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魔王の卵
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しおりを挟むあれから。
騒動に追われたライルが去って、風花はカルネとスィールと共に寮に戻った。
討伐実習事態が中止となり、その週の訓練は総じて自習となったようだ。
風花たちは訓練の疲れを癒すことも考えて、解放されている校舎に足を運んでいた。
「なんか風花の格の違いを見せられた感じだったよ~」
「遠くから見ててもすごかったわよ! どーんって!」
「え~あのくらいならどうってことないよぉ。二人でも倒せたんじゃない?」
廊下を歩く二人の後ろから風に漂ってふわふわと後を追う。
見慣れてきた生徒たちはその様子を微笑ましげに眺めつつ、一見あんな騒動などなかったかのように過ごしている。
それでもどこか魔力が騒がしいのは、みなの気持ちが昂っているせいか。
それとも、ライルに祝福の真似事をした自分の感情が恋だと気付いてしまったからなのか。
恋だと認めてしまえば、何かが変わるわけではない。
風花の先はすでに決まっていて、風花はそれをただ待つだけだ。
それなのに、何故か心が騒めく。
ライルと思いを通わせる未来を、望んでしまう。
次にライルと顔を合わせた時、この感情が溢れてしまいそうで。
風花は自分の思いを振り切るように頭を振った。
「あー!」
突然の大声がその場を駆けたのは、教室棟へ差し掛かる廊下に足を踏み入れた時だった。
何事かと声の方向を振り返る。
背後にいたのは、あの日写真でだけ見たユナ=マイセルだった。
廊下の先にいる彼は、その金の髪を振り乱して真っ直ぐに風花の方へと向かってくる。
最後尾にいた風花は、戸惑うままに彼と対峙することとなった。
意志の強そうな青の双眸が、風花を真っ直ぐに射る。
その瞳を首を傾げて見つめていると、突然風花はその腕を掴まれた。
「え?」
「お前! 何で飛んでるんだよ! ずるいぞ!」
放たれた言葉に思考が追いつかない。
この学園の校則では、授業以外での攻撃を意図した魔力の行使は禁じられている。
しかし、風花のこれは悪魔でも移動手段であり、利用しているのも精霊の力である。
教師も知るところであるそれにいちゃもんを付けられて、風花は困惑した。
「えっと、君も、やれば?」
当然風花が返せたのはそれだけである。
魔力を精霊に与え、精霊に願えば同じように移動手段を得ることは可能である。
風花の場合は意図して魔力を与えるまでもなく、精霊が勝手に風花の魔力を食みに来ているだけのこと。
しかし、当然ながら一般生徒にそれが出来るほどの素養はない。
「そんなこと出来るわけないだろ!」
風花の言葉にユナは顔を赤くして激昂した。
「あ!」
言葉を失う風花を無視して、ユナが続けて声を上げる。
ユナが掴んだ腕の先。
目敏く風花の手首の腕輪に目を付けたユナは、その腕輪について風花を詰問した。
「これ魔道具か?! ずるい! こんなんでズルしてるなんて!」
「へ? あ、これはちが……っ」
腕輪は風花の体内魔力を制御するためのものである。
風花にとっての生命線。
腕輪があるから、風花はまだ人でいられる。
魔道具の力で宙に浮いていると勘違いしたユナが激しく感情を昂らせ、ついにその腕輪に両手をかけた。
精霊がユナの気迫に驚き、風花の傍から離脱する。
風花は床に落ちて、強かに体を打ちつけた。
「いたたた……っ」
ユナは止まらない。
そして、抵抗虚しく、その腕輪は風花の腕から外れた。
次の瞬間。
空間を、重々しい魔力が支配した。
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