風に凪ぐ花

みん

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風花

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「信じられる? 明日から夏休みなんだよ!」

 カルネの楽しげな声を聞いたのは、もう一週間も前のことだ。



 風花は、着慣れた漆黒の鎧を纏って、幼い頃から幾度となく召集された空間に佇んでいた。

「……もう、あなたの名を呼ぶことも出来ないのですね」

 静まった空間に響くのは、あの頃からただ一人自分のためにこの身を嘆いてくれた尊き人。

「……姉上」

 祭壇と、真っ白な少女。
 対極にある、真っ黒な自分。

 何年経っても、どう足掻いても変わることのない距離。
 近づくことの許されない存在。
 変わってしまったこの身でさえ、その距離は変わらない。

 薄布の遮られて、顔の半分も見えないけれど。

 それでも、紛れもなく先見の巫女は、自分の姉だった。

「まだ、姉と呼んでくれるのですか。尊き方」
「……まだ、ですよ。この場においてはあなたこそ尊い」

 まだ。

 しかし、これが《風花として》最後の邂逅であることを、二人は理解していた。

 すぅ、と光雨(ヒサメ)の頬に涙が伝う。
 それは憐憫か、慈愛か、歓喜か、はたまた後悔か。
 自らの頬に濡れた感触を覚えながらも、風花は布ごしにその顔を見つめ続けた。

「……見つけられましたか、あなたの幸せを」
「姉上」

 風花はゆっくりと目を閉じた。
 瞼の裏に描くのは。

「……幸せとは、こういうことだったのですね」

 風花はうっとりと顔を緩めて、光雨に最大限の感謝を伝えた。

「……っ」

 言葉を失った光雨が、その深く被った薄布を握る。
 ふわりと肌蹴られた向こうに、清廉な美貌が露わになった。

「……向かう先に、これからも数多の幸降り注がんことを」
 

 そして二人の姉弟は、最初で最後の抱擁を交わした。

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