょう 俺はコイツに”気持ちワルイ”まで言われたんだよ!」
「エ!?ナニナニ?ナニがあったの?」
「あのねわたしたちがロクネンセイの時に…」
「ア”--ちょっと、本当に待ってよ!何でこんなことになってるの!?」
瑞月の心の叫びとうらはらの状況が、おもしろいように進む。それをなんとか終わらせたい瑞月とそうはさせない恋の応援隊である虹生と旺汰。そして不穏を感じてる恵風に、数年の決着を付けたい結日。
ここは見て良し、触れて良し、そして買って良しの楽しいひと時を過ごせるショッピングモール のフードコート。誰もこんなことになろうとは思いもしていなかっただろう。
「瑞月、ちょっと俺にキスしてみてくれ お前慣れてるんだろう?やってくれ」
「ハアアア!?」
「そしたらこの悶々の正体がハッキリ分かるかもしれない」
「ね…そうなるんだ」
「さすがだな虹生 やっぱり虹生だ……キレイだよ(ハート)」
「ユイ!ユイもミズキのコトが好きなの!?ちゃんとわたしに答えて!!」
「エッちゃん!何て(恐ろしい)ことを(今)言うの!?そんなことありえないって!!」
フッ・・・
「恵風、お兄ちゃんはあの頃間違って捨ててしまったものを、取り戻せるなら取り戻してみたい……そう考えてるんだ」
『 !! 』←恵風、瑞月
「お前たちを見てて思ったのさ……」
(瑞月…お前は変わったな……近頃会う度苦しくなるんだ。
今じゃスッカリ、恵風の襟の隙間から覗くマネばかりするようになりやがって。俺の目をごまかそうったって、そうは行かねえぞ。
お前!スネ毛ももう、ボウボウなんだろう?俺はなあ、夏になる度ソレを恵風に
「うっわユイ、いつの間にソンナなっちゃったの?ワタシのがゼンブ、ユイのトコロに行っちゃったみたい!」
って自分の脚を見せびらかしながら、ヒドイことを言いやがるようになったんだ。お前は恵風に言われたことはないのか?俺は絶対お前には言わないよ!脚がボウボウの 驚きの 黒 だったとしてもな!
クソウ 恵風ばっかりイジクッテないで、俺もかまってくれよ!
お前のトモダチが言う通り、”ボクの王様”のコントロールがマダマダ難しい。そんな不安定なお年頃だ。昔のようにただアハハゲラゲラとしているだけでは満足しない。俺たちはそんな時をもうとっくに過ぎてしまったんだ。
それに気付いた俺は、一体どおすりゃいいんだ。どうすれば、ナニをすれば、この空けてしまったお前との隙間を埋められる? なあ瑞月……)
「ユイもミズキのコトがスキだったら……」
「エ、エッちゃん?」
人の心のことに男女の分け隔てのない寛容な考えの恵風が、自分の兄の為にと考えることは……と瑞月は青ざめる。こんなことのために、今日ここに来たわけじゃないのに!瑞月はもう泣いてしまいそうだ。
『 エッちゃんは、おれたちの所においでよ!! 』
「!!?」←ミズキ
「三人で仲良くヤロウよ!フジイがいなくても、オレたちがいる! オレたちがやさしくキミを慰めてあげる キミが満足するまで、カナシミが消えるまでね!キレイサッパリ、フジイをアッと言う間に忘れさせてあげるよ!そして三人で幸せになるんだ! 三 人 で ! ね!旺汰!」
「もちろんだよエッちゃん、これからはフジイの代わりに俺たちが君のことを お れ た ち の か わ い い エ ッ ち ゃ ん と呼んであげるよ!」
「瑞月キスしてくれよ いつも恵風とヤッてるんだろう?俺にもヤッてくれ!」
「結日、落ち着け! お前はきっと 不 思 議 な 双 子 マ ジ ッ ク に掛かってるんだ エッちゃんの影響をお前は気付かないうちに受けているんだ ちょっとナナくんと三島!何てこと言うの!?俺のエッちゃんへの愛は永久に不滅なんだから勝手なこと言わないで!」
「ナンなんだよソレ!そんなことでごまかすなよ!恵風は関係ないぞ!俺は俺だ! 俺 は お 前 と キ ス が し て み た い ん だ !!」
「冗談じゃない!俺はエッちゃんの為に存在するオトコなんだから ねえエッちゃ…」
《 ハッッ!! 》
日頃”エッちゃんとランチ”を瑞月に断られ続けているふたりは、ここぞとばかりに柱の陰(小さな秘密基地)に恵風を連れ去っていた。
「ちょっと!お前ら俺の大事なエッちゃんにナニすんの!?」
恵風より上に存在する愛などない。この藤井には決してない!瑞月の瞳から炎が吹きそうだ。
「あの頃ミズキがユイのコト、好きだったのわたし知ってた……今もそうなの?ミズキはわたしをユイの代わりだと思ってるの?」
虹生は恵風の頭を包むようにダッコ。そして三島はそのふたりを丸ごとダッコ。恵風の背中にふたりのオトコの手――彼らの表情はまるで天にも昇るようだ。その悪夢の光景に、先ほどの炎の瞳からうってかわり、今にも零れそうな涙で一杯だ。
「ヨシヨシかわいそうなエッちゃん オレたちがワルイフジイを一刻も早く忘れさせてあげるからね 今よりもキミのことを幸せにしてあげるよ」
「虹生の言う通りだよエッちゃん 君のことを虹生とふたりでワルイフジイよりもたくさん愛してあげるから 今よりも愛に満ちた日々を送ろうね」
『 お れ た ち の か わ い い エ ッ ち ゃ ん !! 』
「瑞月、向こうは放っておいて早くヤッてくれよ……分かった!俺から行くぞ!いいな?」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って!ヤダよヤダ!離せ!!」
エッちゃん助けてくれよ もう俺には君しかいない!君しか頼れないんだあああ!!瑞月は必死で叫ぶ。けれどそれは言葉にも声にもならず、頬を二筋の涙が伝うだけ。
「瑞月ィ!コッチ向け!!」(グイ)
「ひゃあああ!!。。」
クスン クスン・・・
ヨシヨシかわいいエッちゃん ちょっとアッチ向いてようか
かわいいエッちゃん あんなモノ見なくていいように、しっかりダッコしてアゲルヨ(ギュ…)
クスン クスン・・・
エッちゃん…キミのこと、頭でもお腹でもドコでもヨシヨシしてあげるからね
たくさんたくさんヨシヨシして、気持ち良くしてアゲルカラネ
クスン クスン・・・
キミは本当にフワフワしていて、とても触り心地が良さそうだね
俺たちは天国に行けそうだよ ん~ン…イイニオイ……
『 三 人 で 仲 良 く ヤ ロ ウ ね !! 』
「瑞月 行くぞ!」
『 アッッッ!! 』「えっえふっ!?……」
・ ・ ・・・
結日のファーストキスのお相手は、瑞月の身代わりになった恵……
「ヒマだから俺も行く」
仲間が増えた。移動手段は鳥海兄妹共用の自転車都合で、急遽路線バスに変更だ。それも難なくクリア。さあ乗り込もう。
毎日君は電車通いだし、”降りますブザー”は任せるよ。さあ押してごらん。
「バカヤロウ幼稚園児じゃねーんだぞ!」
「うるさいユイ!早く押して」
〈ミ~~〉恵風は結日の手を掴み、ブザーに押し当てた。
目的地に無事到着した仲良し三人組は、足並みも揃え歩き出す。
ブツブツ言う結日をよそに、恵風と瑞月は何やらクスクスお喋りしてる。不意に足を止めた結日はふたりを繁々と観察し、自分の隣の瑞月の手を掴んで無言でニィと笑い自分も繋いだ。
平日の午前中はまだ店内に余白があり、瑞月を真ん中にして三人で並び歩く。自分を中央にして左右で花畑と古池な心境の瑞月だ。
あるメンズショップを通りかかった時恵風が
「あ!コレかわいい!買っちゃおうかな」
と、手に取った服はお花とクマちゃんがプリントされている、男子のかわいい長そでTシャツだった。
「色違いで俺も買っちゃおうかな」
「コレで三つ子のファッションでお出掛けする楽しみが出来たな」
会計をしている時に結日も同じ服を持ち、薄く笑ってそう言った。
「お前たちは制服があるから、毎日の俺の苦労は分からないだろうが」
結日の通う学校は制服がなく、私服登校だ。
「今学ラン着てみろって言われたら、それは俺にコスプレしろって言ってるのと変わらないほどに、同い年のお前たちと感覚が離れてしまった 何て言うか、いつの間にかオッサンになってしまった気分……不本意だ」
『・・・』
「コスプレ気分をどうせ味わうなら、学ランよりもセーラー着るぐらいやってみたい 恵風!俺が代わりに学校行ってやるぞ 一度、お前らの学校に入ってみたかった」
「なに気持ち悪いコト言ってるの!」
「なにバカなこと言ってるんだ結日! エッちゃんの可憐なセーラーは、兄のお前でも手を触れてはいけない ましてや袖を通そうなんて言語道断!何て恐ろしい破廉恥なことを考えてるんだ それにお前とエッちゃん全然違うよ!”代わり”になんて、なれるものか!!」
「ナンだよふたりして ケチンボだな 冗談に決まってるだろう」
一緒に遊んでた頃は少々ズレていても、もっと現実的な男子だったはず。瑞月はここのところの結日の違和感から、ついつい昔の彼と比べてしまう。
「あれ?エッちゃんは?」
「恵風はトイレだ お前も行くなら付き合うぞ」
「ちょっと!エッちゃんをひとりにさせるなんて、よくも平気でいられるねえ! それでもお兄ちゃんなの!?ドコ?ドコのおトイレ!?」
「ったく、大したセキュリティ振りだな瑞月 こんなじゃ恵風は逃げも隠れも 鬼ごっこも出来ないじゃないか」
「鬼ごっこなんて、今関係ないでしょ!全く!お兄ちゃんなんだからしっかりしてよ!」
「参ったな 自分が恵風の”お兄ちゃん”ってこと、スッカリ忘れてたよ プッ」
この疎通の困難は、自分たちの空白期間がそうさせてしまったのだろうか。瑞月は憂いた。
「アッレー藤井じゃん 今日は珍しく”エッちゃん”と一緒じゃないんだね?」
クラスメイトの女子だ。夏休み中出先でバッタリは特に珍しいことではない。
「エッちゃんは今、別の所に行ってるの 彼はエッちゃんの双子のお兄ちゃんだよ」
「どうも…恵風とミライの義弟がいつもお世話になっ…」
「キャハハハ…じゃ、マッタネ~」
「ナンなんだよ アレ!」
「…… さあ」
結日は外見が面白いとか、決してそんなわけではない。恵風からのアドバイスで先日からメガネをコンタクトレンズにしたり、彼の身辺に何か起きてるのか”俺もかわいくなる”と色々チャレンジしているとのことだ。
何と言っても、かわいいかわいい自分の恵風と同じ血を流している双子の兄。誰から見たって外見がおかしいなんてことはないのに。と、瑞月自身も今の出来事に少々不服を感じた。
「瑞月!ちょっとココ覗いてみようぜ!」
「でもエッちゃんが…エッちゃん!」
「はぐれてもスマホ持ってるんだから大丈夫だろ!」
混み出して来た店内は三人並んで歩くには困難で、遠慮して離れたのは恵風だった。ショッピングモールにいながらもはや瑞月の見たいもの、見るべきものは恵風のみとなり、それさえもままならず思わずため息を漏らす。
今結日が恵風と同じくらいかわいい金髪美少女にナンパされたとしても、自分は妬みを全く感じない。きっと快く結日を送り出すだろう。そんなことを考えていた矢先だった。
《 ハッッ!! エッちゃん、なにそのオトコども!!? 》
自分が目を離した隙の恐れていた出来事。瑞月は恵風の元へと馳せ参ずる。
「失礼キミタチ、俺のエッちゃんにナンか用デスカ?」
「よう!藤井」
「ドコでもオマエはやっぱり”藤井”なんだな」
どこの馬のホネかと思いきや、虹生と三島旺汰のふたりであった。
「今来たところなんだって」
「クスクスクス…ふたりでお買い物?」
「いや、それがふたりじゃないんだ エッちゃんのお兄ちゃんも…」
「ドウモ恵風とミライの義弟がいつもお世話になっております ぼくは恵風の兄、結日です」
『・・・』
いつの間にやら結日は瑞月の隣にいて、虹生と旺汰に向けて丁寧な挨拶をした。彼はやっと自分の挨拶を仕舞いまで言うことが出来た。何度も”言い掛け”を聞いて来た瑞月も聞いたのは初めてだ。
「ミライのギテーって、なに?パパのマネ?なんかヘン」
何も知らない恵風の脳内は、漢字変換がうまくいってない様子。実妹に無情なことを言われても、結日はそれを少しも気にせず言い切ったことに満足気な顔だ。
旺汰は何やら一生懸命言葉を探しているような面持ち。よそ行きの静かな笑みを浮かべている虹生は、ここから離れた後にきっと笑うに違いない。
結日といると調子が狂い、チカラがドンドン抜けて行くこの現象はなんなのだろうか。もしやコレは、彼の”マジック”なのだろうか……?瑞月はひっそりと考える。
「エッちゃんの双子のお兄ちゃんだよ 会うの初めてだよね」
「よく三人で遊ぶの?」
「いや今日はタマタマ…」
「……」←結日
「わああ!なに?結日」
「なにって、聞くか?別にイイジャンカ」
会話の最中結日は瑞月の手を取り、指を絡ませるように繋ごうとしたのだ。
「じゃ…じゃあ行くね俺たち」
「うん、じゃあね」
「別に繋いだっていいだろ!今のヤツらだって手を繋いでた ヤロー同士でも手を繋ぐのはおかしいことではない!お前の学校のトモダチがそう証明し…」
「アイツらは付き合ってるの!俺と結日はそうじゃないでしょ!」
「へえ!そうなのか!本当にいるんだな 俺の近くて遠い世界にいるヤローが ま、俺たちもそう変わらないじゃないか瑞月 なんせ、お前は俺のカタワレと付き合ってるんだ 恵風だろうが俺だろうが大差はない! だろう?」
「大アリだよ!なにトンチンカンなこと言ってるんだよ全く!」
「……ナンだ 残念だな……」
「……~…エッちゃん離れないで!寄りたい所あったら教えて!」
「お腹空いた」
「そうだね混み出す前にチョット早いけど、フードコートに行こうか ね、結日」
「そうだな俺の腹もグウグウ言いそな頃合だ」
(……ハァねえエッちゃん お昼ゴハン終わったら、帰りのバス時間調べてもう帰らない?ミズキは君と手を繋いで楽しい時間を過ごしたいのに、思いのほか君のお兄ちゃんがアグレッシブで、ミズキは疲れて君をダッコ充電したい気分だよ)
瑞月の心中を察することができる者がこの中にいるのだろうか。三人はフードコート奥の、正面が大窓の横並びの席に着いた。ここなら多少のことは、ご家族連れの方々への迷惑にならないだろうと、瑞月が判断してのことだ。自分がふたりの真ん中に座り、以前ならなかった謎の気苦労を背負う瑞月の立ち位置はまるで長男だ。
しばしの待機後、ホカホカのランチを迎えて三人の頬が緩む。今日のタスクがひとつ、やっとまともに達成できると思った間もなく――
「ズルイぞ恵風ばっかり!」
「ユイは何をそんなにオコッテルノ!?」
「ちょっと、兄妹ゲンカ?こんな所でやめてよ」
立ち位置長男の気苦労は休まる暇がないらしい。
「恵風ばかりとおしゃべりしやがってズルイぞ!俺も仲間に入れろよ!」
「結日、俺とエッちゃんは付き合ってるんだから普通でしょ!それに声、大きいよ!」
「クソウ俺だって、お前と仲良くしたいんだ! ……本当はあの時だって後悔してたんだ」
『・・・』
「俺だって瑞月っ!お前のことが好きだっ!! ……この前”ヤローズトーク”で話した”気になってるヤツ”ってのは……瑞 月 お 前 の こ と だ!!」
『 !!!! 』
「ねえソレって、藤井とキスがしたいっていう意味の”好き”ってこと? 話は聞かせてもらったよ!」
「ナナくん!」「!」「・・・!」←結日
「お前らいたのか!」
「アソコの柱の陰にな ここに来た時はいつもそこに座る なぜかと言うとオトコふたりがくっつき座っていても、不自然に見えない横並び仕様 そして柱の陰 コレを利用しない方がバカだ なあ虹生… 今日もそうしていたら、聞き覚えのある声が聞こえて来た 見るとお前たちだったわけだ」
「ねえキミ……”オニイチャン” 藤井のことが好きなの?」
「瑞月のこと……うん、好きだ! 俺はもうあの時のような間違いは起こさない だからハッキリ言う、瑞月のことが 好 き だ」
「ソレは どういう意味の”好き”なの?」
今聞こえてくる内容は、自分には全く関係ないもので、どこかの誰かの話をしているのだ。瑞月は逃避したい。鈍くなった血流がカラダをひんやりとさせ、酸欠起こしたようにクラクラとしてきた。
そんな瑞月をよそに自分を抜いた者たちは、こんな冗談のような話に真剣な表情で向き合い、誰も自分を気にしてくれない。
虹生は結日の隣に座り、目からも答えを聞くように真っ直ぐ結日に合わす。
それは普段、笑い上戸の彼が滅多に見せない真剣な表情だ。時には見せるが、それは本当に彼が真剣になってる時。その真剣さは余計に瑞月を不安にさせた。
「ちょっとナナくん……」
「藤井、虹生に任せておけ……きっと虹生なら彼の正直な気持ちを引き出せる 俺もコレ…やられたんだ……クスッ」
結日と虹生の組み合わせは最高であり、最悪である。瑞月が感じている結日の常人離れしている不気味な要素は虹生によって増幅され、それが今彼ら周辺に影響を与えようとしている。そのキッカケは結日の、嘘、偽りのない清らかな心、ただそれだけなのがやっかいである。
「フジイ…オレたちはもう昔のような、無邪気に笑ってたあの頃のこどもだった自分じゃないんだよ 立つモノはタチ、湧き出すモノが湧き、そして数々の試練を乗り越えドンドン逞しく成長して行く……そんなトコロにオレたちはいるんだ 分かるだろ? カレはオマエを好きだと言う それを今ワザワザ言うなんて、こどもの言う”好き”と同じだと思うかい?」
「 !! 」←フジイ
「ねえオニイチャン……ソレってもしかしてフジイと”キスがしたい”ってことなんじゃないの?」
「瑞月と……・・キス……!」
「そうフジイと……キス……」
『・・・・・』
結日の目がゆっくりと瑞月の目を捉えた。
彼のこのような真剣な眼差しが初めての瑞月は戸惑う。静かなひたむきさを含んだ少年のその瞳の奥に、何か熱いものが隠れている。そんな視線を一直線に渡すものだから、よしみも何処に思わず瑞月は照れ臭さで逃げたくなった。
まるで結日じゃないようで「よせよ…」そう跳ね返すことも出来ない。
彼はどんなことを思いながら、そんな熱い視線を自分に向けているのか。
興味よりも恐ろしくて、落ち着かない鼓動が瑞月の胸を打っていた。
さっきまで聞こえていた、昼時のフードコートの喧騒が遠のく。
何か喋り出しそうな軽く閉じられた彼の唇は、自分の愛しい人と同じカタチであると、瑞月は気付いてしまったのだ。
彼の視線が友人Nの言葉で触発されたように、自分の口元に来たのが瑞月に分かった。
彼は今まで眠っていたのだろうか。
彼を起こしてしまったのはなにものか。
眠ったままでいてほしかった。
お前のその唇だけは愛おしく思う。
今度からお前と話をする時はウッカリそこばかりに目が行って、思わず恋のため息をもらさないように気を付けないと――
キ・・・ ス・・・・・
《 ハッッ!! 》
「ちょ、ちょっと待ってよヘンなことになってない?」
「フジイ!こういうことはコジラセル前にハッキリさせた方がいいんだ!」
「そうだぞフジイ虹生の言う通りだ 大事な友であるお前が彼に襲われる前に! だから彼がまだ落ち着いている今の状態が望ましい!!」
「何だよその”襲われる”って!」
「ユイもミズキのコトがやっぱりスキだったの!?」
「エッちゃん、そんなはずないでしょう 俺はコイツに”気持ちワルイ”まで言われたんだよ!」
「エ!?ナニナニ?ナニがあったの?」
「あのねわたしたちがロクネンセイの時に…」
「ア”--ちょっと、本当に待ってよ!何でこんなことになってるの!?」
瑞月の心の叫びとうらはらの状況が、おもしろいように進む。それをなんとか終わらせたい瑞月とそうはさせない恋の応援隊である虹生と旺汰。そして不穏を感じてる恵風に、数年の決着を付けたい結日。
ここは見て良し、触れて良し、そして買って良しの楽しいひと時を過ごせるショッピングモール のフードコート。誰もこんなことになろうとは思いもしていなかっただろう。
「瑞月、ちょっと俺にキスしてみてくれ お前慣れてるんだろう?やってくれ」
「ハアアア!?」
「そしたらこの悶々の正体がハッキリ分かるかもしれない」
「ね…そうなるんだ」
「さすがだな虹生 やっぱり虹生だ……キレイだよ(ハート)」
「ユイ!ユイもミズキのコトが好きなの!?ちゃんとわたしに答えて!!」
「エッちゃん!何て(恐ろしい)ことを(今)言うの!?そんなことありえないって!!」
フッ・・・
「恵風、お兄ちゃんはあの頃間違って捨ててしまったものを、取り戻せるなら取り戻してみたい……そう考えてるんだ」
『 !! 』←恵風、瑞月
「お前たちを見てて思ったのさ……」
(瑞月…お前は変わったな……近頃会う度苦しくなるんだ。
今じゃスッカリ、恵風の襟の隙間から覗くマネばかりするようになりやがって。俺の目をごまかそうったって、そうは行かねえぞ。
お前!スネ毛ももう、ボウボウなんだろう?俺はなあ、夏になる度ソレを恵風に
「うっわユイ、いつの間にソンナなっちゃったの?ワタシのがゼンブ、ユイのトコロに行っちゃったみたい!」
って自分の脚を見せびらかしながら、ヒドイことを言いやがるようになったんだ。お前は恵風に言われたことはないのか?俺は絶対お前には言わないよ!脚がボウボウの 驚きの 黒 だったとしてもな!
クソウ 恵風ばっかりイジクッテないで、俺もかまってくれよ!
お前のトモダチが言う通り、”ボクの王様”のコントロールがマダマダ難しい。そんな不安定なお年頃だ。昔のようにただアハハゲラゲラとしているだけでは満足しない。俺たちはそんな時をもうとっくに過ぎてしまったんだ。
それに気付いた俺は、一体どおすりゃいいんだ。どうすれば、ナニをすれば、この空けてしまったお前との隙間を埋められる? なあ瑞月……)
「ユイもミズキのコトがスキだったら……」
「エ、エッちゃん?」
人の心のことに男女の分け隔てのない寛容な考えの恵風が、自分の兄の為にと考えることは……と瑞月は青ざめる。こんなことのために、今日ここに来たわけじゃないのに!瑞月はもう泣いてしまいそうだ。
『 エッちゃんは、おれたちの所においでよ!! 』
「!!?」←ミズキ
「三人で仲良くヤロウよ!フジイがいなくても、オレたちがいる! オレたちがやさしくキミを慰めてあげる キミが満足するまで、カナシミが消えるまでね!キレイサッパリ、フジイをアッと言う間に忘れさせてあげるよ!そして三人で幸せになるんだ! 三 人 で ! ね!旺汰!」
「もちろんだよエッちゃん、これからはフジイの代わりに俺たちが君のことを お れ た ち の か わ い い エ ッ ち ゃ ん と呼んであげるよ!」
「瑞月キスしてくれよ いつも恵風とヤッてるんだろう?俺にもヤッてくれ!」
「結日、落ち着け! お前はきっと 不 思 議 な 双 子 マ ジ ッ ク に掛かってるんだ エッちゃんの影響をお前は気付かないうちに受けているんだ ちょっとナナくんと三島!何てこと言うの!?俺のエッちゃんへの愛は永久に不滅なんだから勝手なこと言わないで!」
「ナンなんだよソレ!そんなことでごまかすなよ!恵風は関係ないぞ!俺は俺だ! 俺 は お 前 と キ ス が し て み た い ん だ !!」
「冗談じゃない!俺はエッちゃんの為に存在するオトコなんだから ねえエッちゃ…」
《 ハッッ!! 》
日頃”エッちゃんとランチ”を瑞月に断られ続けているふたりは、ここぞとばかりに柱の陰(小さな秘密基地)に恵風を連れ去っていた。
「ちょっと!お前ら俺の大事なエッちゃんにナニすんの!?」
恵風より上に存在する愛などない。この藤井には決してない!瑞月の瞳から炎が吹きそうだ。
「あの頃ミズキがユイのコト、好きだったのわたし知ってた……今もそうなの?ミズキはわたしをユイの代わりだと思ってるの?」
虹生は恵風の頭を包むようにダッコ。そして三島はそのふたりを丸ごとダッコ。恵風の背中にふたりのオトコの手――彼らの表情はまるで天にも昇るようだ。その悪夢の光景に、先ほどの炎の瞳からうってかわり、今にも零れそうな涙で一杯だ。
「ヨシヨシかわいそうなエッちゃん オレたちがワルイフジイを一刻も早く忘れさせてあげるからね 今よりもキミのことを幸せにしてあげるよ」
「虹生の言う通りだよエッちゃん 君のことを虹生とふたりでワルイフジイよりもたくさん愛してあげるから 今よりも愛に満ちた日々を送ろうね」
『 お れ た ち の か わ い い エ ッ ち ゃ ん !! 』
「瑞月、向こうは放っておいて早くヤッてくれよ……分かった!俺から行くぞ!いいな?」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って!ヤダよヤダ!離せ!!」
エッちゃん助けてくれよ もう俺には君しかいない!君しか頼れないんだあああ!!瑞月は必死で叫ぶ。けれどそれは言葉にも声にもならず、頬を二筋の涙が伝うだけ。
「瑞月ィ!コッチ向け!!」(グイ)
「ひゃあああ!!。。」
クスン クスン・・・
ヨシヨシかわいいエッちゃん ちょっとアッチ向いてようか
かわいいエッちゃん あんなモノ見なくていいように、しっかりダッコしてアゲルヨ(ギュ…)
クスン クスン・・・
エッちゃん…キミのこと、頭でもお腹でもドコでもヨシヨシしてあげるからね
たくさんたくさんヨシヨシして、気持ち良くしてアゲルカラネ
クスン クスン・・・
キミは本当にフワフワしていて、とても触り心地が良さそうだね
俺たちは天国に行けそうだよ ん~ン…イイニオイ……
『 三 人 で 仲 良 く ヤ ロ ウ ね !! 』
「瑞月 行くぞ!」
『 アッッッ!! 』「えっえふっ!?……」
・ ・ ・・・
結日のファーストキスのお相手は、瑞月の身代わりになった恵……
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