幽閉塔の早贄

大田ネクロマンサー

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2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木

第45話 学友(アシュレイ視点)

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傭兵が落とされる音に混じり、茂みの奥から馬の嘶きが聞こえた。一際血を抜かれた感覚がした時、奥から1人の貴族が茂みから引きずり出された。

「レオ!」

ルークの叫び声に王が反応する。

「なんだ? 知り合いの貴族か?」

ルークはさっき殺されかけたとも言えないのか、黙ってしまったので、ジルが代わりに答えた。

「私のかつての学友にございます、陛下」

王は一層俺の血を抜き、レオを宙に浮かせた。

「この貴族以外の傭兵を捕らえ、駐屯地に移動せよ! 隣国の客人だ! 礼節をもって捕虜としろ!」

その情報にここにいた者は全員驚いたが、よく考えれば、この国に庸人の傭兵など数少ない。今地面にひれ伏す傭兵はざっと数えて100人はいる。

王の号令で、衛兵たちが動き出す。ブラウアー兄弟もそれに続こうとした時、王が呼び止めた。

「ブラウアー兄弟! この者との経緯を簡潔に話せ!」

少しの間があった後、ジルが再び口を開いた。

「レオ=キルステン! メルヒャー卿を収監している監獄の領主、そして先日、秘密裏にメルヒャー卿との面会を融通してもらった。メルヒャー卿ならば謀反を企む貴族とも繋がりがあると踏んだ。しかし!」

ジルがすごい音量で話していたが途中で言葉を切った。なぜかルークが緊張し、地面を踏みしめる。

「メルヒャー卿を利用していたのは、レオ、貴様だった。メルヒャー卿と共謀し、あらかじめ用意してあった虚言でやり過ごそうとしていたが、メルヒャー卿の裏切りにより、口封じのためルークを誘惑した!」

今度はルイスがたじろぎ、じゃりっと地面を擦る音が響き渡った。

「ジル、やめろ。私の本意で、誘惑などされていない」

「貴様……! この期に及んでまだそんなことを……!」

「なんにせよ、レオはこうしてまだ利用されている。レオ、この作戦に魔人の関与はできない。文官であるヴァイツ卿なら言い訳もつくだろう。だがレオは言い訳が立たない。最後は口封じで消されると分かっていながら、なぜここに来たのだ?」

ルークの優しい声であたりが一気に静まり返った。

「レオ、お前に指示を出した貴族の名を全て言うのだ。投獄されても私は……」

ルークの言葉を遮り、高笑いが響き、レオから炎が吹き出した。慌ててジルが魔法剣で炎を両断する。俺たちの横を2つに分かれた炎が走り抜けた。

「相変わらずの偽善に反吐が出そうだ! まだ僕をかわいそうな子だと思っているのか!? いい加減にしろよ、気味が悪い!」

その言葉に、ルークが何かを言おうとした。しかしその口をジルが塞ぎ、そのまま飛び上がる。王はなぜかレオを浮かせていた力を抜いた。だからジルはそのまま振りかぶった剣でレオの首から腰にかけて切りつけた。

「ルークは俺のものだ。勘違いするな。気色悪い」

今までのジルからは考えられないような無慈悲な言葉に、王を除く全員が戦慄する。レオはほぼ即死だった。

「陛下。丁度駐屯地に、首謀者の1人クルト=ヴァイツ卿を捕獲しております。他の共謀者については必ず吐かせますので……」

剣についた血を払い、王に向き直ったジルが動きを止めた。

「わかったわかった。まったく、血の気の多いのはアシュレイだけではなかったな」

王はしがみついていたルイスの目を手で覆っていた。ジルはその様子を見て、ひどく狼狽する。

「も、申し訳ございません……」

ジルがか細い声を上げると、王はため息をついて、言い放つ。

「ルイスに免じてこの件は目を瞑ろう。ノアの能力を見た者は、ルーカス、ジルベスタ、ルイス、それにアシュレイだけか?」

王の問いに、ルイスが目隠しされたまま返事をする。

「では全員、中に入れ。ブラウアー兄弟、予想外にアシュレイの魔力を使ってしまったから、担いでやってくれ」

王の言葉で、ジルは俺の元へやってきたが、ルークはその場から動けずにいるようだった。そこにジルの大声が響き渡る。

「お前は俺とルイスのものだ! はやく立て!」

ジルに首根っこ掴まれる形でルークは俺のところまでやってきた。終始俯いていたので、俺も彼と目を合わさないように顔を背けた。

ブラウアー兄弟に両肩を担がれる。ようやく血が流れ出る感覚が止まったので、俺は1番気になっていたことを口にした。

「ヴァイツ卿を……」

「お前は人の話もまともに聞けんのか? お前が行ったところで殺してしまうだけだろう。ヴァイツ卿は明日でいい。それに出征要請を出した貴族には、オットーが手配をしている」

また出てきたオットーの名に、俺は少し声を漏らしてしまう。それを聞いた王が面倒そうに振り返り、ため息まじりに言った。

「謀反は防いだ。終わったのだ。よくここまでたどり着いてくれた」
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