220 / 240
第4部 手負いの獣に蝶と花
第11話 複雑な兄弟愛
しおりを挟む
「なるほどね……そもそも男に抱かれることに嫌悪感を抱いているかもしれないし、それが許容できても兄を慕っている可能性があると……」
ルークの言葉にバーンスタイン卿は少し頭を下げた。きっと僕に望みがない回答しか述べられなくて考え込んでいるのだろうと思う。
「カミルはお互いの自己紹介をした時に、真っ先に僕の兄弟について質問しました。家名の継承について話していたので自然な流れでしたが……兄になにか思うことはあるのかと」
「残された唯一の家族ともなれば、そこに特別な愛がなくても、戻ってきてほしいと願うのは当たり前のことだとは思う。ブラウアー家は兄2人がルイスを愛しているが、長男は次男を他の男の練習台に差し出すくらいだしな」
ジルがルークを見ながら笑って話す。さっきジルの貞操を守ろうと立ちはだかったルークを見た後だから笑える冗談だった。
「兄は探せないかもしれないが、その商売とやらはやめさせなければな。これはテオの心情を慮って言っているのではない。そういった常軌を逸した斡旋は犯罪の温床になっているんだ」
ルークは苦々しい表情で俯く。それだけではカミルの心を救済できないことを前提にした苦渋の決断だからだ。
「訪問時にテオは客とすれ違ったと言ったな。そいつを締め上げて斡旋した人物を吐かせるのはどうか?」
バーンスタイン卿が事態を好転させようと提案をした。しかしルークの顔は益々曇る。
「なるほどな。しかし同意があるとはいえ犯罪ギリギリの組織だぞ。締め上げたくらいで口を割るとは思えんし、我々にそんな権限もないからな……ジル、こういうの得意だろう?」
「提供者と装って近づくか、別の斡旋元に興味を抱かせるかしかないのではないか? 基本的に常識的感覚が麻痺した変態野郎は、自分の趣味に利のある動機でしか動かせない」
「メルヒャー卿と同じってわけか……」
ルークの呟きに、バーンスタイン卿の表情が一気に固くなる。それを見たルークが小さく謝罪を述べた。
「そういえば、すれ違った時になんだか気味の悪いことを言われました。あまりに不愉快で今まで忘れていましたが、僕を子どもと勘違いしたのか……端的にまとめると、優しく抱いてやるから一晩どうだ? と」
ルークが吹き出して笑い転げる。
「テオはなんて返したんだ?」
「家名を尋ねたら、舌打ちして去りました」
「テオに演技の才覚は……ないな……あんな大きな獲物を狙う男なんだ……ははは!」
ルークがなぜそんなに笑うのか分からなかったが、突然なにかに気づき真顔になった。
「おい、ここにそんな演技ができる奴はいないじゃないか……」
全員が全員の顔を見合わせる。確かに男を口説き落とすことが専門で、男を誘惑する演技ができるように思えなかった。
そこから経験者による誘惑エピソードをかき集めてみたが、バーンスタイン卿は裸が好きだの一点張り、ブラウアー兄弟は弟ルイスの特徴を述べるばかりで、汎用性が全くなかった。
話の筋書きは決まっていた。同じような商売をしたいから、客を紹介してもらうのはどうしたらいいか、という展開に持っていけばいい。しかしこれは結末でありそれまでの筋書きが一切描かれていないのだ。
時計の鐘が鳴る。夜もいい時間だった。
「皆さん……別の案を考えましょう。失敗するだけならまだしも、カミルに被害が出てしまう恐れもあります」
「いや! 明日まで待ってくれ! 今日ルイスに誘惑してもらってみる! アシュレイも裸以外のことを学べ!」
エピソードが無かったことが悔しいのかルークは今までにない真剣な声で喚き散らす。ここで今日はお開きとなり、ブラウアー兄弟はルイスを連れて帰り、僕は駐屯地の宿舎に戻った。
ルークの言葉にバーンスタイン卿は少し頭を下げた。きっと僕に望みがない回答しか述べられなくて考え込んでいるのだろうと思う。
「カミルはお互いの自己紹介をした時に、真っ先に僕の兄弟について質問しました。家名の継承について話していたので自然な流れでしたが……兄になにか思うことはあるのかと」
「残された唯一の家族ともなれば、そこに特別な愛がなくても、戻ってきてほしいと願うのは当たり前のことだとは思う。ブラウアー家は兄2人がルイスを愛しているが、長男は次男を他の男の練習台に差し出すくらいだしな」
ジルがルークを見ながら笑って話す。さっきジルの貞操を守ろうと立ちはだかったルークを見た後だから笑える冗談だった。
「兄は探せないかもしれないが、その商売とやらはやめさせなければな。これはテオの心情を慮って言っているのではない。そういった常軌を逸した斡旋は犯罪の温床になっているんだ」
ルークは苦々しい表情で俯く。それだけではカミルの心を救済できないことを前提にした苦渋の決断だからだ。
「訪問時にテオは客とすれ違ったと言ったな。そいつを締め上げて斡旋した人物を吐かせるのはどうか?」
バーンスタイン卿が事態を好転させようと提案をした。しかしルークの顔は益々曇る。
「なるほどな。しかし同意があるとはいえ犯罪ギリギリの組織だぞ。締め上げたくらいで口を割るとは思えんし、我々にそんな権限もないからな……ジル、こういうの得意だろう?」
「提供者と装って近づくか、別の斡旋元に興味を抱かせるかしかないのではないか? 基本的に常識的感覚が麻痺した変態野郎は、自分の趣味に利のある動機でしか動かせない」
「メルヒャー卿と同じってわけか……」
ルークの呟きに、バーンスタイン卿の表情が一気に固くなる。それを見たルークが小さく謝罪を述べた。
「そういえば、すれ違った時になんだか気味の悪いことを言われました。あまりに不愉快で今まで忘れていましたが、僕を子どもと勘違いしたのか……端的にまとめると、優しく抱いてやるから一晩どうだ? と」
ルークが吹き出して笑い転げる。
「テオはなんて返したんだ?」
「家名を尋ねたら、舌打ちして去りました」
「テオに演技の才覚は……ないな……あんな大きな獲物を狙う男なんだ……ははは!」
ルークがなぜそんなに笑うのか分からなかったが、突然なにかに気づき真顔になった。
「おい、ここにそんな演技ができる奴はいないじゃないか……」
全員が全員の顔を見合わせる。確かに男を口説き落とすことが専門で、男を誘惑する演技ができるように思えなかった。
そこから経験者による誘惑エピソードをかき集めてみたが、バーンスタイン卿は裸が好きだの一点張り、ブラウアー兄弟は弟ルイスの特徴を述べるばかりで、汎用性が全くなかった。
話の筋書きは決まっていた。同じような商売をしたいから、客を紹介してもらうのはどうしたらいいか、という展開に持っていけばいい。しかしこれは結末でありそれまでの筋書きが一切描かれていないのだ。
時計の鐘が鳴る。夜もいい時間だった。
「皆さん……別の案を考えましょう。失敗するだけならまだしも、カミルに被害が出てしまう恐れもあります」
「いや! 明日まで待ってくれ! 今日ルイスに誘惑してもらってみる! アシュレイも裸以外のことを学べ!」
エピソードが無かったことが悔しいのかルークは今までにない真剣な声で喚き散らす。ここで今日はお開きとなり、ブラウアー兄弟はルイスを連れて帰り、僕は駐屯地の宿舎に戻った。
0
お気に入りに追加
489
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
どのみちヤられるならイケメン騎士がいい!
あーす。
BL
異世界に美少年になってトリップした元腐女子。
次々ヤられる色々なゲームステージの中、イケメン騎士が必ず登場。
どのみちヤられるんら、やっぱイケメン騎士だよね。
って事で、頑張ってイケメン騎士をオトすべく、奮闘する物語。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
巨人族の1/3の花嫁〜王様を一妃様と二妃様と転生小人族の僕の三妃で幸せにします〜〈完結〉
クリム
BL
一回めは処刑された老臣、二回めは鬼教官、三回めは教師、そして四回めの転生は異世界で小人族ですか。身長一メート僕タークは、御信託で巨人族にお嫁入りです。王様はどう見ても三メートルはあります。妖精族のソニン様、獣人族のロキと一緒に王様になりたてのガリウス様を幸せにします。まず、王様のイチモツ、入りますかね?
三人分の前世の記憶と、豆知識、そして貪欲な知識欲を満たすため、異世界王宮改革をしていく三妃タークの物語。
※はご高覧注意です。
『小説家になろう』にも同時連載。
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる