84 / 240
2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木
第3話 ルークの訪問
しおりを挟む
悪魔はあんなに急げと僕を捲し立てたのに、この朝、ルイスの出勤はいつもより遅かった。
お腹が空いたので台所にあったパンを一切れ頬張った時に、扉が勢いよく開け放たれる。僕はびっくりしてパンを落としてしまった。
「ノア、遅くなってごめん」
僕はルイスが遅刻をしたことよりも、急に扉が開いたことの方がびっくりしたと伝えると、ルイスは力ない笑顔で謝った。そして笑った拍子に顔をくちゃくちゃにして泣きはじめた。
僕は慌てて駆け寄り抱きしめる。ルイスはその腕の中で、アシュレイの父上がこの世を去ったことを告げた。
僕はルイスを抱きながら、呆然と時を過ごしてしまい、彼が泣き止むまでの時間がどれほどのものだったのかわからなかった。ただ、兄様たちが葬儀の手伝いに向かっていて、後にルイスが交代でアシュレイの元に向かうことだけはわかった。
気がつけばルークが扉を叩いて塔に入ってきて入れ違いでルイスが出て行く。それらを自分の目で見ていないかのような感覚で通り過ぎていくのを待つ他なかった。
「ノア、大丈夫か?」
ルークが僕を顔を覗き込む。頭を撫でた手でそのまま頬を撫でたら、ルークは慎重に口を開いた。
「アシュレイから伝言を預かっている。兄様と一緒にこれを聞いてくれるか?」
声を出すと、いろんなものが溢れ出しそうだったので、コクリと頷いた。
「いい子だ。アシュレイにノアを担いでいいと了承を得ている。ここではなんだから、上にあがろう」
ルークは、いとも簡単に僕を抱え上げて、階上まで移動した。僕を抱えたままルークはベッドに座り、しばらく僕の背中を撫でている。
「アシュレイはしばらく塔には来れない。だから兄様に伝言を託したんだ。伝言は短いが、それが全てだ」
僕はその言葉にルークの顔を見上げた。
「俺は十分に孝行をした。ノアのおかげだ。決して自分を責めないでほしい」
ルークは僕の瞳をまっすぐ見て伝えてくれた。そして続ける。
「ここからは兄様の主観だけど、アシュレイは悲しんでいたけど、晴れやかだった。ノアを心配する余裕があるくらいに、しっかり父君の死を受け止めていた。ノアのおかげって言葉。兄様もそう思っているよ」
僕はルークの言っている意味がわからず、ぼんやりと見つめ続けてしまう。
「ノア、ここからはやや現実的な話になるけど、ここのしきたりでは例え家族の葬儀でも塔を出ることはできないんだ。アシュレイを心配する気持ちはわかる。彼もよくわかっているから兄様に伝言を頼んだ。それはわかるね?」
それは分かるとコクリと頷いた。
「葬儀に出れないことを蚊帳の外だと思ってはいけないよ。ノアがそう思うことをアシュレイは1番恐れているんだ」
もう一度僕は頷いた。
ルークはその後僕の理解を確かめることもなく、ただ優しく背中を撫で続けてくれた。
だからどうしても気になっていたことを聞いた。
「お父様は……苦しまずにこの世を去ったのでしょうか?」
ルークの撫でていた手が一瞬止まる。だから僕は怯えて体が固くなった。
「昨日までアシュレイと談笑をしていたそうだよ。ノアに会うまで頑張ると言っていたそうだ。アシュレイの母君に報告するためにね。今日の朝起こしに行って触るまで寝ているのだと思ったと言っていたよ」
「そうですか……」
「父君もきっとノアに感謝を述べたかったと思う。ノアを愛する前と後では、アシュレイの後悔は格段に違っただろう。それはノアには伝わったかな?」
「勿体ないお言葉……」
「ノアも頑張ったね」
不意に投げ込まれた労いの言葉に、僕は抗うことができず、涙してしまう。
「勿体なく存じます……」
「ほら、こっちへおいで」
ルークは息もできないほど僕を抱きしめた後、何度も何度も額にキスを落としてくれる。そうして、僕の気を逸らすためか、アシュレイとの昔話や、ルイスとジルの話をいっぱいしてくれた。
お腹が空いたので台所にあったパンを一切れ頬張った時に、扉が勢いよく開け放たれる。僕はびっくりしてパンを落としてしまった。
「ノア、遅くなってごめん」
僕はルイスが遅刻をしたことよりも、急に扉が開いたことの方がびっくりしたと伝えると、ルイスは力ない笑顔で謝った。そして笑った拍子に顔をくちゃくちゃにして泣きはじめた。
僕は慌てて駆け寄り抱きしめる。ルイスはその腕の中で、アシュレイの父上がこの世を去ったことを告げた。
僕はルイスを抱きながら、呆然と時を過ごしてしまい、彼が泣き止むまでの時間がどれほどのものだったのかわからなかった。ただ、兄様たちが葬儀の手伝いに向かっていて、後にルイスが交代でアシュレイの元に向かうことだけはわかった。
気がつけばルークが扉を叩いて塔に入ってきて入れ違いでルイスが出て行く。それらを自分の目で見ていないかのような感覚で通り過ぎていくのを待つ他なかった。
「ノア、大丈夫か?」
ルークが僕を顔を覗き込む。頭を撫でた手でそのまま頬を撫でたら、ルークは慎重に口を開いた。
「アシュレイから伝言を預かっている。兄様と一緒にこれを聞いてくれるか?」
声を出すと、いろんなものが溢れ出しそうだったので、コクリと頷いた。
「いい子だ。アシュレイにノアを担いでいいと了承を得ている。ここではなんだから、上にあがろう」
ルークは、いとも簡単に僕を抱え上げて、階上まで移動した。僕を抱えたままルークはベッドに座り、しばらく僕の背中を撫でている。
「アシュレイはしばらく塔には来れない。だから兄様に伝言を託したんだ。伝言は短いが、それが全てだ」
僕はその言葉にルークの顔を見上げた。
「俺は十分に孝行をした。ノアのおかげだ。決して自分を責めないでほしい」
ルークは僕の瞳をまっすぐ見て伝えてくれた。そして続ける。
「ここからは兄様の主観だけど、アシュレイは悲しんでいたけど、晴れやかだった。ノアを心配する余裕があるくらいに、しっかり父君の死を受け止めていた。ノアのおかげって言葉。兄様もそう思っているよ」
僕はルークの言っている意味がわからず、ぼんやりと見つめ続けてしまう。
「ノア、ここからはやや現実的な話になるけど、ここのしきたりでは例え家族の葬儀でも塔を出ることはできないんだ。アシュレイを心配する気持ちはわかる。彼もよくわかっているから兄様に伝言を頼んだ。それはわかるね?」
それは分かるとコクリと頷いた。
「葬儀に出れないことを蚊帳の外だと思ってはいけないよ。ノアがそう思うことをアシュレイは1番恐れているんだ」
もう一度僕は頷いた。
ルークはその後僕の理解を確かめることもなく、ただ優しく背中を撫で続けてくれた。
だからどうしても気になっていたことを聞いた。
「お父様は……苦しまずにこの世を去ったのでしょうか?」
ルークの撫でていた手が一瞬止まる。だから僕は怯えて体が固くなった。
「昨日までアシュレイと談笑をしていたそうだよ。ノアに会うまで頑張ると言っていたそうだ。アシュレイの母君に報告するためにね。今日の朝起こしに行って触るまで寝ているのだと思ったと言っていたよ」
「そうですか……」
「父君もきっとノアに感謝を述べたかったと思う。ノアを愛する前と後では、アシュレイの後悔は格段に違っただろう。それはノアには伝わったかな?」
「勿体ないお言葉……」
「ノアも頑張ったね」
不意に投げ込まれた労いの言葉に、僕は抗うことができず、涙してしまう。
「勿体なく存じます……」
「ほら、こっちへおいで」
ルークは息もできないほど僕を抱きしめた後、何度も何度も額にキスを落としてくれる。そうして、僕の気を逸らすためか、アシュレイとの昔話や、ルイスとジルの話をいっぱいしてくれた。
0
お気に入りに追加
495
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる