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隻翼の月
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しおりを挟むミナリアにとって、この木漏れ日が凪ぐ空間は束の間の安寧である。
そよぐ風と、揺れる緑。
ユイセルが育てた花々と、水の踊る噴水。
その穏やかな時間を、ミナリアは他でもないユイセルと共にしていた。
何故か膝枕で。
「辛くない?」
「……辛くはないが……なぜ……」
「横になってた方が楽でしょ?」
「いや、だからと言って……」
羞恥を置き去りに困惑したミナリアの頭部はユイセルの太腿の上である。
太腿に触れた耳が熱を持ってどくどくと鼓動を刻んでいる。
さらりと髪をすくユイセルの手が花を愛でるように優しくて、ミナリアは余計に居た堪れなくなった。
「俺が、リアに優しくしたいの。……だめ?」
そんな風に言われてしまえば、なす術もない。
胸の奥がきゅっとするのに合わせて、ミナリアはユイセルのズボンの布を握った。
「……優しくしろ」
「うん、優しくする」
諦めて太腿に顔を埋めたミナリアを見て、ユイセルはまた面映げに笑みを浮かべた。
「ところでリアは武術大会でるの?」
「武術大会?」
ユイセルから語られた唐突な話題転換に、ミナリアは眉を寄せて仰向けに転がった。
下からユイセルを見上げて、聞き慣れぬ言葉に説明を求める。
「毎年ある戦闘技能科の武術大会なんだけど……」
ユイセルの言葉に脳内から情報を呼び起こす。
「そう言えば……何か説明を受けたような……」
魔物討伐実習の初回で教師が説明していたような記憶がある。
実習のチームで申し込みをして、トーナメント形式で戦う大会だったはずだ。
優勝すると優先的に騎士団等への推薦が受けられるとか……。
「たしか、魔物討伐実習の直前期一位のチームは自動的にシードで参加だったと思うよ」
「は?」
興味を失って聞き逃した部分にとんでもない事実があったようだ。
ミナリアはやや体を浮かせてユイセルに近寄った。
「たしかリアのチームって一位独走だよね?」
「それはそうだが……」
何故知っている。
ミナリアはユイセルに頭を軽く押されて太腿に体重を戻した。
同時に楽しそうなユイセルの笑い声が降ってくる。
「だってリアのことだから、全部知ってたいよ」
「~~~~~!!!」
ミナリアはついに羞恥から両手で顔を覆って声にならない叫びを飲み込んだ。
甘い。
甘すぎる。
それを受けることに歓喜してしまっている自分も含めて甘い。
しかしユイセルはそれさえも理解して更なる愛を注いでくるのだ。
「かっこいいリアを独り占めするのは諦めるね」
額に、しっとりとした、熱。
その唇から紡がれる言葉は、確かにミナリアだけのもので。
「可愛いリアは、俺のものだから」
ミナリアもまた、指の隙間から見えたユイセルの赤い顔を独り占めして、静かに悦に浸った。
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