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規律
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野営の二日目の朝となる日。
風花は妙な気配を感じて目を覚ました。
人としての終わりが近い風花の睡眠は非常に短い。
休息のために最低限を満たした後はただ無になっているだけだ。
まだ日も出ていない明け方の空気。
揺らいだ気配に風花は自分のテントを出た。
火の番をしていたサンが何事かと風花に視線を向ける。
途端。
雄叫びが辺りに轟いて空気が震撼した。
「ひっ」
短く悲鳴を上げたのはサンだった。
体高の大きな猪に似た歪みが、野営地に向かって突進してくる。
風花は風で障壁を築いてその突進を受けた。
「みんなを起こして!」
「はいぃぃぃ!」
縺れた足を動かしてサンが風花の指示に従って行動を開始した。
さすがと言うべきかサンの到着を待たずに木咲がテントから踊りでてくる。
「起きろ! 歪みだ!」
木咲の号令でジュウゴとハチもテントから顔を出す。
その体はまだ寝起きから覚醒し切ってはいない。
木咲は武器を持ってフォーメーションを組むように彼らに指示を出した。
その指示に、風花の脳内がすっと冷える。
風花は芽生えた感情を誤魔化すように歪みを弾き飛ばした。
怒り狂った歪みが咆哮を上げるために開いた口に、手の中に作った風を投げ込む。
それは、木咲の父にしたのと同じように歪みの体内を切り裂き、わずかな抵抗の後、歪みは沈黙した。
体が霧となってぼろぼろと崩れるのを耳届けてから、風花は呆然とする彼らを振り返った。
その顔に、表情はない。
「ヨン、お前……」
「あのさ」
風花は一足で木咲の前に躍り出て、その横面を殴り付けた。
木咲が地面に跡を付けながら弾け飛ぶ。
目を丸くするチームのメンバーを尻目に、風花は風を足先から纏って木咲の元に足を進めた。
「あんた、このチームから人死にを出したいの?」
「な……っ」
殴られた頬をそのままに風花を見上げた木咲が、心外だとばかりに風花を睨み上げる。
一発殴って心が落ち着いた風花はため息を吐いて、木咲に目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「隊列を乱すな、フォーメーションを組め、言いたいことはわかるよ。騎士団には必要なことだね」
木咲は肯定されると思っていなかったのか、まんじりとせず風花の言葉の続きを待っている。
風花は木咲の前に腰を下ろすと、様子を伺っているメンバーを指先でその場に招いた。
彼らが戸惑って顔を見合わせているのを気配で感じた風花は、サンを名指しして火を持って来させた。
それに続いて全員が車座に座る。
その間に座り直した木咲を見て、風花は言葉を紡いだ。
「でもさ、実習って、規律を守るようにする訓練じゃないよね?」
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