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赤き竜と白き死神の物語
叡智の塔 1
しおりを挟む今回の依頼は、シルフェスト大陸からずっと北に位置するウェンドラント大陸にあるエルフィンの総べる国家、魔都ウェンドラント司長国での仕事だ。
国から秘密裏に出されている依頼らしく、何人もの冒険者が挑戦しているが誰も依頼を完遂できなかったという。
一応公的な依頼ということで、移動手段として元素技術の進んでいるウェンドラントから飛空挺が送迎に来て、馬車と船なら片道5日はかかるだろう道のりが数時間で済んだのは幸いだった(初めて乗る乗り物だが乗り物酔いはしっかりした)
10年ほど前に先代の司長(しちょう)と補佐臣(ほさおみ)の悪政を現任の司長が打ち破り、過去の排他的で閉鎖しきっていたこの国は一変し、少しずつ外交が進んで市民の生活もずいぶんと平和的になったという。
先代達は法の元に処刑されたが、町外れにある廃塔に先代の隠し子が監禁されているという事実が分かり、国の総力をあげて調査を行ったり、今回のように冒険者を募って調査しようとするも、そもそも中に立ち入ることすら現在まで出来ていないらしい。
今回の件を取り仕切っている補佐臣のユージーンさんから仔細を聞き、気になることが一つ。
「その、先代の隠し子が見つかった場合、その方はどうなるんですか?」
「保護する事になるでしょうね。先代の子とはいえ、その子自体には何の罪もありませんから」
「そんならまァ、安心か」
僕と共に説明を聞いていたレオンがホッとしたように息を吐いた。
折角その隠し子とやらを塔から助け出したとて、処刑されてしまうなら後味があまりにも悪すぎるからね。
僕たち一行は一旦、今日泊まる予定の宿に向かうためにウェンドラント司政城から出て町へ向かった。
今回この廃塔の調査を行うのは僕とレオン、アイリス、そして……
「はぁん……憧れのアイリスお姉様が私(わたくし)の故郷にいらっしゃるなんて……夢のようですぅ」
「ソフィア、『お姉様』はやめて……」
「お姉様はお姉様なんですもの!私の愛と敬意の表れですよぉ」
「デカい乳を押し付けないで……」
アイリスの腕にやたら大きな『女性の象徴』を押し付けてべったりとくっついている長身の女性、ソフィアというエルフィンの冒険者だ。
彼女は若草色のゆるくウェーブがかかった髪が肩口に乗るくらいで、細い銀縁の眼鏡の向こうには眠そうな垂れ目で桃色の瞳が特徴的な美女。
白と萌葱色を基調にしたワンピースに革の防具を身につけた姿はあまり戦闘に適しているようには見えないが、それでも彼女も腕利きの冒険者の一人である。
「(ソフィアはエルフィンだしアイリスより歳上なのにお姉様ってなんだか変だけど黙っておこう)」
「ソフィアお前アイリスよりずっっっと歳上なのにお姉様はねェだ……」
ヒュンッ……ズドン!!!
「……ろ……」
僕がせっかく言わないようにしたのにレオンがうっかり口にしてしまった言葉がシルフィの逆鱗に触れてしまった。
いつのまにかソフィアの手に構えられていたのは彼女のアーティファクトである翼のような形の弓。
そこから放たれた風の矢はレオンの右頬を掠めて後ろの石垣に風穴を空けた。
これ弁償しないといけないのかな……
「あっっぶねェ……」
「レオン様?年齢など瑣末なことですよぉ?アイリスお姉様は誰が何と言おうと私のお姉様なんですぅっ!脳天ぶち抜いて考えを改めさせて差し上げましょうかぁ?」
「悪かったから弓を下ろしてくれ」
百戦錬磨のレオンですらビビる彼女の圧は、言葉遣いこそ緩いものの凄まじいものだ。
今見た通り彼女は卓越した弓の腕を持ち、遠距離での戦いにおいてソフィアの右に出るものは居ないと白き聖杖亭の冒険者達の間では噂されるほど。
以上の四名で明日の朝から調査に向かうことになった。
2に続く
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