上 下
71 / 84
番外編

猫になりたい

しおりを挟む
「はぁ……私も猫になりたいですわ」


 猫ライルの写真や絵を眺めながら、ため息とともにボヤく。

 猫を愛でるのはもちろん好きだが、そんな猫本体になってみたいという願望はずっとある。

 なんなら、猫ライルを見て少し羨ましいとも思ってしまったくらいだ。実際、人に戻れなくなるのは困るかもしれない。だが、一日……いや一週間は猫になりたい。


「へクセに頼んだら、やってくれるかしら……」


 お願いして、対価を払えば叶えてくれるだろう。へクセは優しいし、約束は守る。

 それに、魔女だから理論的には可能だ。ライルを猫にした張本人で、魔女の力は何回も見た。


「けれど、頼りすぎな気がするのよね」


 幼なじみとはいえ礼儀や節度は持つべきだろう。ライルを人間に戻してもらったあとも、へクセには色々とやってもらっている。魔女としても友人としても。

 この前なんて、喧嘩の相談にも乗ってもらっちゃったし……おかげで仲直りはできたけれど。

 いつでも来てとは言ってくれている。しかし……。


「一応、へクセも店を経営している立場ですからねぇ」


 あまり人は入っていなさそうなアンティークショップだけれども。私が行く時や見かけた時にたまたま人がいないだけという可能性もある。

 接客しているのを何度か遠目に見たことはある。へクセのことだから、接客時は真面目な態度なんだろう。顔がいいし、意外と女性にも人気がありそう。

 そもそも、客がいなくともへクセは仕事中だ。何度も邪魔しておいて今更だが、仕事の邪魔をするのはよろしくない。

 へクセは温厚だからあまり怒らないし、言ってこない。でも迷惑がっているかもしれない。


「そういえば……へクセが接客しているの、間近で見た事ないわね」


 私やライル以外への態度がどんな感じか気になるな。なんとなく予想はつくけれど、働いている姿に興味がある。あと、どのくらい客が入るのかも。一日観察してみようか。

 変装して客のフリしてみるか。バレたら、猫になりたいとお願いしに来たと言おう。……結局、邪魔しに行っているけれど。

 しかし、好奇心が迷惑かもしれないという心配を上回ってしまった。


「なにか手土産でも持っていきますか」


 へクセが好きそうなお菓子や紅茶などを持って、屋敷を出た。

 少しでも感謝や詫びの気持ちを表明するためだ。やはり、こういうものは大事だろう。ないよりはあった方がいい。

 街を歩いてへクセの店を目指す。

 暖かくて生ぬるい風が頬を撫でる。今日は少し、暑い。
 
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

そんなに優しいメイドが恋しいなら、どうぞ彼女の元に行ってください。私は、弟達と幸せに暮らしますので。

木山楽斗
恋愛
アルムナ・メルスードは、レバデイン王国に暮らす公爵令嬢である。 彼女は、王国の第三王子であるスルーガと婚約していた。しかし、彼は自身に仕えているメイドに思いを寄せていた。 スルーガは、ことあるごとにメイドと比較して、アルムナを罵倒してくる。そんな日々に耐えられなくなったアルムナは、彼と婚約破棄することにした。 婚約破棄したアルムナは、義弟達の誰かと婚約することになった。新しい婚約者が見つからなかったため、身内と結ばれることになったのである。 父親の計らいで、選択権はアルムナに与えられた。こうして、アルムナは弟の内誰と婚約するか、悩むことになるのだった。 ※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

処理中です...