幽閉塔の早贄

大田ネクロマンサー

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2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木

第25話 ジルの要望(ルイス視点)※

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ジルとルークの出征は明後日だったが、明日の夜に無理はさせられない。だから僕は今日の夜2人にうんと甘える予定だった。兄様たちは心配事があって夜に学友の屋敷に訪問すると言っていた。だから僕は兄様たちが帰ってくるまでに万全の準備をして待っていた。

玄関が開け放たれる音がする。足音は1人だけで多分ジル。いつもだったら真っ先に僕の部屋に来るのに、今日は別の部屋に行ってしまった。

いつもならもう寝る時間だ。だから少しでも兄様たちに愛される時間がほしくて、夜着を脱いで毛布を被った。

僕の部屋の戸がコッソリ開く音で目が覚める。いつの間にか寝てしまっていたらしい。慌てて体を起こして目を凝らすと、扉に立っているのはジルだけだった。

「ジル……ルークは?」

「ああ、そのことでルイスにお願いがあってな。少しいいか?」

兄様たちは僕が寝ていればいつも起こさずにキスだけをして去る。結果寝てしまったが、今日眠気を堪えていたのはそういう理由だった。なのにこんな時間から話があるという。僕は少し緊張して、ジルが近づいてきたら手を握った。

「さっきも少し協力をお願いするかもしれないと言っていたが、いよいよ人手が足りなくなってな。俺とは別行動でルークも調査に向かってもらっている。ルイスにも危険を承知で明日お願いしたいことがあるのだ」

僕は寝ぼけた頭でなにを心配していたかわからないが、ジルの言葉に安堵した。忙しいならば仕方がないし、頼ってもらえることなど今までなかったからだ。

「なんでも申し付けてください」

「宮中で火種があって、今回の出征が陽動の可能性がある。ルイスは宮殿に出入りするようになってもう半年だ。明日宮殿に赴き、ルイスが知り合った衛兵や文官に、王の行動や予定について不審な点がないか聞き出してほしい。王の予定が急に変わったとか、些細なことでいいのだ」

「明日は、ジルも宮殿に赴かれるのですか?」

「いいや、兄様たちもルイスもそれぞれ別行動だ。これで何もなければ兄様たちはそのまま出征してしまうが……」

「わかりました。僕がどれほど役に立つかわかりませんが、兄様たちのお役に立ちたいです」

舞い上がってジルに近づこうとしたら、埃が立ったのかくしゃみをしてしまった。

「ルイスは今日は……」

ジルが僕の裸を見て、聞きづらそうにしている。ジルはルークに気をつかって1人で僕を抱かないし、明日も早くから用事があるのに僕からルークを待っていようとも言えなかった。僕は慌てて適当な嘘をつく。

「今日は寒かったので長風呂をしたら、湯当たりしてしまって、さっきまで裸で横になってたのです。そうしたらウトウトしてしまって……」

我ながら自然な嘘だと思った。仕上げにジルの罪悪感を取り払わなければ。

「ジル、ルークの分もおやすみのキスをしてください」

僕は毛布を掛けながら、ベッドに沈み込んでいく。額にキスをしてくれるのを待っていたら、ジルは僕の胸に手をつき黙り込んでしまった。

「兄様?」

ジルはゆっくり近づいてきたから、僕は目を閉じて枕に沈み込んだ。でも、キスは額ではなく唇にひっそりと落とされた。何度か怯えるように僕の唇に触れたかと思ったら、ジルは低い息を吐きながら、僕の唇をこじ開ける。

ジルの唇も舌も少し震えていた。僕はさっきの嘘がバレたのだと感じ、目を見開いた。

「兄様、無理をしないでください。明日も早いのでしょう?」

ジルはまた黙って顔を背けた。

「兄様だけでは……ダメか……?」

僕は驚きで背筋が伸びきってしまう。ダメも何も、ルーク不在で寂しそうな顔をするのは、いつもジルの方だ。

ジルは僕の言いかけた言葉を唇で遮って、自分の服を脱ぎさる。僕の疑問を封じるように、情熱的なキスで僕を犯していく。そうして、枕の下からいつもの軟膏を取り出し自分自身に塗り込めてた。

「ジ、ジル……」

少しも怯えがなかったかと言えば嘘になる。ジルの様子が普段からは考えられないくらいおかしかった。でもジルは優しい。僕の僅かな感情の起伏を感じ取ったのだろう。

「兄様だけでは……嫌か……?」

さっきと同じことを復唱するその声は、ひどく悲しく聞こえた。ジルは出征に怯えているのか、それともルークが今日は絶対に帰ってこないからなのかはわからない。でもその心の底から滲み出る声色に胸がギュッとなって、僕が涙声になってしまう。

「ジル……」

ジルは再び口を塞ぎ、そしてジルの剥き出しの欲望が僕の体を貫いた。僕やルークの顔色を窺い、与えることに特化したいつもの愛情表現とは全く違う。激情をそのままぶつけられているみたいだった。

ジルは僕の声が弱点だという。だからだろう、今日は始終口を塞がれ息さえさせてもらえなかった。腰が浮くほど突き上げられ、僕が吐精をしようとおかまおいなしだった。

今までどれだけのことを我慢させていたのだろう。そう思わずにはいられないほどだった。ジルの中にこんな激情が眠っているなんて、この日まで僕は知らずにいたのだ。
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