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第1章 超イケメン、死す!
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俺は女を男子トイレに引き込むと、彼女の左手首から手を離した。女は俺に掴まれていた左手首を痛そうにさすりながら俺の顔を見つめた。その表情は恐怖で引きつっている。
そのとき、背後に気配を感じた俺は男子トイレの自動ドアを振り返った。自動ドアのすりガラスの向こうに幾つもの黒い人影が見える。
奴隷たちめ!
「お前ら、聞き耳をたてる権利は認めるが、覗き見する権利は認めないぞ!」
俺の声に驚いたのか、すりガラスの向こうの黒い影たちは蜘蛛の子を散らすように消え去った。それを確認した俺は、女に顔を戻した。
「俺のために自ら服を脱ぐ権利を認めてやろう」
「嫌よ! 脱がないわ!」
女の力強い拒絶を受けて、ますます興奮してきた。股間がはちきれそうだ。
「自ら裸体をさらすのがイケメンへの礼儀だろう」
「あなたみたいな勘違いナルシストの前で服を脱ぐなんて冗談じゃないわ!」
「そうか、お前は力づくで脱がされることに興奮するタイプなんだな」
女の中には、乱暴に扱われることで性的快感を増幅させるタイプがいる。この女はそういうタイプか、男を焦らすのが好きなタイプらしい。だったら、お望みどおりにしてやろう。
俺は女に近づいた。同時に後ずさりする女。女の気の強さを感じさせる美しい瞳が俺を真っすぐに捉えている。そのとき、女の瞳が一瞬光ったような気がした。
「分かったわ、脱ぐわ。だけど、脱いでいるところを見られるのが恥ずかしいの。全部脱ぎ終わるまで私を見ないでもらえるかしら?」
「分かった。俺のために自ら全裸になる栄誉を与えてやろう」
俺は女の求めに応じて顔をそらした。すると視線の先には神さえ恥じらうイケメンの顔があった。それはトイレの鏡に映る俺の顔だった。俺は右手でサラサラした前髪に触れると弄び始めた。
やっぱり俺はイケメンだ。イケメンという言葉の意味さえ、俺の美貌に追従できないほどだ。美少年ナルシスの美しさなど、俺の足元には及ばない。しかし、このトイレの鏡では俺の美しさを完璧に映しきれていな……
そのときだった。トイレの鏡に映る自分の顔に酔いしれている俺の左側頭部に衝撃が走った。鏡に映るイケメンが一瞬ぶれた。何が起きたのか分からないまま、俺は女の方へ顔を戻した。今度は顔面に衝撃を受けて視界が真っ暗になった。どうやら女が俺の頭や顔を何かで殴りつけたらしい。女は棒のようなもので何度か俺を殴りつけると、自動ドアからトイレの外へ飛び出した。
頭や顔面に痛みを感じながら目を開くと、すぐ傍に長い柄のついたモップが落ちていた。どうやら女にモップで殴られたらしい。そのとき何か生温かいものが鼻から滴り落ちた。鼻血だった。
「鼻血じゃねーか!」
美少年ナルシスさえ許しを請うほどのイケメンな俺に鼻血を流させるとは!
先ほどまでの性欲の焔は激しい怒りの猛炎となって俺の全身を包み込んだ。
俺はトイレの外へ逃げ出した女を追いかけようと自動ドアに向かって駆け出した。次の瞬間、正面にすりガラスの自動ドアが現れた。走り出した俺を阻むように現れたすりガラスに、俺は激しく顔面を打ち付けた。バンッと大きな音が耳に入ると同時に顔面に衝撃が走る。俺は言葉を発する間もなく仰向けに倒れた。さらに後頭部に激しい衝撃を感じ、鈍い音が聞こえた。俺の世界は一瞬にして暗闇に包まれた。
ふと気がつくと、俺はトイレの自動ドアの前で突っ立っていた。自動ドアはしきりに開いたり閉じたりを繰り返している。それは当然だった。奴隷たちが慌てふためきながら自動ドアを行き来していたからだ。
「お前たち、何をしている! 女を追うんだ!」
そう叫んだ俺ではあったけれど、奴隷たちは俺の声などまったく耳に入っていないようだ。
「魔堕斗様ーっ」
奴隷たちの泣き叫ぶ声を感じた俺は振り返った。するとそこには鼻血を出した男が倒れていた。鼻血を出して倒れている男の顔は赤く腫れあがって、両目は開いたまま、鼻先や口元が不細工に歪んでいる。俺は、じっとその男を見つめた。
「誰だ、このブサメンは。でも、待てよ。よく見る顔だぞ」
「魔堕斗様、お迎えにあがりました」
突然、自分の名前を呼ばれた俺は振り返った。ちょうど自動ドアがある位置に黒いローブに身を包んだ男が立っていた。不思議なことに自動ドアが閉まっても、ローブの男とすりガラスのドアはぶつかることなく重なっている。
「お前は誰だ?」
「前世で魔堕斗様の手下だった者です」
ローブの男は視線を床に落としながら答えた。
「手下? まあ、手下はたくさんいるが……それで何の用だ?」
「お迎えにあがりました」
「お迎えだと? そんなものはいらないから、それより早く女を追え!」
「無理でございます。魔堕斗様、あなたはもうお亡くなりになったのでございます」
「何だと!」
俺は床に倒れているブサメンに視線を向けた。
俺は死んだのか! まだ21歳なんだぞ! 俺は二次元のイケメンさえ恥じ入るほどのイケメンなんだぞ! まだまだ、これから人生を謳歌しようというときに……!
「さ、魔堕斗様。とりあえず霊界へ参りましょう」
「うむ」
ブサメンと化した人間の肉体などに未練はない。俺は、さっさと人間界を離れた。
そのとき、背後に気配を感じた俺は男子トイレの自動ドアを振り返った。自動ドアのすりガラスの向こうに幾つもの黒い人影が見える。
奴隷たちめ!
「お前ら、聞き耳をたてる権利は認めるが、覗き見する権利は認めないぞ!」
俺の声に驚いたのか、すりガラスの向こうの黒い影たちは蜘蛛の子を散らすように消え去った。それを確認した俺は、女に顔を戻した。
「俺のために自ら服を脱ぐ権利を認めてやろう」
「嫌よ! 脱がないわ!」
女の力強い拒絶を受けて、ますます興奮してきた。股間がはちきれそうだ。
「自ら裸体をさらすのがイケメンへの礼儀だろう」
「あなたみたいな勘違いナルシストの前で服を脱ぐなんて冗談じゃないわ!」
「そうか、お前は力づくで脱がされることに興奮するタイプなんだな」
女の中には、乱暴に扱われることで性的快感を増幅させるタイプがいる。この女はそういうタイプか、男を焦らすのが好きなタイプらしい。だったら、お望みどおりにしてやろう。
俺は女に近づいた。同時に後ずさりする女。女の気の強さを感じさせる美しい瞳が俺を真っすぐに捉えている。そのとき、女の瞳が一瞬光ったような気がした。
「分かったわ、脱ぐわ。だけど、脱いでいるところを見られるのが恥ずかしいの。全部脱ぎ終わるまで私を見ないでもらえるかしら?」
「分かった。俺のために自ら全裸になる栄誉を与えてやろう」
俺は女の求めに応じて顔をそらした。すると視線の先には神さえ恥じらうイケメンの顔があった。それはトイレの鏡に映る俺の顔だった。俺は右手でサラサラした前髪に触れると弄び始めた。
やっぱり俺はイケメンだ。イケメンという言葉の意味さえ、俺の美貌に追従できないほどだ。美少年ナルシスの美しさなど、俺の足元には及ばない。しかし、このトイレの鏡では俺の美しさを完璧に映しきれていな……
そのときだった。トイレの鏡に映る自分の顔に酔いしれている俺の左側頭部に衝撃が走った。鏡に映るイケメンが一瞬ぶれた。何が起きたのか分からないまま、俺は女の方へ顔を戻した。今度は顔面に衝撃を受けて視界が真っ暗になった。どうやら女が俺の頭や顔を何かで殴りつけたらしい。女は棒のようなもので何度か俺を殴りつけると、自動ドアからトイレの外へ飛び出した。
頭や顔面に痛みを感じながら目を開くと、すぐ傍に長い柄のついたモップが落ちていた。どうやら女にモップで殴られたらしい。そのとき何か生温かいものが鼻から滴り落ちた。鼻血だった。
「鼻血じゃねーか!」
美少年ナルシスさえ許しを請うほどのイケメンな俺に鼻血を流させるとは!
先ほどまでの性欲の焔は激しい怒りの猛炎となって俺の全身を包み込んだ。
俺はトイレの外へ逃げ出した女を追いかけようと自動ドアに向かって駆け出した。次の瞬間、正面にすりガラスの自動ドアが現れた。走り出した俺を阻むように現れたすりガラスに、俺は激しく顔面を打ち付けた。バンッと大きな音が耳に入ると同時に顔面に衝撃が走る。俺は言葉を発する間もなく仰向けに倒れた。さらに後頭部に激しい衝撃を感じ、鈍い音が聞こえた。俺の世界は一瞬にして暗闇に包まれた。
ふと気がつくと、俺はトイレの自動ドアの前で突っ立っていた。自動ドアはしきりに開いたり閉じたりを繰り返している。それは当然だった。奴隷たちが慌てふためきながら自動ドアを行き来していたからだ。
「お前たち、何をしている! 女を追うんだ!」
そう叫んだ俺ではあったけれど、奴隷たちは俺の声などまったく耳に入っていないようだ。
「魔堕斗様ーっ」
奴隷たちの泣き叫ぶ声を感じた俺は振り返った。するとそこには鼻血を出した男が倒れていた。鼻血を出して倒れている男の顔は赤く腫れあがって、両目は開いたまま、鼻先や口元が不細工に歪んでいる。俺は、じっとその男を見つめた。
「誰だ、このブサメンは。でも、待てよ。よく見る顔だぞ」
「魔堕斗様、お迎えにあがりました」
突然、自分の名前を呼ばれた俺は振り返った。ちょうど自動ドアがある位置に黒いローブに身を包んだ男が立っていた。不思議なことに自動ドアが閉まっても、ローブの男とすりガラスのドアはぶつかることなく重なっている。
「お前は誰だ?」
「前世で魔堕斗様の手下だった者です」
ローブの男は視線を床に落としながら答えた。
「手下? まあ、手下はたくさんいるが……それで何の用だ?」
「お迎えにあがりました」
「お迎えだと? そんなものはいらないから、それより早く女を追え!」
「無理でございます。魔堕斗様、あなたはもうお亡くなりになったのでございます」
「何だと!」
俺は床に倒れているブサメンに視線を向けた。
俺は死んだのか! まだ21歳なんだぞ! 俺は二次元のイケメンさえ恥じ入るほどのイケメンなんだぞ! まだまだ、これから人生を謳歌しようというときに……!
「さ、魔堕斗様。とりあえず霊界へ参りましょう」
「うむ」
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