上 下
1 / 3

叶わない恋と知る日

しおりを挟む
「ねぇ、相談があるの」


 彼女は僕に言う。相談……それはきっといつものことだろう。彼女の好きな人に関してのこと。僕は彼女と『彼』の共通の友人のため相談に乗っている。


「いいよ、どうしたの?」


 僕は答える。いつものように。
彼女はありがとう、と答えてから話し出した。簡潔に言うと話の内容は、『彼』に告白しようと思っているということだった。
 それは僕にとっては聞きたくない話だったのだけど……彼女に分からないよう僕は繕う。笑顔で答えるんだ。彼女の恋を応援したいから。

――僕の好きな人の恋が実るように。

 僕が彼女のことを意識するようになったのは高校に入学してからすぐの、初めて声をかけてくれた時だ。僕はその時、先生に頼まれていたものを運ぶために1人で整理していた。もちろんめんどくさいことを自ら手伝ってくれる人なんているとも思っていなかったし、1人でも出来ることだったから問題はなかった。
 だけど周りが見て見ぬふりをする中、彼女は平然と声をかけてきたんだ。


「私も手伝うよ、1人じゃ大変でしょ?」

「……えっ、いいよ申し訳ないし」

「いいのいいの」


 茶色い髪の大きく澄んだ瞳を持つ子だと思った。それと同時に明るくて優しい人だとも。。まだその時はこんなにも好きになるだなんて考えても見なかった。
 だって僕は生まれてから1度も人を好きになったことがなかったから。だから……僕にとっては彼女が初恋の人で。なのに彼女には好きな人がいた。それを打ち明けてくれたのは僕と彼女の仲が進展したことを表すと同時に僕の恋が叶わない可能性が高いことを示唆するものだった。


「ねぇ、なんだかぼーっとしてるけど大丈夫?」


 彼女が僕の顔を覗き込む。どうやら話を聞いているはずが感傷に浸ってしまったようだ。せっかく彼女といられる時間なのにもったいないことをしてしまった。……いや、これ以上彼女が楽しそうに話す『彼』のことを聞きたくなかっただけかもしれない。現実逃避、というやつだろうか。

 それはともかく彼女に返答しなければ。このまま何も答えないと心配されてしまう。


「あぁ……大丈夫だよ、心配しないで」

「そっか。それなら良かった」


 そう言って彼女は笑った。やっぱり笑ってる顔が1番可愛い。そう思いつつも、少しだけ胸がチクッと痛んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

さよならと、その先で【切ない恋の短編集】

天野蒼空
恋愛
ちょっと切ない短編集。色んな『切ない』『叶わない』恋のお話を詰め合わせました。お好きなところからどうぞ。 「雨上がりの忘却曲線」……会えない人を待ち続けていた女の子のお話。奇跡はどこかで起きるかも。 「白」……ずっとお付き合いしている彼氏は、難病持ち。今日も病室で眠っている彼のお見舞いにいく。切なくも愛を感じる短編。 「詰められない距離」……叶わない幼なじみモノ。どうしてその距離を詰められないのかは本編へ。 「最後の一時間」……最愛の彼氏、俊が乗る電車まで、あと一時間。あなたと一緒で本当に幸せだった。愛を噛み締める、切ない物語。 「もう花束も届けられないけれど」……高校時代に好きだった君。そんな君にひまわりの花束を届けにいく。届けに行く先は……。

【完結】それぞれの贖罪

夢見 歩
恋愛
タグにネタバレがありますが、 作品への先入観を無くすために あらすじは書きません。 頭を空っぽにしてから 読んで頂けると嬉しいです。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

恋愛相談していた友達に美男子の彼を取られた〜プロポーズされたけど学園を卒業して姿を消しました

window
恋愛
私はサーラ。学園に通っています。友達はいますが今まで男性と交際したことはありません。 その私に初めての彼氏ができました。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

婚約者の浮気を目撃した後、私は死にました。けれど戻ってこれたので、人生やり直します

Kouei
恋愛
夜の寝所で裸で抱き合う男女。 女性は従姉、男性は私の婚約者だった。 私は泣きながらその場を走り去った。 涙で歪んだ視界は、足元の階段に気づけなかった。 階段から転がり落ち、頭を強打した私は死んだ……はずだった。 けれど目が覚めた私は、過去に戻っていた! ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。 しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。 それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…  【 ⚠ 】 ・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。 ・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。

最後の日

天野蒼空
恋愛
最後の朝が来た。私の声は京介に届かない。 それでも何かの拍子に京介が私のことを見つけてくれるんじゃないかと期待して、私は今日までの四日間、京介に声をかけ続けていたのだった。

処理中です...