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魔王の卵
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しおりを挟む「ハ、はぁ……っ」
やっと安定した呼吸の出来るようになった風花は、自らの腕の中のライルの素養を胸いっぱいに吸い込んだ。
震える腕には、力は全く込められていない。
体を起こしている気力もなく、風花はライルに体を預けて辛うじて瞼を開けていた。
「部屋に戻ろう」
「ん」
「待てよ!」
気遣うライルを止めたのはまたしてもユナだった。
肩をいからせたユナの周りがうっすらと歪む。
ぶつぶつと小さく呟いているのが精霊の召喚呪文だと知ったのは、小さな炎を纏った猿だった。
校舎内での精霊の召喚に、周囲が被害を悟って騒めいた。
誰よりも目を見開いたのは風花だ。
これはいけない。
反射的にこの後の顛末を予期した風花はユナではなく精霊に語りかけた。
「だめ……っ、君は、まだ……っ」
「ふう?」
「まだ、生まれたばっかりなのに……っ」
ユナの怒りに反応して火力を上げる小さな精霊。
風花は動かない腕を必死に伸ばして精霊を止めようとした。
ライルが周囲への影響を図りながらも風花を守る腕を強める。
「やめて……っ」
《ごしゅじんの! かなえる!》
風花の静止を受け止めず、遂に精霊は、小さくはない火の玉を風花に吐き出した。
「くっ」
ライルが風花を庇うように覆い被さる。
風花はその隙間から火の玉を目で追いながら、絶望的な気持ちで目の前の光景を見ていた。
《看過できぬ》
廊下一面に響いた声。
風花だけでなく周囲の生徒にまで届いたその声は、炎の獅子の形となって火の玉を消した。
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