風に凪ぐ花

みん

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魔王の卵

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「何これ……っ」

 一番に言葉を発したのはカルネだった。
 スィールを腕に抱いて、その重圧に耐えるように体を屈める。
 周囲で様子を窺っていた生徒たちも困惑に瞳を染め、中には蹲るものまで現れた。
 騒動の気配に、風花の心がすっと冷える。

 次の瞬間どくりと心臓の鼓動が耳を打って、風花は体が脱力するままに壁にもたれかかった。
 息を吸おうとしても上手くいかない。
 風早は胸の前のシャツを握りしめて、ひたすらに自分の魔力を抑え込もうとしていた。

 魔力が体の中から、大気中へ霧散していく。
 体を起こしていることすら出来ず、腕輪を取り戻すことも出来ない。
 風花は悔しさから瞳にうっすらと涙を溜めた。

 流石にユナもその異常に気が付いたのか、手の中の腕輪を見つめておろおろと視線を彷徨わせ始めた。

「な、なんだよ……っ魔道具取っただけで大袈裟にしすぎだろ!」

 ユナのその言葉に咄嗟に反応したのはスィールだった。

「風花の! それ! 返せよ!」

 小さい体で同じくらいの体格のユナに飛びかかる。
 ユナは抵抗してスィールと拮抗した。

「風花……」

 カルネが風花の体を後ろから支える。
 ぐったり仕切った体はさぞ重かったことだろう。
 風花は重い唇を震わせて、カルネに謝罪をしようとした。

 その時。

「何をしている」

 響いたのは、愛しい、あの声。

「ライル!」

 廊下の向こうから現れたライルに、ユナが媚びるように近づく。
 しかし、ライルのその視線は真っ直ぐに風花に向いていた。
 それを受ける、自分の心が踊るように跳ねている。

「ライル! こいつずるいんだ! 魔道具で」
「ふう。大丈夫か?」

 ライルはユナを無視して風花の頬にそっと手を当てた。
 ふう。
 その呼び名に、周囲の生徒が親密さを悟って息を呑む。

「る、ぅ」

 風花はやっとのことで腕を持ち上げてライルの首にしがみ付いた。

「辛いか? 俺にしがみ付いてろ」
「ん、うでわ、腕輪、ない、と……」

 呆然とするユナの手から、スィールが漸く腕輪を奪い取る。
 スィールはライルにそれを手渡して、カルネと共に後ろに下がった。

 ライルは風花の友人の気遣いにゆっくりと頷いて、そっとその腕輪を風花の腕に嵌めた。

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