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8.抜け道

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 酸欠の体に鞭打って、二人は走り続けた。

 追っ手は増える一方だった。

 それでも、フーガ達は諦めなかった。


「……サーシャ……大丈夫か?」
「ええ……平気よ……」


 どうにか追っ手を撒いて、抜け道へとたどり着いたフーガとサーシャは息を整えていた。

 二人のいる場所は見取り図には載っていたものの、傍から見たら分からない隠し部屋だ。外へ繋がる通路もある。

 王族の住む城には、万が一のために一部の人間しか知らない隠し部屋がある。

 クーデターや反乱などが起き、身分の高い王族の身が危険に晒された場合を考えてのことだ。

 フーガはそこに目をつけた。使用人でも下っ端の人間ならば知らないはずだろうと考えたのだ。

 身内に紛れ込んだ裏切り者を想定した場合、本当に信用のおける者にしか教えないはずだと。


「もう行けるか?」
「うん、大丈夫」


 念の為、周囲の様子を伺っていたフーガがサーシャに尋ねた。

 今のところ追っ手が来る様子はないが、一刻も早くフーガはここを出たかった。

 いつまでもここが気がつかれないとは限らなかったからだ。


「……行くぞ」
「うん」


 フーガは外への通路を隠している床の板を退かした。薄暗く狭い、けれど二人にとっては希望に満ち溢れた道が姿を現す。


「僕が先に行く。すぐに後を着いてきてくれ」
「分かった!」


 フーガは素早く身を潜らせた。

 人の気配へ気を配る。あまり人のいる様子はない。

 サーシャを振り返る。


「大丈夫そうだ。早くこっちに」


 サーシャへ手を伸ばす。

 手と手が触れ、再び二人の手が繋がれた。

 そのままフーガはサーシャを引き寄せる。自分のすぐそばにサーシャがいることを再度確認し、追っ手に気がつかれないように床を元に戻した。


「よし……ここを出れば街に出る。そうしたらそのまま街を抜けて、遠くへ逃げよう。誰も僕らを知らない土地へ行こう」


 サーシャの手を強く握りながら、フーガはそう伝えた。


「……うん。フーガと一緒に行きたい。遠くへ、私たちを誰も知らない土地へ。逃げて……貴方と生きたい」


 フーガの黄色い瞳とサーシャの青い瞳が見つめ合う。

 数秒見つめ合った後、二人は外へ出るために道を進み始めた。

 誰にも気がつかれないことを祈りながら、誰とも出会わないことを願いながら。

 できるだけ早く、慎重に。
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