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別れ
十六話
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頬を伝う生温いものを拭うこともせず、ただひたすらに走って真っ先に向かったのはあの公園だった。しかし、どれだけ目を凝らしても、静まり返った公園には零の姿はない。
「ここには、いないか……」
零は『思い出の場所に行く』と言っていたし、ここにいる可能性は低いだろう。そう分かっていても、どこか期待してしまう気持ちが拭えなくて私はここに来てしまった。今思えばここは、零に初めて出会った場所だったからだ。
それに公園で零と話すことが最近は日課のようになっていたため、ここ以外向かう場所が思いつかなかったのもある。
「でも、ここにいないなら、早く別のところに行かないと……っ!」
既に太陽は西に傾き、橙色の明かりが町を照らしている。徐々に沈んでいくその光を見ると焦燥感が増す。もし、零を見つけられなかったら……? そんなのは絶対嫌だ。
もう二度と会えなくなってしまう前に、一秒でも早く会いにいこう。
だが、零が言っていた『思い出の場所』に心当たりがない。いや、あり過ぎてどこに行けば良いのかが分からないのだ。
先程見た写真を思い出していく。公園で遊ぶ私達、家の庭先ではしゃぐ私達、神社でのお祭り……どこも大事な思い出の場所だ。
頭に浮かんでは消える光景。あれでもない、これでもない……必死に記憶を手繰り寄せるがどれもピンと来ない。行き詰まって、髪をぐしゃぐしゃと掻き乱す。落ち着こう。落ち着いて考えないと。冷静さを取り戻すため空を仰げば、ふわりと空を漂う蛍のような淡い光に気がついた。その光の先を目で追うと出処はこの町の名所とも言える丘の上のようだった。
「……まさか……っ……」
春になると満開の桜が埋め尽くすその様は幻想的で、私も零も好きな場所の一つだった。そしてあの丘は一緒に写真を撮った最後の場所でもある。もしかしたら……あの場所に……?
「…………いそ、がなきゃ……っ!」
彼処に居る、という確信を持って、私は感情に突き動かされるままにその丘へと向かった。景色が流れるように過ぎていく。丘に近づいて行くにつれ、視界がぼやけて朧気に見える。幾ら吸っても息苦しい胸は早鐘を打っていて、落ち着く気配はない。
「……はぁっ……はぁっ……」
一心不乱に走り続け、汗なのか涙なのかも分からない液体がぽたぽたと伝い、地面にシミを作っていく。必死の思いで辿り着いた丘の頂上で私は膝に手を付き息を整える。
手の甲で濡れた目元を拭って、クリアになった視線の先に、私が一番会いたいと願っていた人がいた。
「……っ……零……!」
痛む心臓を抑えながら、私はその名を叫んだ。零は緩慢な動作でこちらを向いた。
「……桜空。……来て、くれたんだ」
儚げで、触れたら壊れてしまいそうな零が、いつものように柔らかな笑みを称えて出迎えてくれた。その体からは淡い光が漏れ出していた。
「ここには、いないか……」
零は『思い出の場所に行く』と言っていたし、ここにいる可能性は低いだろう。そう分かっていても、どこか期待してしまう気持ちが拭えなくて私はここに来てしまった。今思えばここは、零に初めて出会った場所だったからだ。
それに公園で零と話すことが最近は日課のようになっていたため、ここ以外向かう場所が思いつかなかったのもある。
「でも、ここにいないなら、早く別のところに行かないと……っ!」
既に太陽は西に傾き、橙色の明かりが町を照らしている。徐々に沈んでいくその光を見ると焦燥感が増す。もし、零を見つけられなかったら……? そんなのは絶対嫌だ。
もう二度と会えなくなってしまう前に、一秒でも早く会いにいこう。
だが、零が言っていた『思い出の場所』に心当たりがない。いや、あり過ぎてどこに行けば良いのかが分からないのだ。
先程見た写真を思い出していく。公園で遊ぶ私達、家の庭先ではしゃぐ私達、神社でのお祭り……どこも大事な思い出の場所だ。
頭に浮かんでは消える光景。あれでもない、これでもない……必死に記憶を手繰り寄せるがどれもピンと来ない。行き詰まって、髪をぐしゃぐしゃと掻き乱す。落ち着こう。落ち着いて考えないと。冷静さを取り戻すため空を仰げば、ふわりと空を漂う蛍のような淡い光に気がついた。その光の先を目で追うと出処はこの町の名所とも言える丘の上のようだった。
「……まさか……っ……」
春になると満開の桜が埋め尽くすその様は幻想的で、私も零も好きな場所の一つだった。そしてあの丘は一緒に写真を撮った最後の場所でもある。もしかしたら……あの場所に……?
「…………いそ、がなきゃ……っ!」
彼処に居る、という確信を持って、私は感情に突き動かされるままにその丘へと向かった。景色が流れるように過ぎていく。丘に近づいて行くにつれ、視界がぼやけて朧気に見える。幾ら吸っても息苦しい胸は早鐘を打っていて、落ち着く気配はない。
「……はぁっ……はぁっ……」
一心不乱に走り続け、汗なのか涙なのかも分からない液体がぽたぽたと伝い、地面にシミを作っていく。必死の思いで辿り着いた丘の頂上で私は膝に手を付き息を整える。
手の甲で濡れた目元を拭って、クリアになった視線の先に、私が一番会いたいと願っていた人がいた。
「……っ……零……!」
痛む心臓を抑えながら、私はその名を叫んだ。零は緩慢な動作でこちらを向いた。
「……桜空。……来て、くれたんだ」
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