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躾られた悪意
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しおりを挟む頭の中を空っぽにして、目の前のロジックだけを脳内に焼き付ける。
前後左右への動き、行動パターン。
攻撃のタイミングに、防御の硬度、角度、展開範囲。
その所作の一つひとつに原理があるのは、イスミが対峙しているのが《躾られた悪意》だからだ。
《神々の本》から現れた《悪意》は、その本の中での原理をそのまま引き継ぐ。
イスミの脳内に記憶された全ての神々の物語と照らし合わせてその真実を暴く単純な作業。
イスミが《ストーリーテラー》で身に付けた、存在意義だった。
「イスミのつむじ可愛いな」
「つむじに可愛いとかあるんですか?」
「知らねーけど」
待機を支持したヤタマルを背中にくっつけたまま、イスミは目の前の《悪意》を観察していた。
イスミが司令塔を任される時に取る手法だ。
チームメンバーに好きに動いてもらい、対処法を模索する。
靄のような不定形を取る《悪意》は、その体から手のようなものを生やして踊っていた。
目に映る光景に脳内でマス目を思い描き、空間をメッシュに区切る。
《悪意》を前にイスミの脳内空間において認識される全ては、XYZの座標にプロットされていた。
《悪意》も、《継承者》も、建物も道も。
その全てをイスミの中にだけ存在する座標の中に落とし込んで、イスミはその行動パターンを読み出した。
《悪意》の動きは、左右にワンステップずつ、前後はその倍を二度。
その後の行動は二パターン。
近くに落ちているものを手当たり次第に持つものと、持たないものがいる。
それもおよそ五秒後には手放し、持つものと持たざるものは交互に現れた。
「まだ足りない……」
そこまでをヤタマルとの会話の最中に割り出したイスミは、後一歩で物語を絞り込めないでいた。
しかし、背中のヤタマルが、イスミに最後のキーワードを提供する。
「やっぱり面白いわ、お前」
「……!」
イスミは脳内で構築し終えた物語を手のひらでそっと閉じた。
「攻撃をしていいのは、手に何かを持って嬉しそうなやつだけです!」
持つものは更に二パターンに分かれる。
笑うものと、笑われるもの。
そしてそれは、ヤタマルには絶対に倒せない《悪意》。
ヤタマルの理解の範囲外だろう戦闘を見下ろして、イスミは座標に基づいて指示を飛ばした。
そして。
サジルのチームの討伐も終わりを迎えた頃。
「……まじかよ、惚れた」
ヤタマルの呟きは、通信回線に入った情報にかき消されてイスミには届かなかった。
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