風に凪ぐ花

みん

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潜入と出会い

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 ボードにはメニューの一覧が掲載されている。
 触れて選ぶようだ。

「私は日替わりランチにしよう」
「また日替わり? たまには自分で選びなよ。俺はシェフの気まぐれランチにするけど」
「あんたも選んでないじゃん!」

 二人が軽口を交わす間、風花は再び困惑していた。
 メニュー名から食事が想像出来ない。

「この日替わり……? っていうのは何?」
「ああ。それは、毎日メインが日替わりで変わるセットよ。メニューを選ぶのが面倒くさい人向けの料理ね」
「へー。じゃあ、俺もそれにしよー」

 その選択を後悔するのは数分後。

「日替わりです」
「?!」

 魔術により机に料理が現れた。
 カルネとスィールはさっそくカトラリーから思い思いのものを引っ張りだしている。
 風花はあまりの驚きに動けずにいたが、二人は気にせず料理に手を付けた。
 日替わりの膳の上には、出来立ての料理が並んでいる。

(日替わりってこんなに量多いのー……)

 風花の前は目の前の料理を観察した。
 野菜の敷き詰められた中央のプレートに、焼かれた何かが盛り付けられている。
 手前の椀に盛られているのは、炊かれた米と、スープだ。
 奥には、つるりとした表面を晒す、半透明の何かが置いてあった。

(これは食べきれないなぁ……)

 風花は申し訳ない気持ちになりながら、スープに手を伸ばした。

 ゆっくりとスープを完食し、持っていたスプーンを置く。
 二人はまだ食事の最中だった。
 水を飲んでいると、スィールが驚いた様子で風花に声をかける。

「もしかしてもう食べないの……?」
「ええっ?!」

 風花が頷いてみせると、カルネは驚いて持っていたフォークを落としかけた。

「少食すぎ……。せめてデザートは食べてみて! 美味しいから!」
「デザート?」

 カルネは膳の奥から半透明のものを風花の正面に置いた。

「これ! 今日は果物の汁を冷やして固めたゼリーよ! 毎日変わるの」
「ふぅん」

 風花は興味深気に頷いて、再びスプーンを構えた。
 デザートというのは初めてだ。
 掬うと弾力がある。
 恐る恐る口に運ぶと、言い表しがたい食感を残してパッと溶けた。

「?!」

 甘いが、酸味もある。
 数種類の果物が混ざっているのか、元からこういった味なのか、様々な味が表れては溶けていった。

「おいしー……」
「でしょ?」

 無意識に顔が綻んでいる。
 風花が食堂を気に入った瞬間だった。

 それから風花は、毎日スープとデザートを食すようになった。
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