上 下
25 / 84

25.猫になった婚約者とドライヤー

しおりを挟む
 大人しくタオルに包まれていたライルを床に下ろしてドライヤーの準備をする。

 タオルに包まれている猫など一度も見たことがなかったが、あれはあれで可愛い。なんというか、赤ん坊みたいだ。


「乾かしていきますね」
「ああ……もう結構乾いている気もするが」


 ドライヤーのスイッチを入れ、二十センチほど離した位置から風を当てる。手をかざしてみたが、熱くない。大丈夫そうだ。

 コームで毛をとかしながら、乾かしていく。タオルドライで充分なくらい乾かしたが、濡れていると良くない。嫌がっている様子もないし、きちんとドライヤーで乾かしておこう。


「……ドライヤーってこんなにうるさかったか?」
「ああ、猫は聴覚が良いですから。音がよく聞こえるのかもしれません」
「そうなのか」


 さっきよりもドライヤーを離して風を当てる。少しはうるさくないと良いのだが。一番静かなモードでかけていても、猫にとってはうるさいようだし、早く乾かしてあげなければ。

 一、二分経つと、毛はすっかりもふもふに戻っていた。

 乾かすのはこれくらいで良いだろう。ドライヤーのスイッチを切って、その場に置く。


「終わりましたよ、ライル様」
「おお、終わったか!」
「ええ。洗ったら綺麗になりましたね」


 毛並みが艶々している。毎日ブラッシングをしている。だから普段も毛並みは良いはずなのだが、シャンプー後はより美しい毛並みになっていた。


「猫になってから一度も風呂に入っていなかった分、気持ちよかったぞ」
「あら、良かったですわ」
「また入りたいくらいだ」
「そうですか。ですが、入るとしたらだいぶ先ですよ」
「えっ、なぜだ?」
「猫はあまり頻繁にお風呂に入るのは良くないのです」
「そうなのか……残念だ」


 短毛種なら年に一、二回。長毛種なら月一回。それくらいが妥当だと言われている。ライルは短毛種だから、当分の間は必要ないだろう。


「次にお風呂に入るよりも先に、人間に戻っていると思いますよ」
「……そうだといいのだがな……」


 含みのある言い方だった。断定はできないし、希望的観測なのは分かっている。だから、ライルも願望以上の物言いはしなかったのだろう。

 手を伸ばしライルを撫でた。ふわふわの毛が手のひらを包む。顔を上げたライルと私の視線が交わる。

 何も言わずにライルは微笑み、私も微笑み返した。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】あなたから、言われるくらいなら。

たまこ
恋愛
 侯爵令嬢アマンダの婚約者ジェレミーは、三か月前編入してきた平民出身のクララとばかり逢瀬を重ねている。アマンダはいつ婚約破棄を言い渡されるのか、恐々していたが、ジェレミーから言われた言葉とは……。 2023.4.25 HOTランキング36位/24hランキング30位 ありがとうございました!

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

私だってあなたなんて願い下げです!これからの人生は好きに生きます

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のジャンヌは、4年もの間ずっと婚約者で侯爵令息のシャーロンに冷遇されてきた。 オレンジ色の髪に吊り上がった真っ赤な瞳のせいで、一見怖そうに見えるジャンヌに対し、この国で3本の指に入るほどの美青年、シャーロン。美しいシャーロンを、令嬢たちが放っておく訳もなく、常に令嬢に囲まれて楽しそうに過ごしているシャーロンを、ただ見つめる事しか出来ないジャンヌ。 それでも4年前、助けてもらった恩を感じていたジャンヌは、シャーロンを想い続けていたのだが… ある日いつもの様に辛辣な言葉が並ぶ手紙が届いたのだが、その中にはシャーロンが令嬢たちと口づけをしたり抱き合っている写真が入っていたのだ。それもどの写真も、別の令嬢だ。 自分の事を嫌っている事は気が付いていた。他の令嬢たちと仲が良いのも知っていた。でも、まさかこんな不貞を働いているだなんて、気持ち悪い。 正気を取り戻したジャンヌは、この写真を証拠にシャーロンと婚約破棄をする事を決意。婚約破棄出来た暁には、大好きだった騎士団に戻ろう、そう決めたのだった。 そして両親からも婚約破棄に同意してもらい、シャーロンの家へと向かったのだが… ※カクヨム、なろうでも投稿しています。 よろしくお願いします。

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

処理中です...