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プロローグ
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しおりを挟むホームルームが終わると、風花は真っ直ぐに寮へと向かった。
入学初日は、ホームルームのあと自由時間が割り当てられている。
隊の面々の交流を目的に定められた時間であったが、風花は背を向けて誰よりも早く教室を後にした。
別れの辛くなる人間関係など、作らない方が良い。
風花は自分に言い聞かせて風に身を任せた。
心地よい風がまとわりつく。
寮へは教室棟から歩いて十分程度で到着した。
入寮の手続きを簡単に済ませ、風花は自室へと向かった。
一階はエントランスのみで生徒の部屋があるのは二階からだ。
四隊四十六室は、五階の角部屋であった。
ドアノブに手をかけて扉を手前に引く。すんなりと扉は開いた。
物理的な鍵はかけられていない。素肌から体内の魔力の質を検知して解錠する仕様だからだ。
部屋の中に入り、風花は扉を背にため息を一つ吐き出した。
空気が変わる。
風の音が耳に響いて、風花の頬に温もりが触れた。
『人間の同胞(はらから)よ……。我が風の乗り心地は如何であったか?』
半透明の人型の影は、風花の首に腕を絡めるようにまとわりつき、背後に回った。
影は男性のように見えるが、ひどく中性的だ。足元を過ぎるほど長いウェーブかかった髪が流れるようにうねる。
男の体には、腰から布のような質感の皮膚じみたものがさらりと生え、爪先までをも覆っていた。
姿形は人であるのに人でないもの……精霊はくすくすと笑う。
風花の怜悧さが相まって、絵画の一面のようであった。
風花は狼狽えることなく、背中に精霊をくっつけたまま、靴を脱ぎ、真っ直ぐと部屋に足を踏み入れた。
途端。
ふわりと風花は人好きのする笑みを浮かべた。
「ふふ、ありがとー。ついでにソファまで運んでくれる?お話しよー?」
瞬間、風花の体は風に包まれて備え付けのソファに収まった。
精霊は未だ風花の首の後ろだ。
「君だよね。この学園に来てから俺を運んでくれてたの」
『風の便りで聞き及んでいた故。この辺りの精霊は皆、同胞のために力添えをしよう』
「そっか。ちなみに、俺のことが契約精霊を通して人間に伝わるなんてことはないよね?」
『心配には及ばぬ。同胞のことは、精霊の間では暗黙の了解となっている。精霊の質(たち)として、人間に伝わるようなことはせぬ』
精霊の間のつながりは深い。
精霊は気に入った人間と契約することもあるが、完全に使役されるわけではなかった。
契約精霊は、契約主の頼みは聞き入れるが、主従ではない。あくまでも契約なのだ。
「うん。信用する。……まあ、人間が知ったところで、何かが変わることもないんだけどねぇ」
背後の精霊は、ぎゅっと力を強めた。
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