神々のストーリーテラー

みん

文字の大きさ
上 下
31 / 40
躾られた悪意

2

しおりを挟む


 相対した《悪意》は、小物の集団だった。
 仮面を被ったような顔面に、羊のような毛に丸く覆われた二足歩行の異形。
 建物の影から群れで湧き出した《悪意》は、こちらを嘲笑うかのようにぐるぐるとステップを踏んだ。

「腹の立つ羊だな……おい! 指示!」
「よ、よろしくお願いします……!」

 答えにならない言葉を返されて、キジトは舌打ちを打ちつつもナイフを逆手に構えた。
 チームの前衛はキジト一人。
 後は後衛の配置だ。
 キジトが先陣を切り、隙を見て射撃をするような作戦だろうが、あまりにも稚拙だった。

 キジトは《悪意》の側面に駆け寄って跳躍し、ナイフをその中の一体に向けて発射した。
 風で加速させたナイフがその中心に吸い込まれる。
 小手調で投擲したその切先は、《悪意》の毛皮に跳ね返されてからんと地面に転がった。

「なっ……」

 遅れて《悪意》の視線がキジトを捉える。
 キジトは一足で距離を取ると、腕を体の前で交差させて、曲げた十の指に力を入れた。
 その両手のひらに一粒の火。
 吸い込んだ呼吸で、鋭い風を巻き起こす。
 風を取り込んで膨れ上がった熱が、キジトの姿を歪ませていた。
 そしてその手のひらを《悪意》に向けて。
 キジトは大きく渦巻く炎をぶつけた。

「燃えろ!」

 真っ直ぐに群れに突き進んだ炎が、その分厚い毛皮に着火する。
 《悪意》は行動を起こすこともなく、群ごと炎に包まれた。
 散り散りと燃えた《悪意》が、どろりとその姿を溶かす。

 終焉は一瞬だ。
 キジトの能力をもってすればこの程度の《悪意》ごときで手間は取らない。

 ぱちぱちと爆ぜる音に混じって一般隊員の拍手が聞こえてくる。
 キジトは不機嫌に眉を寄せた。
 《悪意》から遠く離れた位置でチームメンバーが一列に並んでいる。
 対価で感情を読み取って、キジトは怒りに任せて一般隊員に向き直った。

「お前ら……っ」

 文句を言おうとした口を閉じて、背後を振り返る。
 燃やした《悪意》の残骸。
 睨め付けたその場所には、再び《悪意》が存在していた。

「は?」

 長い杖を持った、人のような形をした《悪意》。
 先程と形状の異なる《悪意》である。
 《悪意》の後に別の《悪意》が出現するなど聞いたこともない。
 しかしその気配自体は先程と何ら変わらない。
 キジトは混乱して一気に一般隊員の位置まで距離を取った。

「変質、した……?」

 不測の事態に思考が追いつかない。
 《悪意》はそのまま杖を掲げて、大きな鏡のような幕を生み出した。
 反射的に指先から雷を放つ。
 その光は幕に吸い込まれて、そして真っ直ぐにキジトへと反射した。

「やべ……っ」
「うわぁ……っ!」

 一般隊員を引きずるように遠ざける。
 キジトは氷の壁を出して自らの雷を防いだ。

「魔法使いかよ……っ」

 最悪の相性にキジトは舌打ちして、懐から取り出した銃を放った。
 弾道は真っ直ぐに《悪意》に吸い込まれていく。
 次の瞬間弾丸は大きく爆ぜて、《悪意》は静かに沈黙した。
 煙のように大気に《悪意》が溶ける。

 そして、その後、再び《悪意》が出ることはなかった。

「なんだったんだ、あれ……」

 管理官への報告の形式を頭に思い描いて、キジトはもやもやした気持ちを抱いたまま見回りを終えた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

ボクに構わないで

睡蓮
BL
病み気味の美少年、水無月真白は伯父が運営している全寮制の男子校に転入した。 あまり目立ちたくないという気持ちとは裏腹に、どんどん問題に巻き込まれてしまう。 でも、楽しかった。今までにないほどに… あいつが来るまでは… -------------------------------------------------------------------------------------- 1個目と同じく非王道学園ものです。 初心者なので結構おかしくなってしまうと思いますが…暖かく見守ってくれると嬉しいです。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

聖獣騎士隊長様からの溺愛〜異世界転移記〜

白黒ニャン子(旧:白黒ニャンコ)
BL
『ここ、どこ??』 蔵の整理中、見つけた乳白色のガラス玉。 手にした瞬間、頭に浮かんだ言葉を言った。ただ、それだけで…… いきなり外。見知らぬ深い森。 出くわした男たちに連れ去られかけた眞尋を助けたのは、青銀の髪に紺碧の瞳の物凄い美形の近衛騎士隊長、カイザー。 魔導と聖獣を持つ者が至上とされる大陸、ミネルヴァ。 他人の使役聖獣すら従えることができる存在、聖獣妃。 『俺、のこと?』 『そうだ。アルシディアの末裔よ』 『意味、分かんないって!!』 何もかも規格外な美形の騎士隊長の溺愛と、かっこよくて可愛いモフモフ聖獣たちに囲まれての異世界転移生活スタート!! *性描写ありには☆がつきます *「彩色師は異世界で」と世界観リンクしてますが、話は全く別物です

夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子

葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。 幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。 一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。 やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。 ※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。

処理中です...