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規律
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しおりを挟む風花の言葉は、しんとした空間によく響いた。
パチパチと火の爆ぜる音がその沈黙を彩る。
「歪みに出会った時の対処法、いかに生き残るか、それを教えるんじゃないの?」
はっと息を飲んだのは、誰だったか。
風花はその場を見渡してジュウゴに声をかけた。
「木咲さんにさっき指示出されて、動けた?」
「いや、……状況を把握するので精一杯だった」
「僕もです……」
悔しげに眉を顰めるジュウゴに反して、ハチはしょんぼりと顔を俯かせた。
その髪に寝癖を見つけて、昼の疲れを取るために深く眠っていたのだと悟る。
風花はハチの髪を整えてから、木咲に向き直った。
「騎士団における団体行動は美徳だよ。それを幼いうちから教え込んで、騎士団でもすぐにやっていけるようにするのは、悪いことじゃない。……でも」
風花は言葉を区切った。
そして、ゆっくり誰もが理解できるように言葉を選ぶ。
「隊列を組んでる間に、死んだらどうするの?」
その言葉の意味に気が付いたのは、木咲だけではなかった。
サンも、ジュウゴも、ハチも。
目を彷徨わせて、先程の状況を理解しようとしている。
「騎士団の王室向けの流儀なんて、入団してから覚えればいい」
「貴様! 騎士道を侮辱する気か!」
「ちがうよ」
激昂する木咲を宥めたのは、冷静な風花の声だった。
「規律を守ることで守れる命もあるけど、自分の命を守ることを教えろってこと」
木咲が何かに気付いたように目を見開く。
風花が指摘したのは、木咲の父のことだった。
木咲と出会って、風花は木咲の本質が優しい人間だということは理解していた。
国に逆らって暗殺された父の二の舞を踏ませたくない。
故に規律を重視する木咲を悪く言うことは風花には許されないことだ。
けれど、言わなければならないこともある。
「あんたの家の事情で、人を殺すな」
他人の都合で人を殺める気持ちなど、風花だけが知っていればいい。
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