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魔王の卵
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しおりを挟むライルがその騒動に気が付いたのは、大気中の魔力の揺らぎを感じたからだった。
押しつぶされそうな大きな圧を、廊下の向こうから感じて駆け寄った人混み。
その中心に倒れ込む、愛しい人。
何かを語りかけるユナを無視してその体を抱き寄せる。
驚くほど冷たい体に、思わず動揺する。
この漂う魔力は、おそらく風花のものだった。
体内に魔力を持つなど常識ではあり得ないことであるが、それが風花だというだけで納得してしまう。
腕を持ち上げることも辛いのか、苦悶に歪んだ顔に怒りが募る。
自分に縋り付く体を支えて、ライルは必死に怒りを鎮めていた。
自分の怒りなど二の次だ。
風花をなんとかしなければ。
状況からして、原因は目の前のユナ。
自分と風花の関係は知るところではないだろうが、風花と接触するとは誤算だった。
そして今、この関係が公知となってしまうことも不本意である。
穏やかな日常の終わりを感じて、ライルはため息を飲み込んだ。
友人と思われる女生徒から風花の腕輪を受け取り、そっとその細い腕に嵌める。
落ち着きを取り戻した風花が、自分の素養を体に受け入れたのを感じて漸く安堵した。
しかし、それも束の間。
ユナが召喚した精霊は、確かな波紋となって風花の精神を余計に乱した。
突如現れた精霊王の声に、悲鳴のような切望を告げる風花。
あまりの悲痛さに胸が締め付けられるようだった。
精霊王の言葉の真意を風花に問うには、風花の精神状態はあまりにも不安定だ。
ライルは風花を抱きしめたまま寮の門を潜り、風花の部屋のベッドにその体をそっと横たえた。
「ふう……」
「ごめ、もう少し……もう少しだけ……」
離そうとした体に必死に追い縋る風花を、頭を撫でることでそっと宥める。
風花の好きなようにしがみつかせて、ライルはベッドの端に腰を下ろすことにした。
風花は声を殺して涙を堪えている。
何もしてやることが出来ずに唇を噛んで、ライルは歯痒い気持ちで風花を見つめていた。
そよそよとその髪が揺れている。
風の精霊が風花の周りに戻ってきたようだ。
本当に風花は精霊に好かれている。
その理由を問うこともしていないが、今までのライルはそれでもいいと思っていた。
傍にいる、それだけで十分だと。
しかし今回のことで、その考えも改めるべきかと迷う。
風花と自分の接点がユナに、生徒に知れてしまった。
こんな風に傷付けられることも増えるかもしれない。
ライルは四男であるとはいえ貴族には違いなかった。
素性の知れない風花が近付くことを良しと思わない派閥も存在する。
風花が何を思い、何を抱え、何に苦しんでいるのか。
それを知らずしてただ慰めることが、どれほど風花の救いになるだろうか。
ライルはため息を押し殺して風花を再び強く抱きしめた。
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