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3部 王のピアノと風見鶏
第30話 リアムの風見鶏
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ピアノを弾くときこんなに気持ちが暴れるのは初めてだった。研ぎ澄まされた集中力が原因か、それともいつも目を逸らし続けた風景を直視しているのが原因かは、わからない。ただ、あの風景と時間を恋しがり、そう思う心を知ってもらいたかった。
マリーのピアノの音が重なった気がした。マリーは運命に翻弄されながらも、自分の納得のいく人生を歩いていた。だからあんなにも美しく幸福な音色だったのだ。
王の心を揺さぶっているのがわかる。俺は自分を知ってもらいたかったのだ。バーンスタイン卿の父に似ているからではなく、薄暗くも希望を抱き歩いてきた俺自身を、知ってもらいたかった。
最後の一音が倍音と共に響き渡り、俺の犬のような呼吸音がそれに混ざってしまう。でも俺が見た真実を全て曝け出すことができた。
「マアム」
王が呟いた言葉に戦慄し、鍵盤から顔をあげられない。
「しかし曲名はもっと一般的な方がいい。夜に吹く冷たい風も、星の流れる様も、なにもかも美しい曲だ。あの風見鶏を呼んでいるのか?」
息が苦しくて、目頭が熱い。短い息を何度かしたら王の手が俺の頭を包む。その拍子に鍵盤に涙をボタボタと落としてしまった。
王に触れるなといいながら、自分から触れるのは手前勝手だと思い、今までずっと我慢してきた。今ならそれがよくわかる。でももう心が千切れてしまいそうで、自分の勝手を堰き止められなかった。
王の胸に顔を埋め、背中に手を回す。マリーや、マリーの名付けた風見鶏は、俺の生き方一つで消えもするし残りもする。マリーは本意でなかったかもしれない。でも俺はあの風景を愛おしいと感じる。そして、それを美しいという王を愛おしいと思っている。
肩をガタガタ震わせ、王の冷たい胸に顔を擦り付ける。もっともっと深くまで触りたかった。俺はなぜ、ノアに愛しているというスペルを習わなかったのだろう。
急に王が俺を引き剥がし、そして涙を唇で拭う。俺はその唇が下ってくるのを待ち望んだ。でも涙がとめどなく溢れて、その願いは叶わない。だから俺は王の髪の毛を少し掴んで下にひっぱった。そうでもしなければ王を引き寄せることなどできなかった。
王は、俺の唇をその大きな口で覆う。俺が髪の毛を手繰り寄せると、王が両手で顔を包み、親指が口に差し込まれた。
口を開くと指ではなく、熱い舌が口内に入り込んでくる。それが俺の舌先を掬ったとき、脳に響く甘い快感が、全身に痺れをもたらした。
王に導かれるまま、もっと深く、もっと奥にと求めるうちに、甘い疼きが下半身から迫り上がってくる。恥ずかしさからそれを隠そうと手を下ろしたとき、王は唇を剥がして俺を担ぎ上げた。
俺をベッドに沈め、王が覆いかぶさる。俺はまだ足りないと、王の髪を掴んで何度かひっぱった。
「リアム、大切にする」
俺は必死に王の名を呼び、愛してると伝える。
「お前を支配している名は本当にそれか?」
俺は何度も何度も、王の名を呼び、髪をひっぱる。王は見かねて、俺の唇にキスを落とした。
「ああ、あの可愛い声をまた聴きたい。リアム、俺の名を呼んでくれ。お前を支配しているのは俺だと、お前の口から聴きたい」
王は俺の名を何度も何度も呼び、俺の口の中を求めた。それでも足りないと髪をひっぱると、王は嬉しそうに近づいて何度でもキスをくれた。
王を愛したい。でも俺は男の愛し方をよくわかっていなかった。
マリーのピアノの音が重なった気がした。マリーは運命に翻弄されながらも、自分の納得のいく人生を歩いていた。だからあんなにも美しく幸福な音色だったのだ。
王の心を揺さぶっているのがわかる。俺は自分を知ってもらいたかったのだ。バーンスタイン卿の父に似ているからではなく、薄暗くも希望を抱き歩いてきた俺自身を、知ってもらいたかった。
最後の一音が倍音と共に響き渡り、俺の犬のような呼吸音がそれに混ざってしまう。でも俺が見た真実を全て曝け出すことができた。
「マアム」
王が呟いた言葉に戦慄し、鍵盤から顔をあげられない。
「しかし曲名はもっと一般的な方がいい。夜に吹く冷たい風も、星の流れる様も、なにもかも美しい曲だ。あの風見鶏を呼んでいるのか?」
息が苦しくて、目頭が熱い。短い息を何度かしたら王の手が俺の頭を包む。その拍子に鍵盤に涙をボタボタと落としてしまった。
王に触れるなといいながら、自分から触れるのは手前勝手だと思い、今までずっと我慢してきた。今ならそれがよくわかる。でももう心が千切れてしまいそうで、自分の勝手を堰き止められなかった。
王の胸に顔を埋め、背中に手を回す。マリーや、マリーの名付けた風見鶏は、俺の生き方一つで消えもするし残りもする。マリーは本意でなかったかもしれない。でも俺はあの風景を愛おしいと感じる。そして、それを美しいという王を愛おしいと思っている。
肩をガタガタ震わせ、王の冷たい胸に顔を擦り付ける。もっともっと深くまで触りたかった。俺はなぜ、ノアに愛しているというスペルを習わなかったのだろう。
急に王が俺を引き剥がし、そして涙を唇で拭う。俺はその唇が下ってくるのを待ち望んだ。でも涙がとめどなく溢れて、その願いは叶わない。だから俺は王の髪の毛を少し掴んで下にひっぱった。そうでもしなければ王を引き寄せることなどできなかった。
王は、俺の唇をその大きな口で覆う。俺が髪の毛を手繰り寄せると、王が両手で顔を包み、親指が口に差し込まれた。
口を開くと指ではなく、熱い舌が口内に入り込んでくる。それが俺の舌先を掬ったとき、脳に響く甘い快感が、全身に痺れをもたらした。
王に導かれるまま、もっと深く、もっと奥にと求めるうちに、甘い疼きが下半身から迫り上がってくる。恥ずかしさからそれを隠そうと手を下ろしたとき、王は唇を剥がして俺を担ぎ上げた。
俺をベッドに沈め、王が覆いかぶさる。俺はまだ足りないと、王の髪を掴んで何度かひっぱった。
「リアム、大切にする」
俺は必死に王の名を呼び、愛してると伝える。
「お前を支配している名は本当にそれか?」
俺は何度も何度も、王の名を呼び、髪をひっぱる。王は見かねて、俺の唇にキスを落とした。
「ああ、あの可愛い声をまた聴きたい。リアム、俺の名を呼んでくれ。お前を支配しているのは俺だと、お前の口から聴きたい」
王は俺の名を何度も何度も呼び、俺の口の中を求めた。それでも足りないと髪をひっぱると、王は嬉しそうに近づいて何度でもキスをくれた。
王を愛したい。でも俺は男の愛し方をよくわかっていなかった。
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