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初デート
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宙(心葉が下呼びしろと言ってうるさいので仕方なく呼ぶことになった。)が遊園地のペアチケットを持っていると言って僕らに押し付けてきた。今月で期限が切れてしまうため、早めに行って欲しいとのことだ。相変わらず宙の口元はニヤニヤと笑っていた。
その日のうちにある程度の予定を決めた。
───そして翌週の日曜日
待ち合わせ場所は心葉の家の最寄り駅だ。空が高く、少し寒いもう冬は近くまで来ているであろう。時計は9時50分を指している。集合時間は10時なのだが、余裕を持って早く出てきた。初デートと言う言葉から少し緊張するものかと思っていたが、まるで変わらず昨日もぐっすり寝ることができた。
周りを見ると子供連れの親子がちらほら見える。そういえば、今日日曜日か。金曜が祝日で学校が休みだったので、曜日感覚が鈍っている。
「心葉相手に少し早すぎたかな…。」
時計の針がゆっくり回っているのを見ながらぼそっと呟いた。
「私相手になんだって?」
背後からいきなり心葉の声がして、瞬時に振り向く。
「うわっ!な、なんでもないよ!っていうか、いたんなら、前から来てくれよ。なんでいつの間に後ろにいるんだよ。あー、驚いた。」
言いたいことを言い終え、ため息をつく。
「会って早々ため息とか寂しいなー」
心葉はわざとらしくチラチラこちらを見ている。
「はぁ、わかった、僕が悪い。ごめんって。」
結局、僕が折れる。いつもの流れ。まぁ、僕が1ミリも悪くないって訳じゃないからいんだけど。
「それじゃあ、行くか。次の電車に乗って、それから電車を乗り換えて…」
「あー、わかったから!乗りながら確認しよ!では、レッツゴー!」
僕の話を遮り、心葉は高らかに右手を突き上げた。
電車の乗り換えは思っていたより単純で、迷わずに例の遊園地まで行くことができた。
「着いたぁー!!」
「着いたねー。」
かなり、テンションの温度差を感じるが、いつもの事なので気にしない。
「遊園地なんて、小学生ぶりだよー!ほら、小6の夏休みみんなで行ったの覚えてる?」
それは、四年前のこと。仲の良かった友達四人で夏休みに遊園地を訪れた。あいにく、こことは別の場所だったが。
「あたりまえだ。すぐ迷子になるお前を毎回探し回ってたのは僕だからね。」
「そ、そんなこともあったね…」
心葉はわざとらしくゆっくり僕から目をそらした。
「そんなことより、どこから回るかー!」
話の変え方下手くそすぎるだろ。と頭の中で呟いた。
「そうだな、空いてるところがいい。」
「ほんと、並ぶの嫌いだね。」
心葉はクスクス笑った。
まずは、定番のジェットコースター。結局どれも並んでいたから、心葉の意見に賛成せざるを得なかった。十分ほど待ち、一番前の席に座ることができた。
「ねぇ!落ちる時、手上にあげようよ!!」
「あー、はいはい。」
絶叫マシンはどちらかと言うと好きなほうだ。表情にはでていないと思うが、かなりワクワクしている自分がいる。
少しずつ、上へ上ってゆく。景色がどんどん開けていき、てっぺんで遠くの街が一望できた。が、感動している間もなく車体は下に傾いた。
「ほら!手!」
心葉に手を握られ半強引に挙げた。
「キャーーーー!」
「うわーーーー!」
心葉釣られ、大声で叫んでいた。久しぶりにこんなにも笑ったような気がする。
そのままぐるりと一回転し、カーブそのままのスピードでもう一度下に落ちる。ゆっくりブレーキがかかり、元いた場所へピッタリと止まった。体が前後に少し揺れてからベルトが上がる。
「すごく楽しかった! もう一回乗ろ?」
顔を覗かせてそう言う。あぁ、可愛い。
って…えぇ!? 僕は何を……。 いきなり顔が熱くなる。我ながらかなり焦っている。悟られないように呼吸を整えてから心葉に返事をする。
「別にいいけど、他のに乗れなくなるよ?」
なぜか心葉はニヤニヤと笑っている。
「なんで笑ってんの?」
「悠真は私の事なんでもお見通しなんだなーって思って。」
「そりゃあ、まぁ、す、好きだから。」
って僕は何を言ってるんだ…。今日はなんだか変だ。
「ふふ。ありがとー!私も好きだよ」
心葉は嬉しそうに笑った。この笑顔には勝てそうにない。
「次は悠真が乗りたいの選んでよ!」
「えー、並んでないところ」
「またそれー?」
二人で笑い合いながら歩く。適当に目に入ったものに指をさした。
「じゃあ、あれ。」
そこには雰囲気のあるお化け屋敷の文字があった。
「…え?ほんとに言ってる?」
さっきのテンションが嘘みたいにオドオドとした声音で言った。
「そっか、心葉こういう系統のやつ苦手だっけ。ま、面白そうだし行くか」
「いやいや、ちょっと待ってよ!ねぇ!?」
心葉は僕の腕を引く。
「僕が選ぶ番なんでしょ?心葉が言ったんだよ。」
「そうだけど…」
きっと、心葉は頭の中でいろんなものと葛藤している。可哀想になってきたので、やめようと言おうとした。
「うん!悠真が選んでくれたんだもん!行こう!」
「本当に大丈夫か?」
「だいじょばないけど、頑張る!」
入口に向かうにつれて心葉はなんとなく重そうな足取りだった。
「こんにちはー!お客様お二人ですかー?ただ今、屋敷内が混みやあってるため、少々お時間がかかりますがよろしいでしょうかー?」
呑気な笑顔で語りかける従業員。
「大丈夫です、待ちます。」
僕はそう返す。
「ありがとうございまーす。」
三分ほど待っている間に数回、中にいる人の悲鳴が響いた。その声が聞こえるたびに隣の心葉はビクっと体を震わせる。隣の出口から二人組の女子高生らしき人が出てきたのを確認し、従業員は僕達に目を合わせた。
「それでは、門を開けさせていただきまーす。行ってらっしゃいませー。」
後ろを歩く心葉を気にしながら僕は屋敷の中に入った。暗幕を潜ると数メートル先はまるで見えないくらい真っ暗だった。
進もうとすると後ろにぐいっと腕を引かれた。少し驚きつつ自分の腕を見ると細い両手でがっしりと掴まれていた。
「なんだ、心葉か。驚かせるなよ。」
そう言いながら顔を見ると、目をうるうるとさせてこちらを覗いていた。
「うおっ!?大丈夫か?やっぱり出るか?」
「大丈夫…。でも、掴んでていい?」
心葉はそう言いながら僕のシャツを引っ張った。
「洋服伸びるよ。ほら…」
照れながら僕は手を差し出す。少し驚いた表情でこっちを見てから、はっとして顔を赤くしたのが見えた。差し出した手をちょっと眺めて両手でぎゅっと握った。強く握ったので、笑顔で僕も握り返す。そして、おばけが驚かすたび手をぎゅっと握られたので、なんとなくじんじんと痛い気がする。出口を見つけるときつく握っていた手が急に緩くなった。
もう終わってしまうのか。もう少し握っていたかった。そう思ったことはいつか心葉に言おう。きっと嬉しそうに笑うだろうから。
「外だ。ちょっと眩しいな。」
そう言いながら心葉を見るとおぼつかない足取りのままため息をついた。
「はぁ…。長かったぁー。絶対寿命縮まった。」
「お疲れ様。次は心葉が決める番だよ。」
そして、周りの目をも忘れ子供のようにはしゃぎながら園内を何周もした。一番多く乗ったアトラクションはダントツでジェットコースターだった。
太陽が沈み始めて、高い空が赤く染まっていく。
「次乗るので最後かな。」
「えー!もうそんな時間なの?」
心葉がスマホで時間を確認しながら「ほんとだー」とため息をついた。
「ラスト、何に乗りたい?」
「そーだね。うーん…」
今いる場所は遊園地のほぼ真ん中どのアトラクションへも距離はあまり変わらない。
「それじゃあ、あれがいい!」
指した先には園内で一番大きいと思われる観覧車だった。
「あれ、最初のほうで乗らなかったっけ?」
記憶ではお昼を食べる前あたりに1回乗った覚えがある。
「上から夕焼けが見たいの!」
「そーゆーことか。はいはい。んじゃあ、あれがラストね。」
「うん!」
昼間より並んでいる人がやや多い気がする。 だが、心葉と喋っているとすぐに順番が回ってきた。
従業員に先導されゴンドラに乗り込む。よくよく考えると、狭い空間に二人っきり、それに、どうやったって出れない密室だ。昼間は何も考えず乗れていたはずなのに、夕焼けのせいか必要のない雰囲気が漂う。ただ、心葉にはそんなもの関係なさそうだ。ずっと外を見て楽しそうに鼻歌を歌っている。今、僕が思っていることは絶対に言ってはいけない。ここに来てようやく初デートという言葉に緊張感を持った。少しづつ上がってゆく心拍数。赤くなる頬。こんな気持ちバレたくない。
「乗るの遅かったかな?太陽がほとんどないや。」
「そうだね。」
外の景色はは高くなるにつれて暗くなっていく。
「ねぇ、なんでずっと下見てるの?もうすぐ一番上だよ。」
「いつの間に頂上か。少し考えごとしてた。」
前のゴンドラが頂点につく直前でぐらっと揺れ急に停止した。そして、下に見えているアトラクションの光がすべて消えた。
「えっ!?なにこれ!停電!?」
あてにする光がなく真っ暗になっている。なにより今は、目の前にいるパニック状態の心葉を落ち着かせなければならない。
「おい、心葉落ち着け。きっとすぐ戻る。」
そう言いながら心葉側の椅子に移動する。
「待って!傾いた!!ねぇ!悠真どこ!?」
「僕ならここにいるから。落ち着けって」
心葉が手探りで僕を見つけぐいっと引っ張った。すると、周りの光が一度に光り、ゴンドラは回り始めた。そして、目の前は数センチで鼻がついてしまいそうなくらい近くに涙をこぼす心葉の顔がある。我に返った心葉は掴んでいた手をはずし、後ろを向いて涙をゴシゴシと拭いた。僕は恥ずかしさを誤魔化しながら外を眺めると、下の遊園地内はほぼ全てにイルミネーションが施されていて、さっきとはまるで違う景色だった。感動のあまり「うわぁ…」と声がもれる。心葉をちらっと覗くと、あちらも下の光が反射して目が輝いてる。
「ねぇ、悠真。」
正気を取り戻した声で心葉が僕の名を呼ぶ。
「何?」
いつも通りの言葉で返す。
「私ね……」
いきなり静かになった空間には遊園地の陽気な曲が微かに響く。心葉の後ろ姿を見ると下ろした髪から見える耳が赤くなっている。きっとイルミネーションのせいだ。
「私、好きだよ。悠真のこと。」
突然の告白。応えに戸惑う。
「なんだよ急に。」
「なんかさ、ずっと一緒ってすごく無責任な言葉じゃない?だったら、素直に今の気持ちを伝えたほうがいいと思うの。だから、今の私の気持ち。」
真剣な顔で僕を見つめる。応えるべき言葉はもうひとつしかない。
「そっか…。僕も好きだよ。」
「…なんか改まって言うのも照れるね。」
そう言って僕から視線を外す。こっちもかなり恥ずかしいんだよ。と心の中で呟いた。僕も外を見てみると、いつの間にかゴンドラは終わりに近づいていた。
「もう、終わりか。早いな。」
「そうだね。今日は楽しかった?」
「もちろん。心葉が隣に居たから余計にね。」
それから、従業員がドアを開くまで僕達は何一つ話さず外を眺めた。
────今日の僕はなぜか、口が過ぎる。雰囲気に流されるなんてらしくない。
ゴンドラを降りてからあたりを見回して真ん中にある大きな時計を見た。針は6時を指していた。
「やっぱり、観覧車が最後だったね。名残惜しい気もするなぁー。楽しかった!!」
「そうだな。また来ような。」
「うん!その時は宙に彼氏とダブルデートだ!」
「あいつに彼氏いたっけ?」
「いないよ!でも宙ならできるよ!可愛いし、頭いいし、なんでもできるもん!」
「できるといいな。」
僕は笑いながら心葉を見た。心葉はとても楽しそうな笑顔をこちらに向けた。眩しいその笑顔のおかげで毎日がすごく幸せに思える。くだらない会話もほんの小さな言い争いだってひとつひとつ大事な思い出としてずっと心に残り続けていくだろう。
「心葉、これこらもずっと一緒だよ。」
ニヤリと口角をあげ、横目でそう言った。
「悠真くん?さっき言ったこと覚えてないの?」
彼女もわざとらしく僕の名前に君付けをしていたずらにこちらを睨んだ。
街灯がチカチカと付き始た。僕らは明るくなった道を少し遠回りして歩いていく。
その日のうちにある程度の予定を決めた。
───そして翌週の日曜日
待ち合わせ場所は心葉の家の最寄り駅だ。空が高く、少し寒いもう冬は近くまで来ているであろう。時計は9時50分を指している。集合時間は10時なのだが、余裕を持って早く出てきた。初デートと言う言葉から少し緊張するものかと思っていたが、まるで変わらず昨日もぐっすり寝ることができた。
周りを見ると子供連れの親子がちらほら見える。そういえば、今日日曜日か。金曜が祝日で学校が休みだったので、曜日感覚が鈍っている。
「心葉相手に少し早すぎたかな…。」
時計の針がゆっくり回っているのを見ながらぼそっと呟いた。
「私相手になんだって?」
背後からいきなり心葉の声がして、瞬時に振り向く。
「うわっ!な、なんでもないよ!っていうか、いたんなら、前から来てくれよ。なんでいつの間に後ろにいるんだよ。あー、驚いた。」
言いたいことを言い終え、ため息をつく。
「会って早々ため息とか寂しいなー」
心葉はわざとらしくチラチラこちらを見ている。
「はぁ、わかった、僕が悪い。ごめんって。」
結局、僕が折れる。いつもの流れ。まぁ、僕が1ミリも悪くないって訳じゃないからいんだけど。
「それじゃあ、行くか。次の電車に乗って、それから電車を乗り換えて…」
「あー、わかったから!乗りながら確認しよ!では、レッツゴー!」
僕の話を遮り、心葉は高らかに右手を突き上げた。
電車の乗り換えは思っていたより単純で、迷わずに例の遊園地まで行くことができた。
「着いたぁー!!」
「着いたねー。」
かなり、テンションの温度差を感じるが、いつもの事なので気にしない。
「遊園地なんて、小学生ぶりだよー!ほら、小6の夏休みみんなで行ったの覚えてる?」
それは、四年前のこと。仲の良かった友達四人で夏休みに遊園地を訪れた。あいにく、こことは別の場所だったが。
「あたりまえだ。すぐ迷子になるお前を毎回探し回ってたのは僕だからね。」
「そ、そんなこともあったね…」
心葉はわざとらしくゆっくり僕から目をそらした。
「そんなことより、どこから回るかー!」
話の変え方下手くそすぎるだろ。と頭の中で呟いた。
「そうだな、空いてるところがいい。」
「ほんと、並ぶの嫌いだね。」
心葉はクスクス笑った。
まずは、定番のジェットコースター。結局どれも並んでいたから、心葉の意見に賛成せざるを得なかった。十分ほど待ち、一番前の席に座ることができた。
「ねぇ!落ちる時、手上にあげようよ!!」
「あー、はいはい。」
絶叫マシンはどちらかと言うと好きなほうだ。表情にはでていないと思うが、かなりワクワクしている自分がいる。
少しずつ、上へ上ってゆく。景色がどんどん開けていき、てっぺんで遠くの街が一望できた。が、感動している間もなく車体は下に傾いた。
「ほら!手!」
心葉に手を握られ半強引に挙げた。
「キャーーーー!」
「うわーーーー!」
心葉釣られ、大声で叫んでいた。久しぶりにこんなにも笑ったような気がする。
そのままぐるりと一回転し、カーブそのままのスピードでもう一度下に落ちる。ゆっくりブレーキがかかり、元いた場所へピッタリと止まった。体が前後に少し揺れてからベルトが上がる。
「すごく楽しかった! もう一回乗ろ?」
顔を覗かせてそう言う。あぁ、可愛い。
って…えぇ!? 僕は何を……。 いきなり顔が熱くなる。我ながらかなり焦っている。悟られないように呼吸を整えてから心葉に返事をする。
「別にいいけど、他のに乗れなくなるよ?」
なぜか心葉はニヤニヤと笑っている。
「なんで笑ってんの?」
「悠真は私の事なんでもお見通しなんだなーって思って。」
「そりゃあ、まぁ、す、好きだから。」
って僕は何を言ってるんだ…。今日はなんだか変だ。
「ふふ。ありがとー!私も好きだよ」
心葉は嬉しそうに笑った。この笑顔には勝てそうにない。
「次は悠真が乗りたいの選んでよ!」
「えー、並んでないところ」
「またそれー?」
二人で笑い合いながら歩く。適当に目に入ったものに指をさした。
「じゃあ、あれ。」
そこには雰囲気のあるお化け屋敷の文字があった。
「…え?ほんとに言ってる?」
さっきのテンションが嘘みたいにオドオドとした声音で言った。
「そっか、心葉こういう系統のやつ苦手だっけ。ま、面白そうだし行くか」
「いやいや、ちょっと待ってよ!ねぇ!?」
心葉は僕の腕を引く。
「僕が選ぶ番なんでしょ?心葉が言ったんだよ。」
「そうだけど…」
きっと、心葉は頭の中でいろんなものと葛藤している。可哀想になってきたので、やめようと言おうとした。
「うん!悠真が選んでくれたんだもん!行こう!」
「本当に大丈夫か?」
「だいじょばないけど、頑張る!」
入口に向かうにつれて心葉はなんとなく重そうな足取りだった。
「こんにちはー!お客様お二人ですかー?ただ今、屋敷内が混みやあってるため、少々お時間がかかりますがよろしいでしょうかー?」
呑気な笑顔で語りかける従業員。
「大丈夫です、待ちます。」
僕はそう返す。
「ありがとうございまーす。」
三分ほど待っている間に数回、中にいる人の悲鳴が響いた。その声が聞こえるたびに隣の心葉はビクっと体を震わせる。隣の出口から二人組の女子高生らしき人が出てきたのを確認し、従業員は僕達に目を合わせた。
「それでは、門を開けさせていただきまーす。行ってらっしゃいませー。」
後ろを歩く心葉を気にしながら僕は屋敷の中に入った。暗幕を潜ると数メートル先はまるで見えないくらい真っ暗だった。
進もうとすると後ろにぐいっと腕を引かれた。少し驚きつつ自分の腕を見ると細い両手でがっしりと掴まれていた。
「なんだ、心葉か。驚かせるなよ。」
そう言いながら顔を見ると、目をうるうるとさせてこちらを覗いていた。
「うおっ!?大丈夫か?やっぱり出るか?」
「大丈夫…。でも、掴んでていい?」
心葉はそう言いながら僕のシャツを引っ張った。
「洋服伸びるよ。ほら…」
照れながら僕は手を差し出す。少し驚いた表情でこっちを見てから、はっとして顔を赤くしたのが見えた。差し出した手をちょっと眺めて両手でぎゅっと握った。強く握ったので、笑顔で僕も握り返す。そして、おばけが驚かすたび手をぎゅっと握られたので、なんとなくじんじんと痛い気がする。出口を見つけるときつく握っていた手が急に緩くなった。
もう終わってしまうのか。もう少し握っていたかった。そう思ったことはいつか心葉に言おう。きっと嬉しそうに笑うだろうから。
「外だ。ちょっと眩しいな。」
そう言いながら心葉を見るとおぼつかない足取りのままため息をついた。
「はぁ…。長かったぁー。絶対寿命縮まった。」
「お疲れ様。次は心葉が決める番だよ。」
そして、周りの目をも忘れ子供のようにはしゃぎながら園内を何周もした。一番多く乗ったアトラクションはダントツでジェットコースターだった。
太陽が沈み始めて、高い空が赤く染まっていく。
「次乗るので最後かな。」
「えー!もうそんな時間なの?」
心葉がスマホで時間を確認しながら「ほんとだー」とため息をついた。
「ラスト、何に乗りたい?」
「そーだね。うーん…」
今いる場所は遊園地のほぼ真ん中どのアトラクションへも距離はあまり変わらない。
「それじゃあ、あれがいい!」
指した先には園内で一番大きいと思われる観覧車だった。
「あれ、最初のほうで乗らなかったっけ?」
記憶ではお昼を食べる前あたりに1回乗った覚えがある。
「上から夕焼けが見たいの!」
「そーゆーことか。はいはい。んじゃあ、あれがラストね。」
「うん!」
昼間より並んでいる人がやや多い気がする。 だが、心葉と喋っているとすぐに順番が回ってきた。
従業員に先導されゴンドラに乗り込む。よくよく考えると、狭い空間に二人っきり、それに、どうやったって出れない密室だ。昼間は何も考えず乗れていたはずなのに、夕焼けのせいか必要のない雰囲気が漂う。ただ、心葉にはそんなもの関係なさそうだ。ずっと外を見て楽しそうに鼻歌を歌っている。今、僕が思っていることは絶対に言ってはいけない。ここに来てようやく初デートという言葉に緊張感を持った。少しづつ上がってゆく心拍数。赤くなる頬。こんな気持ちバレたくない。
「乗るの遅かったかな?太陽がほとんどないや。」
「そうだね。」
外の景色はは高くなるにつれて暗くなっていく。
「ねぇ、なんでずっと下見てるの?もうすぐ一番上だよ。」
「いつの間に頂上か。少し考えごとしてた。」
前のゴンドラが頂点につく直前でぐらっと揺れ急に停止した。そして、下に見えているアトラクションの光がすべて消えた。
「えっ!?なにこれ!停電!?」
あてにする光がなく真っ暗になっている。なにより今は、目の前にいるパニック状態の心葉を落ち着かせなければならない。
「おい、心葉落ち着け。きっとすぐ戻る。」
そう言いながら心葉側の椅子に移動する。
「待って!傾いた!!ねぇ!悠真どこ!?」
「僕ならここにいるから。落ち着けって」
心葉が手探りで僕を見つけぐいっと引っ張った。すると、周りの光が一度に光り、ゴンドラは回り始めた。そして、目の前は数センチで鼻がついてしまいそうなくらい近くに涙をこぼす心葉の顔がある。我に返った心葉は掴んでいた手をはずし、後ろを向いて涙をゴシゴシと拭いた。僕は恥ずかしさを誤魔化しながら外を眺めると、下の遊園地内はほぼ全てにイルミネーションが施されていて、さっきとはまるで違う景色だった。感動のあまり「うわぁ…」と声がもれる。心葉をちらっと覗くと、あちらも下の光が反射して目が輝いてる。
「ねぇ、悠真。」
正気を取り戻した声で心葉が僕の名を呼ぶ。
「何?」
いつも通りの言葉で返す。
「私ね……」
いきなり静かになった空間には遊園地の陽気な曲が微かに響く。心葉の後ろ姿を見ると下ろした髪から見える耳が赤くなっている。きっとイルミネーションのせいだ。
「私、好きだよ。悠真のこと。」
突然の告白。応えに戸惑う。
「なんだよ急に。」
「なんかさ、ずっと一緒ってすごく無責任な言葉じゃない?だったら、素直に今の気持ちを伝えたほうがいいと思うの。だから、今の私の気持ち。」
真剣な顔で僕を見つめる。応えるべき言葉はもうひとつしかない。
「そっか…。僕も好きだよ。」
「…なんか改まって言うのも照れるね。」
そう言って僕から視線を外す。こっちもかなり恥ずかしいんだよ。と心の中で呟いた。僕も外を見てみると、いつの間にかゴンドラは終わりに近づいていた。
「もう、終わりか。早いな。」
「そうだね。今日は楽しかった?」
「もちろん。心葉が隣に居たから余計にね。」
それから、従業員がドアを開くまで僕達は何一つ話さず外を眺めた。
────今日の僕はなぜか、口が過ぎる。雰囲気に流されるなんてらしくない。
ゴンドラを降りてからあたりを見回して真ん中にある大きな時計を見た。針は6時を指していた。
「やっぱり、観覧車が最後だったね。名残惜しい気もするなぁー。楽しかった!!」
「そうだな。また来ような。」
「うん!その時は宙に彼氏とダブルデートだ!」
「あいつに彼氏いたっけ?」
「いないよ!でも宙ならできるよ!可愛いし、頭いいし、なんでもできるもん!」
「できるといいな。」
僕は笑いながら心葉を見た。心葉はとても楽しそうな笑顔をこちらに向けた。眩しいその笑顔のおかげで毎日がすごく幸せに思える。くだらない会話もほんの小さな言い争いだってひとつひとつ大事な思い出としてずっと心に残り続けていくだろう。
「心葉、これこらもずっと一緒だよ。」
ニヤリと口角をあげ、横目でそう言った。
「悠真くん?さっき言ったこと覚えてないの?」
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