22 / 40
赤き竜と白き死神の物語
砂漠の迷宮 4
しおりを挟むドカーン!!!
ものすごい音と共にレイヴンのすぐ横の壁が崩れ、続いて聴きなれた声がした。
音に驚いたのか、レイヴンの耳と尻尾がピーンと立っていて、少し可愛いと思った。
「こンのクソ猫ーー!!シロに何してやがる!!!」
「ええ~!?まだ何もしてないよ~」
「『まだ』って何だ『まだ』って!!!」
「シロ、大丈夫だった?セクハラ猫にエッチなことされなかった?」
レイヴンが壁をぶち壊してやって来たレオンに捕まってブンブン振り回されているのを尻目に、すぐ後から小部屋に入って来たアイリスが、僕が立ち上がるのを手伝ってくれながら心配そうに聞いてきた。
キスされそうになるのはエッチなことに含まれるのかどうかを考えている間に、レオンがこっちに戻って来て僕を横抱きにして小部屋から外に連れ出した。
壁は結構な厚みがあるように見えるが、レオンが力任せにぶち壊したのだろうか?
壁の向こうは通路に繋がっており、通路の途中にレオンとアイリスは落とされたようだ。
「よく場所がわかったね」
「アイリスがいつものワケわかんねー機械で二人の位置を割り出してくれたんだ。たまには使えるモン出すんだなと思ったら、この壁の前にその機械が勝手に飛んで行って爆発しやがった」
「結果的に壁が崩れて二人を助けられたんだからいいでしょ」
レオンの説明にアイリスが後ろから茶々を入れている。『また』彼女の発明は大爆発を起こしたようだが確かに今回は役に立っている。
「馬鹿力ドラゴンヒーローくんが壁ぶっ壊したのかと思った~」
「機械が爆発しなかったら俺はそうしただろうよ」
「レオンなら本当に出来そうな気がするよ」
僕がつい笑いを溢してしまうと、レオンは少し赤くなって照れているような表情をした。
レオンに降ろしてもらって、周囲を確認する。
強い瘴気の気配を通路の先に感じる。
「この先にここのご主人様がいるっぽいね~」
「あんな大騒ぎしたのに魔物が一匹も出なかったってことは、迎え討つ体制ってことね」
レイヴンとアイリスが言うように、件の強い気配の他には魔物の気配がしない。
魔族は異界の扉より現れる高等種族で、知能も戦闘能力も非常に高い。心して対峙せねばならないだろう。
やがて通路の先に大仰な石の扉が見えた。
レイヴンが罠を確認して、問題なしの合図をしたのでレオンが扉を押し開こうと手をかけると、招き入れるかのように、ひとりでに扉が開いた。
中は広い真っ黒な、しかし明かりがなくとも仲間達の姿はちゃんと見える不思議な空間が広がっており、正面には玉座のような豪奢な椅子が一脚、そしてそこには片肘をついてこちらを見る若そうな銀髪の男が座っている。
灰色の肌に身に纏っているのは、上等そうな黒い布で作られた、彼の引き締まった体のラインを際立たせる細身の衣服。
切長の鋭い目は爛々と黄金に輝いていて、耳はエルフィンのように長い。
アーティファクトを構えた僕たちを見下ろして何故か困惑したような笑みを浮かべており、やがて両手を開いてこちらに語りかけた。
「あー、君ら戦いたいの?俺は別にそんなつもりないんだけどさー?話し合いたくて魔物も大人しくさせて扉開けたんだけど?」
……魔族といえば友好的なノクタニアンを除いて基本的には人間を駆逐し世界を征服しようとしている思想の者が多いのだが、そういうタイプにはどうも思えない言葉だった。
とはいえ警戒は解かずにレオンが問う。
「迷宮があると魔物が外に溢れ出す。お前に戦う意思がなくても人間にとっては迷惑なんだよ」
「ああ、その辺は心配しなくていいよ。入り口を守ってるサソリはそこから離れないし、他の魔物も俺の支配下にあるからさ」
「あんたの気分次第で外に放つ可能性あるでしょ~?」
レイヴンの問いに、「うーん確かに、信用してもらうにはどうすれば……」と魔族の男は真面目に考え始めた。
彼は……本当に友好的な魔族なのだろうか?
「だってニンゲンって俺らのことすぐ攻撃してくるし、迷宮でも作ってひっそり住むしか無いじゃんさー好きで飛ばされて来たわけでも無いしー」
「確かに昔は魔族を排斥してたけど、あたしたちが住んでるシルフェスト王国ならあなたみたいな魔族は『ノクタニアン』って種族として普通に暮らしてる」
「ええ?マジで?じゃあ俺そこ行こっかな。ここ砂しかなくて退屈だしさー」
「そうしたいなら、僕たちに信用させてほしい。住民登録に口利きが出来ると思うから」
アイリスの言う通り、僕たちの拠点国であるシルフェスト王国は自由の国の別名の通り、寛容な種族受け入れ体制が整っている。
しかし魔族というだけでどうしてもある程度の警戒はされてしまうため、大抵のノクタニアンは善行を積んで信用に充てているのだ。
いかにして僕たちの信用を得るのか……魔族の彼は玉座から立ち上がってこちらに歩み寄った。
そしておもむろに服を脱ぎ始める。アイリスが察してくるりと後ろを向いた。
「これでどうかな?俺が今持ってるのはこの美しい体ひとつだけ」
流石にここまでされては僕たちも武器をしまうしかない。なぜなら魔族といえども瘴気を操る媒体である『装具』を身につけていなければ、アーティファクト持ちの冒険者四人と戦うことは不可能だ。
彼の装具は服と一緒に外して地面に置かれた黒い石のペンダントだった。
なぜか全裸で彼は次々と自信満々で艶めかしいポーズを取っている。たしかに筋肉質で均整の取れた体つきだ。
男性好きのレイヴンが喜ぶかもと思ったが、どうもこの魔族の男は別段彼の好みではないらしく反応が薄い……が、彼の丸出しの股間を値踏みするようにじっと眺めてはいる。
「住民登録が済むまで装具は俺たちが預かることになるが構わねェか?」
「ああ、構わないさ。その前に迷宮も閉じて魔物も元素に還してしまおう。ここから外に出れる」
魔族の彼が服を着直して、おもむろに指を鳴らすと何も無い空間に人一人通れるぐらいの『穴』が生まれた。
穴の向こうには外の砂漠が見えている。
一応レイヴンが危険がないか確認してから、全員で穴を潜り抜けると、問題なく外に脱出することができた。
僕たちが迷宮に立ち入る時に入って来た扉もそこにある。
日の傾いた砂漠は赤みを帯びた黄金色に煌めいていた。
続いて穴から外に出て来た魔族の男はパンパンと手を叩いた。
すると穴も入り口の扉も光の粒になって消え去った。
「はい、これで迷宮も魔物も綺麗さっぱり消えたよ。これ俺の装具。壊れたら俺が死ぬから壊さないでくれよー?」
「ああ、分かってる」
「そういえばお兄さんの名前は~?」
装具をレオンに預け、魔族の男はレイヴンの問いににこやかに答えた。
「『ジェイ』だ。それじゃ道中よろしくー」
かくしてなんとも呆気なく僕たちの迷宮攻略は完遂し、ジェイと名乗った魔族の男を引き連れてエルドへ帰ることとなった。
彼が白き聖杖亭の冒険者になるのは、もう少し後の話。
今回の報酬:一人あたり金貨2枚
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
尊敬している先輩が王子のことを口説いていた話
天使の輪っか
BL
新米騎士として王宮に勤めるリクの教育係、レオ。
レオは若くして団長候補にもなっている有力団員である。
ある日、リクが王宮内を巡回していると、レオが第三王子であるハヤトを口説いているところに遭遇してしまった。
リクはこの事を墓まで持っていくことにしたのだが......?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる